映画「ユートピア 狂宴」のどかな老人ホームに派遣された若者が直面する恐怖の実験
原題は“The Home”で、老人ホームを舞台にしたホラー映画。老人ホームは英語で“Retirement home”のためThe Homeなのかと漠然と考えていたら、ラストでもうひとつの意味が仕込まれていたことに気づいた。一種の掛け言葉だろうか。
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義兄のルークを突然亡くし、悲しみの底で不良行為を繰り返していたグラフィティ・アーティストのマックス(ピート・デヴィッドソン)は老人ホームの清掃員として働くことで刑務所行きを免れる。
マックスが配属されたのはニューヨーク州北部の深い森にひっそりと佇む素朴な老人ホーム「グリーン・メドウズ」。優しい入居者たちに囲まれて、やりがいを感じはじめるのだが、夜中に響く悲鳴、入居者の突然の死に遭遇。さらに“特別なケア”が必要とされる入居者が暮らす4階への立ち入りを禁止されたことから不信感を抱き、潜入を試みるのだが……。
本作のチラシの惹句は「入ったら、最後」「穏やかな老人ホームに隠された狂気の陰謀」。この言葉が暗示するように、マックスはホームの新人スタッフになったとたん、不気味な悲鳴を聞き、悪夢にうなされる。恐怖がビシビシと押し寄せるが、好奇心旺盛の彼は禁じられた行動に出る。
そのマックスに忠告する老女が不運に見舞われたあたりから物語は大きく展開し、恐怖のボルテージが全開になるのだ。マックスの脳裏に流れるフラッシュバックのような映像は何なのかと考えていたら、最後にすべてが帰結するという仕掛けが施されている。
ネタバレになるので詳しくは書けないが、本作は一種のマッドサイエンティストものだ。秦の始皇帝が徐福を日本に派遣したように、人は不老長寿を求める。こうした願望におのれの研究を追究する独善的な科学者が絡むとどうなるのか。映画はそうした人間の欲望とエゴをあからさまに提示。ラストの大団円に突入する。
ジェームズ・デモナコ監督が「ラスト25分間は、私がこれまで撮った映画の中で一番好きな部分です。信じられないほど血生臭い」と語っているようにグロテスク。だけど筆者はそこにスカッとさわやかな爽快感を感じた。
劇中のテレビ放送で石油プラントのニュースや「地球温暖化は存在しない」というコメンテーターの言葉が流れる。うがった見方をすれば、これは温暖化対策を「史上最大の詐欺」と罵倒したドナルド・トランプへの皮肉をこめた反証ではないか。富める特権階級が弱い者を犠牲にするのが資本主義の宿命だが、新自由主義はさらに人間同士の軋轢を激化させている。その延長線上に現代版・秦の始皇帝が存在する……。エンディングロールを見ながら、そんなことを考えさせられた。読者の感想はどのようなものだろうか。
本作を鑑賞したあとで「ゲット・アウト」(2017年)、「わたしを離さないで」(10年)を見ることをオススメしたい。 (文=森田健司)
(ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中/配給=カルチュア・パブリッシャーズ)
