肥満や将来の寝たきりを防ぐにはどのような運動から始めればいいのか。循環器内科医の布施淳さんは「『1駅分歩く』運動を心掛けている中年も多いと思うが、その際の『歩き方』を変えるだけで、遥かに高い健康効果が得られる」という--。

※本稿は、布施淳『アップルウォッチで整える 50代からの「最高のコンディション」』(技術評論社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■肥満は心臓に対する「虐待」

50代になると、代謝が落ちて腹回りに脂肪がつきやすくなります。「見た目が悪いだけだから」と放置していませんか?

循環器内科医として断言しますが、肥満はあなたの心臓に対する“虐待”です。増えた脂肪細胞は炎症物質を出し続け、血管を傷つけ動脈硬化を進行させます。さらに、その慢性炎症は心不全を惹起する主要な病態であることも近年明らかになってきました。

50代のダイエット、脂肪燃焼に“魔法”はありません。絶対的な物理法則は

「消費カロリー>摂取カロリー」

です。これを感覚ではなく、数値で管理することが、心臓を守る唯一の道です。

■アクティブエネルギーを積み上げなければ痩せない

まずは、自分が1日に「動くことでどれだけ消費したか」を把握します。消費エネルギーは「アクティブエネルギー」と「安静時消費エネルギー」に分けられます。アップルウォッチの「アクティビティ」リング(赤・緑・青のリング)は、あなたの動きをカロリーに換算してくれます。ムーブ(赤)は、「アクティブエネルギー」を反映します。

「1日の消費エネルギー(カロリー)」は、「安静時消費エネルギー」+「アクティブエネルギー」。ムーブ(赤)は、「アクティブエネルギー」を反映する。[出所=『アップルウォッチで整える 50代からの「最高のコンディション」』(技術評論社)]

多くの人が「基礎代謝」=「安静時消費エネルギー」を過信しています。

50代の基礎代謝は下がっているため、この「アクティブエネルギー」を積み上げないかぎり、痩せることは不可能です。まずは男女とも「1日400~500kcal」のアクティブエネルギー消費を目指し、適宜数値を上げていきましょう。

出所=『アップルウォッチで整える 50代からの「最高のコンディション」』(技術評論社)

アクティブエネルギー(重要):運動や生活活動で燃やしたカロリー。あなたが努力して稼いだ数字です。
安静時消費エネルギー:いわゆる基礎代謝。寝ていても消費されるカロリーです。

■せっかくの運動も「菓子パン1個」で消し飛ぶ

ただダラダラ歩くだけでは、脂肪は燃えません。買い物や通勤の際は、必ず「ワークアウト」アプリを起動し、範囲を確認して、心拍数を意識してください。

出所=『アップルウォッチで整える 50代からの「最高のコンディション」』(技術評論社)

「アップルウォッチをつけて運動しているのに痩せない」。その原因の9割は「食べ過ぎ」です。運動で消費した300kcalは、菓子パン1個であっという間に帳消しになります。アップルウォッチのデータ(消費)を生かすには、正確な「摂取」の記録が不可欠です。ここで活用したいのが「あすけん」などの食事管理アプリです。

「あすけん」で食べたものを記録すると、アップルウォッチで算出された、「総消費エネルギー=安静時消費エネルギー+アクティブエネルギー」と、「あすけん」からiPhoneに取り込まれた摂取エネルギーデータを比較することができます。

精度には限界がありますので、目安程度にお考えください。老いにくい体をつくるための具体的な数値を把握するのに役立ちます。「今日はたくさん歩いた(消費)けれど、夜の飲み会で大幅にオーバー(摂取)した」という現実がグラフで見えます。

写真=iStock.com/Wachiwit
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■お世辞を言わない「アップルウォッチ」で老化しにくい体を

「なんとなく食べて、なんとなく動く」のはもうやめましょう。アップルウォッチは、あなたにお世辞を言いません。

「今日のアクティブエネルギーは300kcal。昼食のカロリーは800kcal」。この冷徹な事実を突きつけられたとき、初めて「夕食は軽くしよう」「あと一駅歩こう」という具体的なアクションが生まれます。その理系的なアプローチの積み重ねだけが、老化しにくい体をつくるのです。

■1日10分の「大股歩き」が寝たきりを防ぐ

「何もない平らなところでつまずくようになった」。これは加齢のサインの定番ですが、その正体は足の筋力低下ではなく、背骨と太ももの骨をつなぐインナーマッスル「大腰筋」の衰えです。大腰筋は、足を引き上げるエンジンの役割を果たしています。ここが弱ると足が上がらず、すり足になり、転倒リスクが高まります。

さらに悪いことに、姿勢を保てなくなり、将来の「寝たきり」へと直結します。ジムで重いバーベルを持ち上げる必要はありません。大腰筋を鍛える最強の方法は、“いつもより大股で歩くこと”。まずは、1日10分からです。

■冬場のウォーキングは要注意

具体的な方法の前に、循環器内科医として一つだけ注意点があります。真面目な50代は「朝のウォーキング」を好みますが、特に冬場の早朝は気をつけてください。

寝起きは脱水傾向で血液がドロドロ、かつ交感神経が急激に活発になる時間帯です。

そこで冷たい空気に触れて血管が収縮すると、血圧が急上昇し、脳卒中や心筋梗塞を助長することがあります。

寒い日の大腰筋ウォーキングは、十分な防寒対策をするか、あるいは体が温まっている日中、夕方の帰宅時に行うのがベターです。

「毎日歩こう」と漠然と決意しても、多くの人は三日坊主で終わります。

50代の習慣化に必要なのは、精神論ではなく“終わりが見えている安心感”です。ここでアップルウォッチの「タイマー(ストップウォッチ)」を使います。

「家に帰るまでずっと」ではなく、「タイマーが鳴るまでの10分間だけ」と決めることで、運動の心理的ハードルは劇的に下がります。この10分間だけは、スマホを見ず、背筋を伸ばし、普段よりこぶし一つ分広い歩幅で歩いてください。そのフォームこそが、大腰筋への筋トレになります。

■「早歩き」と「ゆっくり歩き」の組み合わせもGOOD

インターバル速歩の速歩部分に大股歩きを活用してもよいでしょう。インターバル速歩とは、「早歩き」と「ゆっくり歩き」を3分間ずつ交互に繰り返す、信州大学の研究などで効果が実証された運動法です。単なるウォーキングよりも心肺機能(VO2max)と筋力を劇的に向上させるため、体力低下が気になる50代に最適な「医療的ウォーキング」と言えます。アップルウォッチでインターバル速歩を行うときは、平均値だけでなく「速歩区間でどこまで心拍数が上がるか」を確認します。

50代の一般的な人では、速歩区間は心拍数110~130拍/分前後、ペースは1km9~11分程度が一つの目安です。ゆっくり歩く区間では心拍数を落とし、息が整うことを確認します。大切なのは、数字を無理に追うことではなく、「少し息が弾むが、短い会話はできる」強度を保つことです。帰宅時、最寄り駅の一つ手前で降りたとき、あるいは買い物に出るときには、タイマーを設定しましょう。

頑張って大股で歩いた成果は、体重計には出ませんが、iPhoneの中にしっかり記録されています。見るべき指標は「歩数」に加えて「歩幅」です。iPhoneの「ヘルスケア」アプリにある「歩行」で確認できます。

モデルの身長は158cmのため、理想的な歩幅は「約71.1cm」。週の平均で見ると、40cmのときもあるが、最大86cmであり、大腰筋が伸びていることがわかる。[出所=『アップルウォッチで整える 50代からの「最高のコンディション」』(技術評論社)]

■10分タイマーで「移動」を「運動」へ切り替える

①歩幅(ステップ長)

意識して大股歩きを始めたあと、この数値が平均値より上がっているか確認します。身長にもよりますが、「身長×0.45」(身長170cmなら約76cm)が理想的な歩幅の目安です。ここが伸びていれば、大腰筋が強化されている証拠です。

②歩行非対称性

布施淳『アップルウォッチで整える 50代からの「最高のコンディション」』(技術評論社)

右足と左足の使い方の「偏り」を%で示します。健康な状態なら「0%」です。意識して大股歩きを始めたあと、この数値がそれまでの自分の数値の推移より上がっていないか確認します。上がっている場合は、歩き方を確認したり、痛みを感じる部位はないかをチェックしたりしてみてください。

ダラダラと1時間歩く「散歩」よりも、大腰筋を意識して大股で歩く「10分」のほうが、50代の体には遥かに高い投資効果をもたらします。アップルウォッチのタイマーをセットする。それは、「今から私は移動するのではなく、体を鍛えるのだ」というスイッチを入れる儀式です。今日から、通勤のラスト10分を、未来の自分の足腰をつくる時間に変えていきましょう。

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布施 淳(ふせ・じゅん)
循環器内科医
ウェルビーイングクリニック駒沢公園院長。循環器専門医。専門は心臓(循環器内科)で、専門性を重視しつつ、ウェルビーイング(well-being)=「身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」を意識した広い視点と、科学的根拠を重視した、信頼性の高い医療を心掛けている。スマートウォッチ外来があり、異常データについて幅広く相談できる。
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(循環器内科医 布施 淳)