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離れて暮らす親の生活が気になりつつも、多忙を理由に実家への足が遠のいている人は少なくありません。「子どもに迷惑をかけたくない」という親の孤独感は、思わぬ形で第三者に付け込まれるリスクを孕んでいます。ある家族の事例から、高齢の親の財産を守る方法を考えます。

実家を占拠する見知らぬ人々と母の異変

都内で会社員として働く小林誠さん(52歳・仮名)は、大型連休を利用して地方の実家に帰省しました。実家では母親の小林和子さん(78歳・仮名)が一人で暮らしています。年金は月14万円程度、貯蓄も約3,000万円あり、経済的な不安はないはずだと誠さんは考えていました。

しかし、数ヵ月ぶりに実家を訪れた誠さんは目の前の光景に言葉を失います。居間には見知らぬ高齢者や若者が数名座り込み、和子さんと親しげにお茶を飲んでいました。誠さんが彼らは誰かと尋ねると、和子さんは「地域のボランティアサロンの人たち」と満面の笑みで答えました。彼らは和子さんの日々の話し相手になり、庭の草むしりや重い日用品の買い物などを日常的に無償で手伝っているといいます。

内閣府『令和7年度 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査』によると、日本の65歳以上で日常の困りごとに「頼れる人がいない」割合は15.3%に上り、「地域活動・ボランティア団体」を頼れる人も3.9%にとどまります。また、近所の人と「相談し合う」割合は15.4%、「病気の時に助け合う」割合は3.9%で、「付き合いがない」人も17.4%存在します。このように家族以外の日常的な支え合いや地域でのつながりが希薄な状況と深刻な孤独感は、親身に接してくれる特定のコミュニティへ高齢者が強く依存してしまう大きな要因として指摘されています。

誠さんは、出入りする人々の会話の端々から不穏な空気を感じ取りました。

「社会のために余っている財産を役立てましょう」

そんな話が聞こえてきたのです。彼らは実家の土地や預貯金の寄付契約をやんわりと勧めていたのです。

「あなたたち、本当に地域のボランティアさんなんですよね? なんで人のうちの財産とか、気にしているんですか?」

誠さんが強い口調で問い詰めると、若者の一人は「たまたま話がその方向にいっただけだし、私たちは無理強いなど一切しません」と淡々と返答して帰っていきました。

誠さんは強い危機感を覚え、これ以上は彼らを家に入れないよう和子さんに強く忠告しました。

家族の声に耳を貸さない母、財産の行方は?

誠さんはすぐさま和子さんに向き合い、悪質な集団だから今すぐ縁を切るよう懸命に説得しました。しかし、和子さんの口から出たのは、誠さんの予想をはるかに超える言葉でした。

「私、お金もこの家も、全部あの人たちにあげることにしたの」

和子さんはすでに、彼らへの任意の財産管理契約や死後の遺贈に向けた準備を自ら進めていたのです。

「完全に騙されている」

「大切な財産を奪われるぞ」

誠さんが声を荒らげると、和子さんは烈火のごとく激高しました。

「金目当てでたまにしか来ないお前より、毎日話を聞いてくれるあの人たちのほうがよっぽど家族だといえる」

実の母親から絶縁を突きつけられ、誠さんはショックで返す言葉を失いました。

独立行政法人国民生活センターの報告によれば、高齢者を狙った消費者トラブルや悪質商法の相談件数は高止まりを続けています。特に近年は、商品の販売だけでなく、孤独な高齢者に親身に寄り添う「人間関係構築型」の手口が目立ちます。周囲の親族が被害を指摘しても、本人は「私を助けてくれる恩人」と信じ込んでいるため、周囲の説得を強硬に拒絶して自らの意志で契約を進めてしまうケースが頻発しているのです。

翌日、誠さんは和子さんに「契約をやめろ」と迫るのをやめました。

「母さんが誰に財産を渡すかを、俺が決めたいんじゃない。ただ、契約の中身だけ一緒に確認させてほしい」

そう伝え、和子さんが保管していた書類を一つずつ確認しました。そして、契約内容を持って消費生活センターへ相談。必要に応じて専門家にも相談し、財産管理や遺贈について、和子さん自身が十分に理解したうえで判断できるようにしました。

同時に、誠さんは地域包括支援センターにも相談しました。そこで気づかされたのは、財産を守るだけでは問題は解決しないということでした。

和子さんが彼らを頼った背景には、離れて暮らす息子との距離と、日常的な孤独があったからです。そこで誠さんは、毎週電話をするようにし、月に一度は帰省。和子さんが参加できる地域のサロンも一緒に探しました。

数週間後、和子さんは財産管理に関する契約を見直すことにしました。

「お金のことだけじゃなくて、話を聞いてくれる人が必要だったのかもしれないね」

そう話す母親に、誠さんは「これからは俺もちゃんと時間をつくる」と答えました。

高齢者の財産や契約をめぐる問題では、家族だけで解決しようとすると、本人との対立が深まることがあります。消費生活センターでは契約や悪質商法について相談でき、地域包括支援センターでは高齢者の生活や介護、権利擁護などについて相談できます。

また、将来の判断能力の低下に備え、本人があらかじめ財産管理などを任せる人を決めておく「任意後見制度」もあります。今回のケースでも、誠さんが最初にしたのは母親の財産を取り上げることではなく、契約の中身を確認し、第三者に相談することでした。

「怪しい」と感じた段階で家族だけで結論を出さず、本人の話を聞きながら、早めに公的な相談窓口につなぐ--親の財産をめぐる問題の、一つの解決策です。