早くも話題になっている(新美味しんぼの公式サイトより)

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 1980~90年代にグルメブームを巻き起こした漫画『美味しんぼ』、日本屈指の長寿漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所(以下『こち亀』)』の新作アニメの制作が相次いで発表された。『美味しんぼ』は1988年に、『こち亀』は1996年にそれぞれテレビアニメ化されており、今回はそのリメイク作品となる。

 近年、昭和~平成にヒットしたアニメのリメイクが多く制作されている。漫画・アニメの黄金期を過ごした、昔からのファンの支持が期待できるということもあって、増加傾向にあるようだ。しかし、SNS上では手放しで歓迎されるわけではない。一定の話題にはなるものの、熱狂的なファンからは嫌厭される傾向があるようだ。

 また、リメイクの方がオリジナルよりも「質が低い」「絵が動かない」と揶揄されることもある。今回の『美味しんぼ』と『こち亀』がその前評判を覆すことを期待したいが、なぜリメイクは、オリジナルと比べて低い評価が与えられてしまうことが多いのだろうか。その背景には、アニメ業界の構造的な問題もあるようだ。【取材・文=宮原多可志】

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海原雄山が大人しい人物にならないか

 名作のリメイクが失敗しやすい最大の原因は、令和の時代はコンプライアンスを過剰なほど意識して作らなければいけないためである。例えば、昭和から平成初頭に制作されたアニメは、タバコを吸うシーンが普通に見られる。現代だとパワハラ、セクハラと見なされそうなセリフや行動をキャラクターがとることもある。こうした描写は問題になりやすい。

早くも話題になっている(新美味しんぼの公式サイトより)

 それゆえ、『美味しんぼ』では、主人公・山岡士郎の父親にして最大のライバルである海原雄山の発言がライトになるのでは……と懸念する声が多数聞かれる。雄山は、漫画の連載後半では温和な性格になり、長年の確執があった士郎と和解に至っている。しかし、初期はとんでもない暴言を吐くし、問題行動を連発する傍若無人な人物として描かれていた。

 雄山は自分の意に沿わない言動をする人物にはその人格を否定するほど罵倒するし、自分の味覚に合わない料理は投げ飛ばしたりひっくり返したりする。そのセリフや行動はネットミームと化したものが多いが、それだけ魅力的でインパクトが大きい証拠だろう。しかし、コンプライアンスの問題は無視できないため、どこまで再現できるのかは未知数である。

 女性に関する性的な描写も自主規制される傾向がある。高橋留美子氏の名作漫画『らんま1/2』では、女性の乳首が作中で描かれていたが、1989年から放送が始まったアニメでも描かれ、しかもゴールデンタイムに放送されていたのだ。ところが、2024年に始まったリメイク版のアニメでは、胸が不自然な表現で隠されてしまっている。

若手はおじさんと動物が描けない?

 合わせて問題になっているのが、アニメーターの慢性的な不足である。現在、空前のアニメブームが続いており、アニメの制作本数が多すぎる。アニメ会社はアニメーターの育成に取り組んでいるものの、十分に進んでいるとは言い難い。さらに、昨今の若手アニメーターは、“おじさん”や“動物”などを描くのが苦手な傾向が強いのだという。

「若手はイケメンキャラと美少女なら、正直誰でも上手く描ける。しかし、中年男性や老人を雰囲気あるように描ける人が少ない。『美味しんぼ』も『こち亀』も出てくるのはおじさんばかりですが、癖が強かったり、貫禄があったりしてとても魅力的です。こうした男性を今の若手がどこまで描けるのか、不安です」

 そう話すのは、専門学校で講師を務めるベテランのアニメーターである。

「おじさんもそうですが、動物に苦手意識を持つアニメーターも多い。例えば、重要な場面で動物がたくさん出てくるアニメで、絵コンテの担当者に“作画が大変になるから、あまり動物を出さないでくれ”とお願いしたケースがあるそうですから。そのため、昭和の時代と比べ、アニメの内容が軽くなってしまう傾向にあるのでは」(前出のアニメーター、以下同)

 昭和の時代は描ける人が多かった表現を、今の若手が苦手としているケースも多いようである。もちろんベテランで絵の上手いアニメーターはたくさんいる。だが、そういった優秀なアニメーターは、資金が潤沢でヒットが見込めるタイトルに拘束される傾向にあり、獲得が難しいようだ。また、若手特有の問題は他にもあるという。

「アニメの制作本数が多く、アニメーターが枯渇しているぶん、若手は仕事が選べるほどたくさんあるんです。そのせいか、誰もが知っている人気タイトルしかやろうとしない若手が多いように思う。彼らには80~90年代の作品は馴染みが薄いので、参加したがらないんですよ。そのため、有名なスタジオでも人材集めに苦労しているのが実情だと思います」

昭和の時代は大らかだった

 コンプライアンスを順守することは大切だろう。特に昨今のアニメは海外に売り込むことも多いため、性的な表現や、昭和のおじさんに見られた暴力や暴言がマイルドになるのは、必然なのかもしれない。しかし、コンプライアンスを意識しすぎると作品の根幹に影響を与えてしまいかねないと、前出のアニメーターは危惧する。

「特に、セリフを変更する際は相当慎重に行わないと、下手したらキャラクターの性格が変わってしまいかねない。殴る、蹴るなどの特徴的な表現をやんわりとしたものにしても、当然、キャラのイメージが変わります。制約がある中でもうまく表現するのがプロの技と言えばそうなのですが、それができるだけの人材が今どれだけいるでしょうか……」

 どんなアニメ関係者であっても、少しでも良いものを制作しようと努力している。これは間違いないだろう。しかし、令和という時代の制約、そして制作に関わる人々の技術的な問題もあって、「かつてより自由に作れなくなった」と嘆くアニメ関係者は少なくない。リメイクがオリジナルより評価されにくいのは、こうした複合的な要因があると思われる。

 令和版の『美味しんぼ』と『こち亀』はどうなるだろうか。国民的名作であるだけに、関係者のプレッシャーも大きいと思うが、往年のファンだけでなく、若いファンものめり込むほどの作品に仕上げてほしいと願っている。

ライター・宮原多可志

デイリー新潮編集部