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人生100年時代、長年住み慣れた「我が家」が、老後の安心を約束してくれるとは限りません。愛着による実家の維持、加齢に伴う身体機能の変化、そして災害時の避難リスクなど、高齢期の住まいを取り巻く課題は多様化しています。今回はある夫婦の事例から、万一を想定した住まいの在り方について考えていきます。

築50年の自宅から避難所まで…歩いて行けなかった

高橋修さん(80歳・仮名)は、妻の和子さん(80歳・仮名)と2人で暮らしています。生活のベースとなる公的年金は夫婦合わせて月28万円です。30代で購入した築50年ほどの木造2階建て住宅は、定期的にメンテナンスをしてきたこともあり、建物に大きな不具合はありませんでした。2人とも、これからもこの家で暮らしていくつもりだったといいます。

そんな2人が住まいについて考え直したきっかけは、地域の合同防災訓練でした。それまでも食料を備蓄し、家具を固定するなど、地震や風水害への備えは行なっていました。しかし、訓練で指定避難所になっている小学校まで歩いてみると、思っていたよりも大変だと実感したのです。

避難所までの道には坂道があり、その先には数十段の屋外階段もあります。以前、避難所を訪れたときは車を使っていたため、道の傾斜や階段を気にしたことはありませんでした。

ところが、免許を返納して車も処分した現在、災害が起きれば徒歩で移動しなければなりません。

実際に荷物を背負って歩いてみると、修さんは息が切れ、和子さんは膝の痛みで途中で立ち止まってしまいました。結局、この日の訓練では避難所までたどり着けなかったのです。

修さんはこう話します。

「普段の生活では、それほど困っていません。でも、災害が起きたときに、ここから避難所まで歩けるのかと考えると不安になりました。実際に歩いてみて、難しいことがわかりました」

内閣府『令和5年度高齢社会対策総合調査(高齢者の住宅と生活環境に関する調査)』によると、現在の住まいについて「地震、風水害、火災などの防災面や防犯面で不安がある」と回答した人は24.4%、「段差や階段等があり使いにくい」と回答した人は12.7%でした。

また、災害への備えとして「近くの学校や公園など、避難する場所を決めている」人は44.8%、「ハザードマップ等で地域の危険性の情報を入手している」人は36.8%に上ります。一方、「特に何もしていない」と回答した人も21.3%存在し、避難意識や備えの差が浮き彫りとなっています。

高橋さん夫妻の場合、問題は避難所までの道だけではありませんでした。自宅の玄関前には3段の石段があり、手すりは未設置です。さらに、2階の寝室から1階へ下りるには階段を使う必要があります。夜間に地震が起きて停電すれば、暗いなかで階段や石段を移動することになります。

修さんは、自宅での生活を振り返りながら話します。

「家の中では普通に生活できています。でも、夜中に地震が起きたらどうするのか。水が出て避難しなければならなくなったら、2人でちゃんと外に出られるのか。そこまで考えたことはありませんでした」

「今の家に住めるか」だけでなく「避難できるか」

高橋さん夫妻が見落としていたのは、自宅の中だけを見て住みやすさを考えていたことでした。

普段の生活では、多少の段差や階段があっても、それほど困らないかもしれません。しかし、災害時には荷物を持って移動したり、停電した暗い道を歩いたりする可能性があります。

内閣府の前出調査によると、高齢者が現在の住まいに感じる問題として「住まいが古くなり、いたんでいる」が29.5%で最も多く、次いで「防災面や防犯面で不安がある」が24.4%、「段差や階段等があり使いにくい」が12.7%でした。また、現在の地域に安心して住み続けるために必要なことを尋ねた調査では、「防災対策や治安の良さ」と回答した人が46.2%に上っています。「移動手段や商業施設などの生活環境の利便」も46.1%となりました。高齢期の住まいでは、住宅そのものだけでなく、周辺の環境や移動手段も生活に関わる重要な要素です。

高橋さん夫妻は、防災訓練のあと、自宅と避難経路の見直しを行いました。

まず、夜間の地震に備えて寝室を2階から1階へ変更します。玄関前には手すりを設け、段差の移動もしやすく整えました。さらにハザードマップを確認し、避難所までの複数のルートを実際に歩いてチェックします。これまで使っていた道だけでなく、少し遠回りでも坂や階段の少ない道を選ぶことにしたのです。

和子さんはこう話します。

「家の中だけ見ていたら、階段が大丈夫ならそれでいいと思っていました。でも、避難するときは外に出なければいけません。家から避難所まで歩けるかどうかも考えないといけないと思いました」

高齢期の住まいを考えるとき、室内の段差や浴室、トイレなどを確認することは重要です。それと同時に、災害が起きたときに玄関から外へ出られるか、自宅周辺を安全に移動できるか、避難所まで実際に歩けるかも確認しておきたいところです。

高橋さん夫妻にとって、防災訓練で実際に歩いたことが、万一のことを考えるきっかけになりました。