売春を強いられていたネパールの少女(Getty Imagesより)

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 西ネパールの河川敷に暮らす"売春カースト"に位置付けられたバディ族。この集落で、性行為は秘め事でも何でもなく、生きるための仕事である。田畑を耕す農民と同じように、女たちは昼間から、どこからともなくやって来る男たちにわずかな金で体を許す。

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 電気の通らない土壁の部屋で、著者は2人の少女から話を聞いた。18歳のミナと、15歳のススミ。ススミがこの仕事を始めたのは14歳のときだ。それは村の決まり事であり、祖母も母も同じ道を歩んできた。

 日本でもバディ族の救済のために活動している人々はいるが、バディ族のような人々が存在していることすらほとんどの日本人には知られていないのが現状だ。簡単には変えられないシステムの中で暮らしている人々の存在をまず知ることが、我々にとっては重要だろう。

 2019年に出版したノンフィクション作家・八木澤高明さんの著書『娼婦たちは見た イラク、ネパール、中国、韓国』(角川新書、親本の単行本は2016年に刊行)より、一部抜粋して再構成する。【全4回の4回目】

少女の値段は80円

 彼女たちにいくらで体を売るのか尋ねると、日本円で150円ほどの値段を言った。それでも私が外国人ということもあり、倍の値段を吹っかけているに違いない。

 ここを訪ねる前にルドラ(著者の友人)に聞いた話によれば、彼の生まれ育った村の界隈に暮らすバディたちが体を売る値段は、日本円で80円ぐらいが相場だという。時に、現金ではなく米などの食料品との交換で体を売ることもあるという。

 私はモンゴロイド系の顔をしたミナと名乗った女を選んだ。彼女が招いたのは、土壁の家の中の真っ暗な部屋だった。村には電気は通ってなく、部屋には木製のベッドがひとつ置かれているだけで、土壁一枚隔てた外では、村人たちが焚き火をしていた。

 こどもたちが無邪気に遊ぶ声が聞こえてくる。この村ではセックスは秘め事でもなんでもなく、生きるための仕事なのだ。お天道様の下で農民たちが田畑を耕すように、この村の女たちは昼間っから、どこからともなくやって来る男たちに、わずかばかりの金で体を許す。

「生理がきたら仕事を始めなければいけない」

 うっすらと彼女の顔が見える部屋の中で話を聞いた。ミナにアーリア系の顔立ちをした少女も呼んできてもらった。アーリア系の顔をした少女の名前はススミ。年齢を聞いたら、驚くことに15歳だと言った。ちなみにミナは18歳。

 ミナは、ススミが来ると、なぜか部屋を出たり入ったり、立ち上がったり、座ったりとそわそわしてせわしない。年齢の若いススミの方が落ち着いていて、静かに語りだした。

「14歳からこの仕事を始めた。生理が何度かきたら、この仕事を始めるサインなの。この村の女たちは、生理がきたら仕事を始めなければいけないの。それはこの村での決まり事で、お婆さんもお母さんもみんなそうしてきたの。

 セックス? 好きじゃないわ。私はセックスより、恋人とは話をするだけでいいの。お客さんは、ネパール人がほとんどだけど、この間、あなたたちと似たような顔をした韓国人が来たわよ。それとヨーロッパ人もたまに来るわね」

 ミナは相変わらずそわそわしていたが、ススミの話を聞きながら、あっけらかんと言った。

「私セックスは好きよ」

 ススミが続けた。

「恋人はいるわ。彼のカーストはバフン(編集部註:ネパールで最上位に位置するカースト)なの。仕事で初めて相手をしたのが彼だったの。それから何度か、彼がここに足を運んでくれて、よく話すようになったの。話す内容は、何でもないことなんだけど、彼とは話しているだけで楽しいの。彼と結婚したいけれど、バフンと私じゃ結婚できるわけないしね」

 ススミは微笑みながら言った。ミナはいつの間にか部屋の外に出て行ってしまっていた。

 話を終えて、屋外に出ると、見慣れない外国人に興味を持ったのかこどもたちが集まっていた。ススミは焚き火の前に座って、ごはんに豆汁だけをかけて食べていた。

垢で茶色くなったジャンパーの少女

 集まって来たこどもたちの中に、元の色が何色なのかわからない、垢で真っ茶色になったジャンパーを着た少女がいた。年齢を尋ねたら、10歳だと言った。さすがにまだ生理は来ておらず、体を売っていないが、いずれ生理が来たら、見ず知らずの男に体を開き、ミナやススミと同じ道を歩むことになる。

 彼女にカメラを向けると、どこにも陰がない無邪気な笑顔を見せてくれた。かつてはミナもススミもこの少女のような時代があった。

 少女の笑顔を見れば見るほど、いたたまれなくなり、私は村をあとにした。

 現代日本で暮らしていると見ることのできない、多様な娼婦たちが世界には存在した。イラク戦争後に米兵たちの相手をした娼婦たち、革命後のネパールに現れた「サードセックス」の娼婦たち、そして売春を運命付けられたカーストの少女たち。

 八木澤高明さんの著書『娼婦たちは見た イラク、ネパール、中国、韓国』(角川新書)は、世界各地に暮らす娼婦たちの姿を通し、我々の想像を超えた文化や歴史を浮き彫りにする一冊だ。

(了。初回から読む)