W杯対戦シミュレーション(1)コロンビア

 日本がグループリーグ最終戦で対戦するコロンビア。グループC、FIFAランキング最上位国(4位)の注目選手は、何といってもストライカーのファルカオ(モナコ)だろう。2部リーグのクラブではあったが、13歳と4ヵ月でプロデビューを果たし、その後アルゼンチンのリーベルプレートへ移籍しユースで実力を磨いた。

 2004年からトップチームに昇格し、5年間で45得点を挙げてヨーロッパへはばたく。ポルトとアトレティコ・マドリードでは、それぞれ1試合平均0.83と0.77という驚異の得点率でゴールを量産し、チームをリーグやカップ戦の優勝に導いた。今回の南米予選でも9得点をマークしランキング3位。しかも彼のゴールは試合を左右するような貴重なものが多く、ここ一番の勝負強さを誇るチームの大黒柱といえる。

 しかしコロンビアを98年フランス大会以来のW杯出場に導いた最大の功労者は、監督のペケルマンだ。彼はアルゼンチンのユース代表を率いて3度世界チャンピオンとなり、A代表の監督として06年ドイツ大会にも出場している。

 南米予選序盤で1分け2敗とつまずいたコロンビアは、彼に白羽の矢を立てて口説きに口説いた。ペケルマンは「代表監督になると、アルゼンチンと戦うことになるかもしれないので」という理由で20以上の国からのオファーを断ってきた。だが、熱意ある説得と、選手時代にプレイしたコロンビアが気に入っていたため、第5節から監督に就任することになった。

 規律とメンタルの強化によるチーム改造は功を奏し、13試合で9勝2分け2敗という好成績を残した。勝ち点率(1試合平均の獲得勝ち点)は2.23で、これは予選1位突破のアルゼンチンの2.00を上回っている。もし彼が初めから指揮を執っていれば、コロンビアが南米1位になっていたかもしれない。

 日本にとって運が悪いのは、ペケルマンが日本代表のことをよく知っていることだ。彼はコロンビア代表監督になるまで、カタールのテレビ局アルジャジーラの解説者だった。そのため、日本が優勝した2011年のアジアカップでザックジャパンを目の当たりにしている。それも通り一遍の見方ではない。大会が地元カタールでの開催だったので、アルジャジーラは総力を注いで取材し、ペケルマンも分かりやすく解説するため、各チームを徹底的に分析した。優勝までした日本は、丸裸に近い状態にされたはずだ。

 あれから時が経ち、日本も進化しているが、本質は変わっていないので、明らかに不利な状況といえる。抽選会後、ペケルマンは、「日本は高いレベルのチームで、W杯の常連だ。コートジボワールは若手世代だったすぐれた選手たちが経験を積み、アフリカで最も強いチームのひとつ。W杯に出てきたときのギリシャは、いつもタフなチームだ。フィジカルが強く、戦術もハードだ」と語り、グループCを「困難なグループだ」と評した。だが、その困難さは、コロンビアと戦わなければならない日本の比ではないだろう。

 選手に戻ると、日本がファルカオ以外にも警戒しなければならないのは、コロンビアの英雄バルデラマが「私の後継者だ」と太鼓判を押した攻撃的MFのロドリゲス(ASモナコ)。天才肌のテクニシャンだがパスセンスも高い。ファルカオとは所属クラブが同じで息も合っている。

 2トップの一角グティエレス(リーベルプレート)は、試合やクラブ内でトラブルを連発する問題児。その性格と同様、プレイスタイルも動物的で、さながら小型バロテッリ。日本の選手があまり対戦することのないタイプなので、戸惑うとことが多いだろう。

 そしてもうひとり忘れてならないのは、右SBのスニガ(ナポリ)。豊富な運動量で自陣から駆け上がり正確なクロスを配給し、ときには切り込んでシュートも放つ。彼のオーバーラップはコロンビアの重要な攻撃パターンだ。

 コロンビアは、意味のないような2〜3メートルのパスを多用してボールをキープし、これに相手は焦らされる。そしてカウンターが鋭い。自陣でパスを回し、相手全体を前がかりにさせる。そして一度奪われたボールを奪い返し(味方が近いので可能となる)、高速のカウンターでファルカオに届ける。日本がグループリーグ最終戦に勝たなければいけない状況であれば、コロンビアはこの作戦を多用するだろう。

 ファルカオへの経由点となるのは、やや左サイドに位置するロドリゲス。日本はこれを潰したい。となるとキーマンは、いざとなれば反則をしてでも止めなければならないボランチの長谷部誠になる。また通常の攻撃では、浮き駒のように右サイドで神出鬼没のプレイを見せるスニガの存在が大きい。長友佑都と同サイドになるので、彼らによるSB合戦が見どころでもあり、その攻防は試合の行方をも左右しかねない。

三村高之●文 text by Mimura Takayuki