現代人の健康を蝕む「悪習慣」にはどのようなものがあるのか。循環器内科医の布施淳さんは「座りすぎは喫煙と同じくらい健康に良くない。デスクワークや動画視聴で座りすぎの自覚がある人は、ジムに行くよりもまずは1時間に1回立ち上がることを習慣にすべきだ」という--。

※本稿は、布施淳『アップルウォッチで整える 50代からの「最高のコンディション」』(技術評論社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

■喫煙と同じくらい健康に悪い「座りすぎ」

現代の50代は、人類の歴史の中で“最も動かない生活”を送っている世代と言えるかもしれません。デスクワークで一日中パソコンに向かい、移動は車か電車、家ではソファで動画配信を見る。「忙しくてジムに行く時間がない」というのが共通の言い訳ですが、医学的な事実を申し上げます。

“動かないこと”は、それ自体が病気をつくる積極的な要因になります。欧米では「Sitting is the new smoking(座りっぱなしは新しい喫煙習慣だ)」という言葉があるほど、長時間の座位は健康リスクとして認知されています。

運動不足が体に及ぼす悪影響はさまざまですが、1つは流れが止まることです。

人間の体は、筋肉を動かすことで全身の血液をポンプのように循環させています。特に足の筋肉は「第2の心臓」と呼ばれますが、歩かない生活はこの補助ポンプを止めてしまうことです。結果、血液は下半身に滞留し、血栓(血の塊)ができやすくなり、それが心肺に流れ込み、大きな負荷になることもあります。

■がんや糖尿病、認知症のリスクを高める

また、筋肉は体内で最大の“糖分消費工場”です。運動しないと、食事で摂った糖が消費されずに血液中に溢れかえります。これが「糖尿病」の入り口です。高血糖でドロドロになった血液は血管の内壁を傷つけ、動脈硬化を加速させ、最終的には心筋梗塞や脳卒中という「血管事故」を引き起こします。

強調したいのは、運動不足のリスクは心臓だけにとどまらないという点です。近年の研究では、運動不足が大腸がんや乳がんなどの「がん発症リスク」を高めることが明らかになっています。免疫細胞は血流に乗ってパトロールしているため、血流が悪ければ監視の目が届かず、がん細胞の増殖を許してしまうのです。

さらに、リズム運動(ウォーキングなど)は、セロトニンなどの神経伝達物質の働きに関わるとされ、気分を安定させる効果があります。動かない生活を続けると、脳の働きが鈍り、うつ状態や認知症のリスクが高まります。

■座りすぎは「緩やかな自殺行為」

「運動を習慣にしましょう」と言うと、多くの50代は「ジムに入会しなきゃ」「毎日走らなきゃ」と身構えます。そして、ハードルが高すぎて挫折するか、逆に頑張りすぎて膝や腰を痛めてしまいます。

循環器内科医として、まず意識を変えていただきたい点があります。

50代にとっての最大の敵は、運動不足というよりも“座位(座りっぱなし)時間の長さ”です。 長時間のデスクワークやソファでのテレビ視聴は、下半身の筋肉を停止させ、血流を滞らせます。これは代謝を下げ、血栓(血の塊)のリスクを高める、いわば“緩やかな自殺行為”です。

1日1時間ジムで汗を流しても、残りの10時間を座りっぱなしで過ごせば、その健康効果は相殺されてしまうという研究データもあります。通常は12時間に12回立つことを推奨しています。

一方で、真面目な人ほど陥るのが“過剰運動(オーバートレーニング)”です。「昨日は飲みすぎたから、今日は倍走ろう」。この考え方は50代には危険です。加齢によりリカバリー能力が落ちている状態で無理を重ねると、自律神経のバランスが崩れ、かえって免疫力が低下したり、不整脈を誘発したりします。

アップルウォッチで計測した安静時心拍数が平均より10高い、心拍変動が平均より10低い日は、勇気を持って運動を休むこと。これもまた、立派な“健康管理”です。

■1週間に1回のジムより1時間に1回のスタンド

何を習慣にすべきか。それは、ジムに行くことよりまずは、「1時間に1回立ち上がること」です。これだけで、滞った血流がポンプされ、脳への酸素供給も回復します。

アップルウォッチの「スタンド(青いリング)」は、この地味ですが極めて重要な習慣を管理するツールです。

緑のエクササイズリングが1周しているので、この日は、十分な運動量があったことがわかる。[出所=『アップルウォッチで整える 50代からの「最高のコンディション」』(技術評論社)]

スタンド(青):1時間に1分以上立って動く(通常12時間につき12回が推奨)

1時間ごとの目安:1時間座り続けず、少なくとも1分~5分程度は立ち上がって動きます(歩く、ストレッチする、お茶を汲みに行くなど)。
回数の目安:8時間勤務であれば、少なくとも8回以上、理想的には10~12回程度、1時間ごとの立ち上がりを意識します。
より積極的に動く場合: 厚生労働省のガイドでは、座りっぱなし防止には30分に1回の休憩が推奨されています。

エクササイズ(緑):1日の早歩きなどの運動時間を設定する

●健康的な生活・生活習慣病予防:1日合計30分以上の早歩き(息が弾み、汗をかく程度)。
●歩数との組み合わせ:理想は1日8000歩、かつそのうちの20分を早歩きにすることを目標にしましょう。
●最低限のライン:忙しい場合でも、1日12分の早歩きをします。

■アップルウォッチを活用した「フィットネス」

それでもやっぱりジム通いもチャレンジしたいという人に、試してほしいのが「Fitness+」です。Fitness+の最大の特徴は、アップルウォッチが計測するリアルタイムの心拍数や消費カロリーが、iPhoneやiPad、アップルTVの画面に表示されながらワークアウトできる点です。

写真=iStock.com/raditya
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/raditya

インストラクターの動画を見ながら、自分の体の反応を数値で確認できるため、「なんとなくこなす」運動から「体に効いている」実感のある運動へと変わります。種目はヨガ、ピラティス、筋力トレーニング、HIIT(高強度インターバルトレーニング)からダンス、瞑想まで幅広く、5分から60分まで時間も選べます。まずは10~15分の軽めのヨガやストレッチから始めると、無理なく続けられます。

布施淳『アップルウォッチで整える 50代からの「最高のコンディション」』(技術評論社)

使い方はシンプルです。iPhoneの「フィットネス」アプリを開き、「Fitness+」タブから好みのワークアップを選んでスタートするだけ。アップルウォッチは自動的に連動し、記録はそのままアクティビティリングに反映されます。月額980円程度で家族と共有もでき、ジムに通う手間なく自宅で本格的な指導が受けられます。

50代の運動習慣は、「イベント(週1回のジム)」ではなく、「ルーティン(毎時の微動)」でつくられます。アップルウォッチが「立て」と言ったら、それは「そろそろ血が固まりますよ」という警告です。素直に従って立ち上がる。この小さな習慣の繰り返しこそが、10年後の血管と足腰を守る最強の防御壁となるのです。

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布施 淳(ふせ・じゅん)
循環器内科医
ウェルビーイングクリニック駒沢公園院長。循環器専門医。専門は心臓(循環器内科)で、専門性を重視しつつ、ウェルビーイング(well-being)=「身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」を意識した広い視点と、科学的根拠を重視した、信頼性の高い医療を心掛けている。スマートウォッチ外来があり、異常データについて幅広く相談できる。
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(循環器内科医 布施 淳)