このように、地名には知らないと生死を左右するような情報が、時に暗号のように含まれている。港区芝大門の「芝」も谷川氏によれば、「嶋」に由来するものではないかという。

「地形が点々として島のようにつながり、それを分けるように水が流れていたのではないか」

 麻布十番はかつて「網代町」と呼ばれていた。

「網代は魚を獲る網に関する地名で、昔はこのあたりまで海だったことを物語る地名です。標高も2〜3メートルです」

 渋谷は、その地名が示すとおり谷地なのだが、

「三方を山に囲まれ、渋谷駅の南側だけが下に向かって開かれています。渋谷駅の標高は12〜13メートルですが、恵比寿駅の裏側を流れる古川(渋谷川)は標高7〜8メートル。理論上はこのあたりまで津波が遡上します」

 こうなると「山の手」なんて言われている地域でも油断はできない気がしてくるが、それでは逆に、安全な場所はどこなのか。

 谷川氏によれば、そのポイントは、地名というよりも、「東京では台地の尾根に広い道路が走っている」ことだといい、昔から広かった道の付近は比較的安全なのだそうだ。

 例えば、春日通りは錦糸町から御徒町を経て本郷台地を通り、池袋に至る道路の通称。ちょうど本郷3丁目あたりが本郷台地を山と見た場合の峠にあたるという。「池」のつく池袋は地名の常識からすると低地で、危険地帯と言えそうだが、

「窪地に水田や池があったのは池袋村の東北の北区滝野川のあたりです。そこが袋のように水がたまるように低くなっていたため『池袋』と名付けられましたが、現在の池袋は高台にあり安全な地域です」

 昔から広い道という意味では、江戸五街道の一つ、旧中山道沿いも安全。また、甲州街道の起点である半蔵門は、江戸城内で最も標高が高く、約28メートルあった。

「甲州街道は江戸幕府の有事の際の逃げ道として整備されました。沿道の四谷の標高は20メートル、新宿は30メートル以上あり、水に関しては心配ありません。ただし、高層ビルが林立する新宿西口側は、かつて淀橋浄水場があったところで、地盤は弱い」

 赤坂見附周辺から始まる青山通りも高地で安全で、元赤坂あたりは標高約30メートルもあるという。

 想定外の巨大津波が襲来する前に、これらの「新常識」を頭に入れておきたいものだ。