日本シリーズ、北海道日本ハムファイターズ対読売ジャイアンツの第４回戦は、１対０でファイターズがサヨナラ勝利を果たした。　
　
　両軍無得点で迎えた延長12回、ファイターズは１死１、２塁のチャンスを作ると、打席には途中出場の飯山裕志。ジャイアンツのクローザー、西村健太朗の２球目を叩くと、打球は外野手の頭を越える２塁打。これで２塁走者が生還し、ファイターズが勝利した。　
　前の試合に続く連勝で、ファイターズが対戦成績を２勝２敗の五分に戻した。　
　　
　試合時間は４時間15分。この試合も前日に続き、４時間を越えるロングランになった。　
　この間、警視庁特命係の杉下右京警部が、新相棒の甲斐享巡査部長とともに事件を１件解決していたのだから、いかに試合が長かったかがわかる。　
　
　もちろん、両軍とそのファンには、試合時間など二の次、三の次。例えどんなに時間がかかろうと試合に勝利したいのだが、両軍に公平な野球ファンには、４時間ゲームは応える。野球好きを公言しているボクも、２試合続けての４時間ゲームには、まるで自分が試合に出場したかのように疲れた。　
　
　だが、選手やファン以上に疲れたのは審判員ではなかろうか。日本シリーズに出場する審判員は、実績豊富な方ばかり。プロ意識も高く、１球１球のプレーに神経を集中している。それだけに、４時間を越える試合での疲労は、われわれの想像以上だろう。　
　中には、いっこうに得点する気配のない両軍に、苛立ちを覚えていた審判員もいたかもしれない。　
　
　当ブログで幾度と無く紹介しているロン・ルチアーノ元審判員も、長い試合が嫌いだった。自伝「アンパイアの逆襲」（文春文庫）でも、「楽しかった現役時代、私を悩まし続けたたったふたつのこと、それが判定を下すことと、試合が長引くことだった」としている。　
　
　このコメントだけでその性格が分かると思うが、彼は試合が長引くのを防ぐための努力を惜しまなかった。試合終盤に負けているチームが同点に追いつかないように、打者にホームランを打たないように頼むこともしばしばあった。　
　そんな願いも空しく、スティーブ・ケンプという打者が３ランホームランで試合を振り出しに戻したことがあった。するとルチアーノ元審判員は、ホームインしたケンプの腕を思い切り引っ張り、「あれほどやめてくれって言ったじゃないか」と文句を言った。　
　
　審判歴の中で、最も長かった試合は、ある年のミネソタ・ツインズ対カリフォルニア・エンゼルス（現ロサンゼルス・エンゼルス）戦だ。試合は延長17回、終了までに４時間30分も要した。　
　しかも、ここまで長引いたのには、ルチアーノ元審判員にも原因があった。８回に下したジャッジがエンゼルスの勝ち越しのチャンスを奪っただけに、ルチアーノ審判員には痛恨の極みだった。　
　
　試合は同点のまま、延長回に突入。11回ぐらいになると、頭の中は冷たい飲み物でいっぱいになる。14回、今度は自分が冷たいプールの上に浮かんでいることを考え出す。　
　
　この頃になると、選手もふらふらだ。足を引きずっている選手も少なくない。ルチアーノ元審判員にとって、最も避けたいのは、選手が突かれきって得点できないことだ。　
　すると、ルチアーノ元審判員は選手にアドバイスを送るようになった。「いいか。次はもっと軽いバットを使えよ」「おい、セイフティ・バントを真剣に考えてみたらどうだ」。もはや審判というより、コーチだ。　
　
　試合は真夜中を過ぎて、ようやく終了。ルチアーノ元審判員は同僚と近所のバーに飛び込んだ。　
　バーではバーテンダーがどっちが勝ったのか尋ねてきたが、ルチアーノ元審判員は目を開けているのが精一杯。やがて、しゃがれきった声で答えた。「わからんが、とにかく接戦だったことだけは間違いないよ」。　
　
　審判員とは、本当に難儀な職業だ。