Money3.0:PayPal社長にお金の未来を聞く
ReadWriteMixイベントで、PayPalの社長が自身の活動と会社の将来について語った。
デービッド・マーカスがPayPalの社長に就任する以前、同社のカスタマーサービスやイノベーションに対する評価は著しく低下していた。彼は会社を変えるためにどんなことをしているのか、辛辣な口調で語ってくれた。
「忙しくてソーシャルメディア上で顧客に返事をする時間が取れないと言っている重役をどう思いますか?」
「ありえないですね」と、マーカスは先週サンフランシスコで行われたReadWrite主催のイベント「ReadWriteMix」の檀上で私の質問に答え、さらに次のように語った。「会社を率いる立場であれば、自分のスケジュールぐらい自分で管理できるはずです。何が重要で何が重要でないか、きちんと把握しなくてはなりません。私にとっては顧客こそが最重要事項です。お客様が問題に直面しているのなら、それが誰であろうと真っ先に解決するのが我々の使命です。私は熱狂的にそう信じています。」
マーカスのツイッターを見れば、それが本当であることがすぐに分かる。率直ではっきりものを言い、ユーモアに溢れた彼の態度はステージ上でもソーシャルメディア上でも、個人的なチャットであっても変わることがない。
奮闘する社長
大企業eBay傘下にある決済代行企業の社長として、マーカスは前任者が残した山のような課題に取り組んでいる
「我々は会社の運用にあたって、何度か居眠り運転をしてしまったようだ。」と彼は言った。
PayPalは急激な成長を遂げており、マーカスの前任者達は年間1兆8000億ドルにのぼるトランザクションを処理するための巨大なインフラを構築するという功績を残している。だが過去の経営陣には色々と至らない点もあったようだ。マーカスはまず、エンジニアリングチームの編成に問題があって商品開発が迅速に行われていないことに気付いた。また、デベロッパー達はPayPalの提供するツールに対する不満を抱えており、小売業者や消費者も同社のサービスに満足していなかった。
マーカスは、こうした問題点を大幅に改善させた。現在PayPalのエンジニアたちは、ベンチャー企業から高い支持を受けている「アジャイルソフトウェア開発」という手法を導入している。また、小口の取引先やクラウドファンダーに対しても細やかな対応を行えるよう、カスタマーサービスの再教育も行った。デベロッパーに関する問題については、8億ドルかけてBraintreeを買収して同社のアプリケーション・プログラミング・インターフェースのデザインを取り込み、フレンドリーなコールセンターのスタッフを組織に組み入れた。
これらの問題を片づけることで、マーカスはようやくPayPal事業の未来について考えることができるようになった。PayPal事業の未来、すなわち「お金」の未来である。これについてマーカスは次のように述べている。
私の考えでは、現金がMoney1.0。プラスチックがMoney2.0。プラスチックとは、クレジットカードを主体とする、現在この国を支えている金融システムのことです。次がMoney3.0ですが、私にとってこれはモバイル…(省略)…最終的に、全てはモバイルに収束すると考えています。我々の狙いは、このモバイルをPayPalで担うことなのです。もちろん当分の間は現金も使われ続けるでしょうが、それは我々では変えることもコントロールすることもできない理由によるものでしょう。
マーカスは中小企業の顧客の元に何度も足を運んで彼らの需要を探り、その結果PayPal Beaconのような新製品が誕生したのだと明かした。PayPal Beaconとは、店内にいるPayPalアプリのユーザーを識別するためのデバイスで、ユーザーはレジで名前を告げるだけで決済を行うことが可能となる。
さらに、これまでは決済に銀行口座を利用することを強く推奨していたが、これを緩和した。同社にとっては口座決済のほうが手数料が少ないので利益率は高いのだが、一部の利用者からはあまり好まれていなかったのだ。
「私も常々、PayPalは無理やり口座決済を使わせようとしているなと感じていましたよ」とマーカスに言ったところ、「もうそういったことはありませんのでご安心ください。」とマーカスは答えた。これについて彼は次のように述べている。
私は、長期的な成功を収めたいなら消費者の意志に反することを強要すべきでないと考えたのです。消費者がやりたくないことはできません…(省略)…なぜなら消費者に嫌な思いをさせた場合は、いずれやり返されるからです。消費者には報復のチャンスが必ず訪れますし、彼らはそのチャンスを逃しはしないでしょう。
次世代の「お金」
将来的なモバイル決済への移行に向けて、PayPalは消費者や小売業者、デベロッパーの信頼を維持し続けなくてはならない。マーカスによれば、それは我々が思っているよりも早く訪れるだろうという。
彼の予想では、それは4年以内に起きる。「もしあなたがアメリカや西ヨーロッパやアジアの発達した都市部にお住まいなら、買い物をするのに財布を持ち歩く必要はなくなるでしょう」
既存の決済インフラも変わらなくてはならない。小売り大手Targeのハッキングによって1億人を超える顧客のクレジットカードやデビットカードの情報が流出している現状を考えれば、インフラの変更は必須だろう。
この被害にあった人たちがもしもPayPalを使って決済をしていれば(大手ホームセンターHomeDepotのような店舗では既に実現しているが、ディスカウントショップではまだ対応していない)、クレジットカード情報や暗証番号の流出は起こらなかっただろうとマーカスは言っている。
「我々は顧客の金融情報を一切小売業者に開示しません」と彼は説明する。「これは我々の基本方針なのです」
ICカードのような新システムでも口座情報を小売業者に開示しないようになっているが、この仕組みはモバイルアプリでは使えないのだという。そこでPayPalはVisaやMasterCard、American Expressらと提携して「トークン」を利用した別のアプローチを行っている。トークンとは、カード情報を隠しながらネットワークとやり取りを行うための短い文字コードを指す。
最後にBitcoinについても触れておこう。マーカスは2014年にはBitcoinはまだ本当の意味での通貨にはならないだろうと予測しており、それについて次のように解説している。Bitcoinは価格の変動が激しすぎるため、安定した価格を好む小売業者にとっては受け入れがたい。ただ、今後価格が落ち着いてくれて状況も変わるかもしれない(もしかしたら既に変わり始めているのかもしれない。先日、TigerDirectという電化製品の小売業者がBitcoinの取り扱いを開始したと発表した)。
マーカスによれば、今のところBitcoinはただの「素晴らしいプロトコル」にすぎないという。インターネットの基本的なプロトコル、TCP/IPのお金版というわけだ。PayPalがBitcoinを扱えるようになるためには、世界中の規制機関がその取り扱い方法を定めるまで待たなければならないだろうとマーカスは付け加えた。
マーカスのセッションのハイライトはこちらの動画から:
セッション全体はこちらの動画から:
マーカスにもっと質問がある方は、彼のTwitterアカウントにどうぞ。
Owen Thomas
[原文]