「Simeji」はどこへ行くのか? バイドゥの足立・矢野両氏に聞く(1)
モバイルOSのAndroid用日本語入力システム「Simeji(シメジ)」の開発者である足立昌彦氏とデザイナーの矢野りん氏が、「Simeji」と一緒に、中国のIT大手企業であるBaidu(バイドゥ)に入社して3ヵ月が経過した。入社後はバイドゥ社内で、どのような仕事をしているのか、そして、今後の「Simeji」はどうなるのか、両氏にインタビューした。(2回シリーズの1)
――バイドゥに入社した理由は?
足立 シメジの開発を3年間やってきて、継続してシメジの開発を続けた方が、シメジのユーザーの方々に喜んでいただけるのではないかと思いました。
バイドゥからも、2人の力があってのシメジなので、引き続き開発を続けてほしいといわれました。アプリとしての評価も、開発者としての私に対する評価も高かったので喜んでバイドゥに入社しました。
――開発者としては高い評価を得たことはうれしいことだと思うのですが、大きな組織に入ることで、これまで自由にやってきた開発が、これまでどおりにできなくなるリスクもあったのでは?
足立 入社前に、深センのエンジニアや、日本代表の陳海騰さんと、いろいろ話をしていたので、そのような不安はなかったですね。当時は、アメリカのサンフランシスコに住んでいてテレビ会議を通して様々な議論をしていたのですが、その会議の空気がとても心地良かった。まわりに偉い人がいても、エンジニアがどんどん発言していた。西海岸からテレビ越しに見ていて、みんな楽しそうに見えた。そこに入りたいと自然に思えたのです。
――矢野さんはどうですか?
矢野 シメジに関しては、足立さんと同じです。
ただ、私がバイドゥに入社した動機は、中国の会社であるというのが大きいです。私は1年間、タイに住んでいたことがあるのですが、タイにもチャイナタウンがありました。日本の横浜中華街とか、アメリカにもチャイナタウンがあって、世界中のどんな国でも中国の人たちは自分たちの居場所を作って楽しそうにしている。それが、ファンキーですごいなと思っていたのです。そういう人たちと働くチャンスがあるというのは、素直にうれしく感じました。
――入ってみてどうですか? 入社から3カ月間を振り返って、入社前に受けていたイメージとの間でギャップはありませんか?
足立 楽しいに、プラス、エネルギーにあふれているというか、毎日がエキサイティングです。中国の方々は、自己主張が強いというか、ちゃんと意見を言ってくれるところがいいと思います。深センに行って、シメジのことを説明して、これからの構想を語ったのですが、その構想に対してどんどん意見が出てくる。そして、なぜそう思うのかということを聞くと、ちゃんと理由を答えてくれるので、ちゃんとディスカッションができます。
中国の大企業とはいっても、創業が2000年なので歴史は10年あまりの会社です。まだまだ会社として若い。ベンチャー企業のような感じが残っていて、それが、スピード感につながっています。ディスカッションの場では、上司も部下もなくフラットに意見交換ができるので、居心地がいいと感じています。
矢野 デザイナーとしては、最初は、ちょっと心配がありました。中国はデザインに関心がないということを知り合いにいわれたので、ちゃんと評価してもらえるのかという不安もありました。ただ、評価の仕方はあっさりしているというか、基準がきっちりしているので、わかりやすく、また、安心もしました。会社の評価基準は、プロダクトに対するユーザーの評価だけなのです。
すべての部門が、ひとつのプロダクトにかかわっていて、その間の連携が必要になるのですが、全員がひとつのゴールに向かって全力で走っているので、積極的にお互いの仕事をサポートしようという仕組みになっています。これは、やっていて楽しいです。
――この3カ月間は、具体的に何をなさっていたのですか?
矢野 バイドゥIMEのキャンペーン企画やWebサイトのリニューアルの仕事など。また、シメジのセットアップ画面の改定など、いろいろとやっています。
バイドゥに入社して仕事が速くなったと感じます。時間の使い方が上手になったように思います。午前中に、集中してこれだけやってしまおうとか。残業がなく、仕事はピッチリと終わるので、一日8時間しかないのです。限られた時間の中で、しっかりコンパクトに詰め込んだ仕事をしているイメージですね。
――足立さんはシメジの開発を続けていたのですか?
足立 シメジについては製品計画を立てていて、そのスケジュールに従って動いています。たとえば、バイドゥに入ってからもセットアップを簡単にするとか、ローカルスキンの実装をしたりしています。ただ、シメジ以外にも、新しい製品の検討についてディスカッションをしたり、調査データを調べてコンセプトをまとめるとか、実際には、いろんなことをやっています。
――シメジはバイドゥIMEと統合するということですが?
足立 バイドゥIMEは、ウインドウズ向けのPC版のIMEです。自然言語処理といわれる技術で、文字入力でひらがなにして、ひらがなを漢字にという変換を行うエンジンなのですが、これをモバイル向けに展開しようとしています。モバイルでの操作画面はシメジのままで変わらないのですが、後ろで頑張る部分を、より高性能なバイドゥIMEにするのです。ユーザーの方には使い勝手はそのままに、より賢いバックエンドが手に入るということで、今、開発中です。今年の夏過ぎにリリースをめざしています。
ただ、一番重要なのは、ユーザーの方が使ってみて、当然ながら品質がよくなったと感じていただけることが大事なので、そこは徹底的にこだわっていきたいと思っています。9月になっても、「もうちょっと! 」という出来上がりだったら、リリース時期を遅らせることもあります。
――シメジはどこに向かっているのですか?
足立 シメジはツールです。ツールの一番大事なところは効率だと思っています。ユーザーがこれをしたいと思ったときに最短でたどり着けるよう、もっとも効率的に文字入力ができるツールとして開発を続けます。
開発には出来上がりはなくて、常に何かしらのアップデートをしていくことが大事です。どんどん改良していくとか、時代に合わせて変化させるといくことをしないと使ってもらえなくなります。ユーザーの好みは日々変わっていくし、新しいテクノロジーは日々、どんどん生まれてきます。それをうまく使ってシメジに新しい価値を付加する。これ面白いでしょというものを出し続けないとダメだと思っています。(つづく)(聞き手・編集担当:徳永浩)
