球場応援席ストーリー『球場ラヴァーズ〜私を野球につれてって〜』(写真左)&『球場ラヴァーズ〜だって野球が好きじゃけん〜』(写真右)(石田敦子/少年画報社)

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5月10日(土)、広島カープはマツダスタジアムでの中日戦で「関東カープ女子 野球観戦ツアー」を実施した。
参加者は応募総数2305人の中から選ばれた148名の「カープ女子」。入場券と昼食代のみ自己負担で、あとの東京〜広島の往復新幹線代は球団が負担するというカープの太っ腹企画だ。当日はシークレットゲストとして昨季限りで引退した球団アドバイザーの前田智徳氏も登場。伝説の男の姿に涙ぐむファンもいたという。

今季、ここまで首位を走る広島カープ。
その快進撃を支える存在として、最近何かと「カープファンの拡がり」が話題にあがることが多い。
なかでも象徴的に語られるのが「カープ女子」の存在だ。

でも、あるカープ女子は言う。
「カープ女子が増えたっていうけど…前から神宮も横浜も西武も 半分は赤かったよね〜」
発言の主は東京ドームでビールの売り子をしている女子大生・太田日南子。
『球場ラヴァーズ〜私を野球につれてって〜』最新3巻での一コマだ。

プロ野球を応援席とカープファンの視点で描く人気漫画シリーズ『球場ラヴァーズ』。
ある意味、どこよりも早く「カープ女子」にスポットを当てていた本シリーズの最新刊がこの春、2冊続けて刊行されている。

まずはラヴァーズシリーズ第2弾にあたる、上述の『球場ラヴァーズ〜私を野球につれてって〜』3巻。
シナリオライターになるという夢を目指して突っ走る、野球ど素人女子大生・太田日南子の物語は今巻で完結となる。

そしてもうひとつは、シリーズ第3弾『球場ラヴァーズ〜だって野球が好きじゃけん〜』2巻。
広島出身38歳。生まれたときからの生粋のカープファン・基町勝子が、仕事と恋と鯉に明け暮れる日々を描いていく。

収録されたエピソードは、どちらも2013年シーズンのもの。
やはり、2冊まとめ読みをオススメしたい。
ひとつの試合を異なるアングルから描くことで、野球という競技、そして球場という場が生み出す物語がより立体的に楽しめるはず。
巨人の応援席でプロポーズされた勝子を目撃する、バイト上がりの日南子。なんてファンなら嬉しくなるシーンも描かれている。

振り返れば、2013年シーズンはカープとカープファンにとって、様々な意味で分水嶺となる1年だった。
16年ぶりのAクラスと初めてのCS進出。
そして、生ける伝説・前田智徳の引退。
天国と地獄のような激しい落差は、カープファンじゃなくても胸が締め付けられる。

前田引退の報にふれ、「終わりが 本当にきた くるかなって思ってたけど 本当にきた」と沈む勝子。
むしろCS進出の喜びは一瞬。前田智徳の喪失は、深く長く、ファンの心に影を落とす。
それを日南子と勝子の2人がどう乗り越えていくのかが最大の見どころだ。

ただ、前田智徳が引退しても、カープの戦いはもちろんずっと続いていく。
そして日向子は気づく。「応援には先がある 応援する側がやめない限り 先の先の 先まで」と。

カープが戦い続けるということは、応援する側もまた立ち止まるわけにはいかないということ。
それを象徴するかのように、観戦仲間・みなみに新しい命が宿り、カープもまたドラフト会議でゴールデンルーキー大瀬良大地を引き当てる。
時代が変わり、選手が入れ替わりながらも、ずっと続いていくのがプロ野球の最大の価値であり、魅力なのだ。

同様に、ラヴァーズシリーズもこの春、新シリーズがスタートした。
シリーズ第4弾のタイトルは『こいコイ!〜球場ラヴァーズ〜』。
今度の主人公は中学生3人組だ。

23年ぶりの優勝に向けて突き進む今シーズンのカープ。
23年前なんてもちろん知らない14歳の主人公と、カープとともに23年分の人生を歩んできた今年39歳の基町勝子。
ふたつの物語は、カープの戦い同様に目が離せそうにない。
(オグマナオト)