「多くの方々のおかげでここまで来た。目まぐるしい日々だが充実している」と語る稲田さん(東京都千代田区で)

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 東京・神保町に昨年12月に開業したミニシアター「シネマリス」が注目を集めている。

 準新作や旧作が見放題となる定額制を導入したのが特徴だ。運営するのは、約30年勤めた大手法律事務所を退職した稲田良子さん。心の支えだった映画館が相次いで閉館したことを受け、「それなら私が」と創業した。第二の人生を、自らつくった映画館に託す。(野口哲司)

 「自分なら選ばなかった作品に出会い、知らない世界に触れてほしい」。稲田さんは、新しい映画館に込めた思いを語る。

 2スクリーン計130席のシネマリスでは一般的なチケット制に加え、年額2万2000円で約50本が見放題となる会員対象の定額制を導入している。会員は新作も割引を受けられる。

 参考にしたのは、飯田橋にあり22年に閉業した「ギンレイホール」だ。自身も年間パスポートを購入し、普段は見ないジャンルの映画を見て世界が広がった。

 対象の約50本は稲田さんらスタッフが選ぶ。「自分の願いがお客さんに届いたと思える瞬間を見たい」と、シネマリスでも時々客席の一番後ろに座り、観客の様子を見守る。

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 母親の影響で幼い頃から映画を見てきた。母と見た「ウエスト・サイド物語」は、今も記憶に残る。個性豊かな作品を上映するミニシアターの魅力に気づいたのは大学進学で上京してからだ。それまで見られなかった作品を求め、ミニシアターに通うようになった。

 東京で就職し、仕事に忙殺されるようになった稲田さんがよりどころにしたのも、映画館だった。

 弁護士の秘書業務を担い、管理職になってからは採用や研修にも携わった。在職中に事務所は2度合併し、仕事の進め方が異なるスタッフをまとめることに力を注いだ。やりがいはあったが、忙しさが増し、夜遅くまで働く日も増えた。

 残業を終え、レイトショーに駆け込む。見知らぬ人たちと同じスクリーンを見つめる時間は、仕事から離れられるひとときだった。印象に残るのは、都会で働く男女の孤独を描いた台湾映画「愛情萬歳」だ。心を揺さぶられ、涙をぬぐいながら夜道を歩いた。

 渋谷でブームを支えたミニシアター「シネマライズ」へ始発電車で向かったこともある。劇場の列で知り合った人たちとは、今も交流が続く。

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 稲田さんにとって、映画館の閉館は、鑑賞場所が一つ減る以上の意味を持った。シネマライズは16年に閉館。22年には先駆けとして知られた神保町の「岩波ホール」とギンレイホールが相次いで姿を消した。

 個人で映画館を運営する人もいると知り「やってみたい」と考えるように。法律事務所で育てた後輩たちは独り立ちし役割は果たしたとの思いもあった。

 映画館の運営者を訪ね、天井の高さや避難経路などを一から学んだ。24年に吹き抜けとらせん階段のあるビルに出合い、スクリーンにつながる空間にぴったりだと感じ「ここでやりたい」と決断。同年6月に退職し、運営会社を設立した。

 改修や許認可に時間がかかったが、進捗(しんちょく)をSNSで発信すると、「手伝いたい」と申し出てくれる人もいた。25年に実施したクラウドファンディングでは約70日間で、目標額の約3倍が集まった。座席やスピーカーは、閉館したミニシアターなどから譲り受け昨年12月19日にオープンにこぎ着けた。

 開業から9か月たったが会員は着実に増えているという。稲田さんは「かつて自分を支え、楽しませてくれたような映画館にしていきたい」と話している。