医師「認知症を100%防ぐのは無理」それでも今日からできる<認知機能の低下を遅らせる>方法とは?
厚生労働省の「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」によると、認知症とMCIの有病率の合計値は約28%(2022年時点)だったそうです。日本において「認知症は恐ろしい病気である」という認識の一方、スウェーデンでは「認知症は新しい人生の始まり」と言われているようで--。そこで今回は、介護老人保健施設アートヒルズ医師・宮本礼子さん、スウェーデン王妃認定認知症専門看護師・長谷川佑子さん、群馬大学名誉教授・山口晴保さんによる著書『認知症でも私のことは私が決める-日本の不自由とスウェーデンの自由』より一部を抜粋し、認知症の医療と介護のあり方を御三方による鼎談形式でお届けします。
【書影】スウェーデンでは「認知症は新しい人生の始まり」と言われる。宮本礼子、長谷川佑子、山口晴保『認知症でも私のことは私が決める-日本の不自由とスウェーデンの自由』
* * * * * * *
予防とは先送りのこと
宮本礼子:「認知症は予防できるんでしょう」と思っている方は多いですよね。
でも、もし努力で完全に防げるとしたら、アメリカのレーガン元大統領や、イギリスのサッチャー元首相、そして認知症研究の第一人者・長谷川和夫先生が認知症になることはなかったはずです。
山口晴保:うーん、でもその3人が本気で「予防」に取り組んでいたかどうかは、ちょっと分からないけどね。昔の週刊誌は「これで認知症にならない!」なんて威勢のいい見出しをつけていたけど、最近は「認知症を先送り」という正確な表現が増えてきた。
実は僕、2019年に作られた認知症施策推進大綱という政府の指針作りに関わった時に、「認知症予防とは“ならない”ことではなく、“なるのを遅らせる”“進行をゆっくりにする”ことだ」と主張して、その通りに書いてもらったんだ。「予防=先送り」なんだよ。みんな、覚えておいてね。
100%防ぐなんて無理
宮本:高齢者の認知症は老化ですから、100%防ぐなんて土台無理な話です。2024年のランセット委員会の報告では、「14の危険因子を取り除けば、認知症の最大45%は発症を防いだり、遅らせたりできる」と言っていますが……。「えっ、嘘でしょ!」って言いたくなるような数字ですよね。でも、たとえその14項目をパーフェクトにクリアしたとしても、残りの55%はやっぱり認知症になっちゃう。加齢や遺伝という、抗えない運命があるから。
14の危険因子を挙げます(かっこ内の数字は、それぞれの要因を取り除いた場合に、認知症の発症をどれだけ減らせるかを示す)。短い教育歴(5%)、難聴(7%)、悪玉コレステロール値が高い(7%)、うつ病(3%)、外傷性脳損傷(3%)、運動不足(2%)、糖尿病(2%)、喫煙(2%)、高血圧(2%)、肥満(1%)、酒の飲み過ぎ(1%)、社会的孤立(5%)、大気汚染(3%)、視力障害(2%)。
山口:「45%も減らせる!」と聞くとスゴそうだけど、裏を返せば「完璧に頑張っても、半分はなっちゃう」ってこと(笑)。しかも、「大気汚染」や「教育」なんて、今さら個人の努力でどうにかできる話じゃないものも含まれているしね。
宮本:私もそう思います。今のところ、私には14の因子に当てはまるものはありませんが、母の家系は認知症の人が多いので、年をとれば私も間違いなく認知症になると確信しています。
今日からできる「先送り習慣」
長谷川佑子:スウェーデンには、認知機能低下を遅らせる方法として「FINGERモデル」があります。これは「1つのことだけに頼るのではなく、5つの生活習慣をまとめて見直す」という考え方です。具体的には、食事、運動、頭を使う活動、人との交流、血圧や血糖などの健康管理の5つです。大切なのは、「どれか一つ」ではなく、「少しずつ全部を続けること」です。
例えば、野菜を一品増やす、階段を使う、本を読む、誰かに連絡する、健診結果から生活を見直す、といった小さなことから始めます。こうした習慣を組み合わせることで、認知機能の低下をゆるやかにする効果が確認されています。ただし、認知症を防ぐものではなく、「進み方を遅らせる」取り組みです。

(写真提供:Photo AC)
山口:では、現実的に今日からできる「先送り習慣」を4つ紹介しよう。詳しくは山口君が書いた『認知症予防-読めば納得! 脳を守るライフスタイルの秘訣(第3版)』を見てね。まずは「何よりも運動」。散歩だけじゃちょっと物足りない。筋肉量を増やすには、早歩きや坂道歩き、スロージョギングなど、週3日、少し汗をかく程度にね。運動すると、記憶担当の脳細胞が増えるんだよ。
次に「健康的な食生活」。食物繊維やポリフェノールを摂って、肉より魚。お酒は控えめ、タバコは止める。腸活で脳を元気に。3つ目は「くよくよせず前向きに」。ポジティブな感情を増やして、周りの人に「ありがとう」を伝える。何事もポジティブにとらえると、幸せ人生が待っているよ。
自分をほめる「ポジティブ日記」(その日にあった良いことを3つ挙げ、自分をほめる)を書くのもいいね。理学療法士・藤生大我研究室ウェブからダウンロードできるよ。最後に「頭を使う」。前向きに頭を使おう。心配事に使うのはバツ。楽しく頭と体を動かそう。人生は一度だけだから。
最強の認知症の備え
長谷川:スウェーデンでは、市町村や教会、退職者クラブなどが協力して、「社会的孤立」を防ぐ取り組みをしています。というのも、85歳以上の約7割が一人暮らしだから。私の住む街では、市が「お茶飲み友達マッチング」を勧めていて、外出が難しい高齢者と、話し相手になってくれる近所の方を結びつけているんです。
山口:「認知症への備え」で言えば、一番大事なのは「家族や周りとの良い関係作り」だね。あるバリバリのサラリーマンが、現役時代に家庭をほったらかしにしていたせいで、退職後に認知症になったとたん、奥さんから「あんたの面倒なんて見たくない!」って施設へ送られちゃったんだ。伴侶を大事にしておくことは、実は最強の認知症への備えかも(笑)。
長谷川:スウェーデンでは、高齢になっても夫婦で手をつないで散歩する姿をよく見かけます。手をつながなくなると、相手を大切に思う気持ちを伝える機会が減ってしまいます。まずは、夫婦で手をつないで歩いてみませんか。相手の歩く速さに合わせる--そんな思いやりこそが、山口流「最強の認知症の備え」になりますね。
宮本:残念ながら文化の違いもあり、日本では中高年の夫婦が手をつないで歩く姿は、あまり見かけません。むしろ高齢のご夫婦が手をつないでいると、「どちらかが認知症なのかな?」と思われてしまうことがあります。
※本稿は、『認知症でも私のことは私が決める-日本の不自由とスウェーデンの自由』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

