企業はソーシャルメディアにどうアプローチすべきか―武田隆さんインタビュー(前編)

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 「ソーシャルメディア」という言葉は今でこそインターネットユーザーを中心にすっかり定着しているが、実際に一般的に使われるようになってからはまだ数年しか経過していない。そう考えれば、「ソーシャルメディア」が急速に普及していった様子が見えてくるのではないだろうか。
 この急速に発展するインターネットの世界を12年にわたり分析してきた武田隆氏は、著書『ソーシャルメディア進化論』(ダイヤモンド社/刊)で、ソーシャルメディアとは何か、そして企業のマーケティングとしてどのようにソーシャルメディアを活用すべきかについて語っている。
 武田氏は今の「ソーシャルメディア」をどう見ているのか、そして企業側は発展するソーシャルメディアに対し、どのようなアプローチを仕掛けるべきなのか。話を聞いた。


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――まず『ソーシャルメディア進化論』において印象的なのが、冒頭で引用されているイマニエル・カントの「地球は丸いので、われわれは結局、お互いの存在を認め合わなければならない」という言葉です。この言葉を引用された理由は何だったのでしょうか。

武田「とても意味深な言葉ですね。マーシャル・マクルーハンが『グーテンベルクの銀河系』の中で“グローバル・ヴィレッジ”という言葉を使いましたが、これは電子メディアが発展すると世界が一つの村になるという非常にユートピア的な文脈で解釈されています。でも、実はマクルーハンはそういったポジティブな文脈とは別に、すごく騒がしいゴシップにあふれた世界、窮屈でお互い監視し合うような世界になることを指摘しているんです。つまり、コミュニケーションの技術の発達はポジティブな影響をもたらすけれど、ネガティブな作用も起こすということです。このカントの言葉は、ポジティブでもないしネガティブでもない、逆に言えばプラスもマイナスも包含していて、まさに今、ソーシャルメディアが対峙している壁を言い表しているように思えます」

――新著となる『ソーシャルメディア進化論』はソーシャルメディアの現在が分析されていますが、執筆の経緯を教えていただけますか?

武田「12年間、ウェブ上の企業マーケティングについて分析を行ってきたのですが、ウェブ担当者の方がソーシャルメディアに誤解を持たれてしまうのはあまり良くないことだと思うんですね。物事が大きく飛躍を遂げるという大事な時期は、往々にして実情をあまり理解していない人がその事象をやたら賛美したり、その流れに乗りかかろうとすることが起こりますが、ソーシャルメディアについても同様です。
それから、ソーシャルメディアは基本的にはマーケティングで使うのがとても難しいんです。フェイスブックもツイッターも個人のためのメディアですから、ビジネスと必ずしもシンクロしません。このあたりの事情を知らずに『ソーシャルメディアすごいですよ!』『ソーシャルメディアを使うとファンが増えますよ』っていう文句につられて使い出すと、かつてあった『セカンドライフ』の二の舞になってしまう危険があります。そういったところで、これまで蓄積してきた知見をオープンするタイミングがきたなと思ったのです」

――武田さん自身は「ソーシャルメディア」をどのようなものであると捉えていらっしゃいますか?

武田「私たちの人間関係、いわゆるネットワークは具体的には目に見えるものではありません。だからネットワークの存在は信じづらいものであった。ただ、経験的に『ネットワークがある』というのを知っている人はたくさんいます。『情けは人のためならず』という言葉はまさにネットワークの話ですよね。でも、やはり見えないものは見えませんから、企業がマーケティングを行う際はどうしてもマスマーケティングになってしまいます。
しかし、インターネットの登場で、そのネットワークが見えるようになりました。ソーシャルメディアはインターネットの権化みたいなものですから、ネットワークを知覚できるものだと思いますね。」

――リアルでのネットワークがそのままインターネット上に移行しているソーシャルメディアもありますしね。

武田「もともとインターネットは、ビジネスとは無縁なところで生まれています。1960年代のアメリカに西海岸のカウンターカルチャーが発端となっていますから、それを考えただけでもお金儲けには合いませんよね。ソーシャルメディアも同じで、その認識を間違えると非常に危険です。
ただ、経済と離れたところで発展するネットワークは影響力に限界があるんです。それは世界が、資本主義というOSを搭載しているからに他ならないのですが、ソーシャルメディアが社会への影響を増すためには経済を取り込むことが重要です。つまり、企業という組織を使うことが大切なんです。特に今よく見られるのですが、フェイスブック論者は組織否定論に傾いている人が多いように思います。極端な例ですが『組織を超えろ!ぶっ壊せ!』みたいな発言を耳にする(笑)。でも、実際には突き抜けた人以外の個の影響力は弱いですし、組織の力を過小評価しすぎている部分もあると思います」

――インターネットを使ってお金儲けをしようとしている人に対して、ユーザーは結構厳しい目を持っていますよね。

武田「普通のソーシャルメディアは個人と個人がつながる連絡網のようなものです。そこに企業が土足で入って自社の製品を広告していくというのは、まずありえないですよね。コミュニティの掲示板にサクラが入り込んだりしますが、正直そのコミュニティの使用者から見ればバレバレです。丁寧にネットワークが編みこまれた場所に突然サクラが入ってきたら誰でも嫌な気分になりますし、ブランド価値も落ちますよね。だからソーシャルメディアは消費者による消費者のための聖域なんです。では、企業のマーケッターはどうすればいいのか。私自身は自社サイトにファンのためのソーシャルメディアを作るのが良いと思っています」

――コーポレートサイトの中に、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を作るということですね。

武田「SNSは狭義には個人と個人を結びつけるものです。ここでは現実の生活から離してあげて、価値観で集まるコミュニティを作るという意味なので、狭義の意味ではSNSではないですね」

(後編は8月18日配信予定)



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