アベノミクスで「構造政策」をどう進めていくべきか
構造政策は規制緩和策と競争政策に分けられるが、トップがよほど強力なリーダーシップを発揮しない限り、本当の意味で規制緩和を実現するのは大変難しいと考える。


前回の当連載で、「成長戦略に関しては、大きく言えばいわゆる新産業育成策と構造政策に分けられ(中略)、構造政策に関してはさらに規制緩和策と競争政策に分けられる」という話をしましたが、今回はこの構造政策と既得権益という観点から述べていきたいと思います。

まず規制緩和策の成否について現況を見て率直に申し上げるならば、今の自民党体制の中で規制緩和を強力に推進していくのはほとんど無理ではないかというふうに感じています。なぜかと言えば、あらゆる分野に蔓延する族議員たちの非常に激しい抵抗というものがあるからです。

改革においては、常に旧態依然としたものを守ろうとする人間が必死に抵抗してきます。江戸時代の水野忠邦の改革や中国(北宋)の王安石の改革など、歴史上で試みられた国の改革の多くは失敗に終わったわけですが、その改革を阻んだ主因は久しく続いた因習と、その中で既得権を有する者の抵抗であったと私は思っています。それゆえ、トップがよほど強力なリーダーシップを発揮する以外、本当の意味で規制緩和を実現させるのは大変難しいとみています。

規制緩和推進チームを創設するうえでは、第1にトップが将来の社会のために「こうしたほうがよいにちがいない」という理想、および「何としても成し遂げるんだ」という強い意志を持ち、その改革を実現する陣容をまずは閣僚の中にきちっとそろえなければなりません。民間からも胆識を持った人たちを引っ張り込み、そうした人の力をどんどん活用しながら、既得権益に左右されることなく国益を徹底追求しうるチームを編成せねばなりません。そのくらいの固い決意なくして、そう簡単に成就するような話ではないのです。

また、行政というのは自分たちの天下り先等の権益を確保し続けようとする力学が常に働く大組織ですから、行政改革ということを同時並行的に徹底推進していかねばなりません。行革担当相というポストが設けられてきましたが、何か意義ある成果が収められた話はほとんど聞かれなかったわけで、昔で言えば土光敏夫さんや加藤寛さんのような胆識を持った人が行革推進に務めねば、結局、改革の中身が骨抜きにされていく可能性は十分にあるということです。

次に競争政策に関して言うと、これは規制緩和策と一体化して進めていかねばならないことであり、その流れの中でTPPというものもあって、結果として競争政策の推進につながっていくことが大変重要だということを前回の連載でも述べました。TPPについて日本は交渉参加が遅すぎたがゆえに、今後の交渉の中で成果という成果を得ることはほとんど不可能ではないかとみていますが、そういう中で一番大事なポイントになるのは、相手国の立場もわきまえながら誠意を持って交渉するということだと思います。

「巧こう詐さ(うまく誤魔化すこと)は拙せっ誠せい(へたでも真面目)に如しかず」という韓非子の言葉もありますが、要するに交渉というのは相手もあることですから、誠実さが相手に伝わることが何よりも大事だと思っています。そういう意味でもTPPという多国間交渉において、農業分野という「例外」を要求することは相手に不利を受け入れさせることであり、その代償を与えねばならないわけですし、そもそも国民の経済的利益ということを考える場合、グローバリゼーションという既成事実の中で農業の生き方を摸索していく時代にあって「日本の農業が壊滅する」などという議論は問題外です。