通常、細胞膜には流動性があり、膜分子は膜上を自由に動くことができるはずであることから、mGluRが突起に集まった状態を維持できる仕組みを明らかにするために、mGluRを量子ドットで標識し、その動きの追跡を行った。

結果、mGluRは細胞膜上を動くことはできるものの突起と細胞体の間をまったく移動できないことが判明した。

突起の真ん中にあるmGluRは、さまざまな方向に動けるが、細胞体付近にある場合は細胞体側へは動けなかったという。

つまり、突起と細胞体の間にmGluRに対する拡散障壁があることがこれにより判明したほか、mGluRの細胞内領域を強制的に発現することで拡散障壁を乗り越える環境を作り出し、人為的にmGluRが突起と細胞体の間を行き来できるようにした場合、mGluRはアストロサイト全体に均一に分布し、アルツハイマー病やてんかんなどの脳疾患で観察されたように細胞体からもCa2+シグナルが生じやすくなることも確認された。

これらのことから、アストロサイトはmGluRに対する拡散障壁を突起と細胞体の間に設けることで、突起部分に集中するmGluRを維持してCa2+シグナルを発生させやすくしていることが判明した。

この発見は、アストロサイトの突起が拡散障壁という「仕切り」によって機能的に独立しているというまったく新しい概念を示したものであるほか、アルツハイマー病やてんかんなどの脳疾患のアストロサイトでは拡散障壁が働いていない可能性を示した点でも大きな意義があり、これらの脳疾患ではアストロサイトの突起ごとの「仕切り」が機能しなくなり、複数の突起の働きが同調して症状を悪化させていると考えられると研究グループでは説明している。

脳機能を正常に維持するためには周辺細胞との情報伝達が重要であるが、今回の研究成果から、脳機能の秩序を保つアストロサイトの存在が疾患克服のための重要な因子であることが示唆されることから、今後は、アストロサイトCa2+シグナルが脳疾患研究の新しいターゲットになることが期待できるという。