「水害は下町だけ」は勘違い【東京・大阪・福岡】「あぶないアンダーパス」一覧…23区に90ヵ所以上も
豪雨被害から身を守るためには、事前に危ない場所や道路を知ること以外にない。私たちが想像する以上に、冠水の危険は身近に迫っている。
【前編記事】『千葉を吞み込んだアンダーパス、レッカー業者が明かした「セダンタイプの車が真っ先に水没した」理由』よりつづく。
危険地帯は環七・環八・山手通りに集中か
内水氾濫が起きやすいのは、どこなのか。東京・大阪・福岡を見ていこう。
本誌は国交省と各自治体が公表する「道路冠水注意箇所」にもとづき、注意喚起マップを作成した。この地図上には、特に注意したほうがいいアンダーパスの場所を記載したが、データによれば、危険なアンダーパスは東京23区だけでも90ヵ所以上に及ぶ。なかでも環七通り、環八通り、山手通りという3本の環状道路に集中していた。
このデータに深く関係するのが「流出係数」だ。降った雨が地表に流れ出る割合を意味する。
リバーフロント研究所の土屋信行氏が解説する。
「大きな道路は雨水が地表に浸み込まないため、流出係数がほぼ100%なのです。環七や環八をつくったときは沿道の木造住宅が取り払われ、広い舗装面ができました。そのため、雨水が集中しやすい。特に、ここ10年ほどは地球温暖化によって降雨強度(単位時間あたりの降雨量)が増大しています。アンダーパスでの事故も増えてきたので、より防災の意識を高めたほうがいいのではないでしょうか」
そもそも、東京のみならず大阪や福岡といった都市圏にはアンダーパスが多い。土屋氏は、この状況を「戦後の交通政策の帰結」だと説明する。
「かつては、車の流れを止めれば『経済的損失が生じる』という考えが支配的でした。歩行者と車を分離するため、歩道橋が大量につくられ、東京都では年に100ヵ所も増えた時期があります。それでも渋滞問題を解消できず、車同士を交差点で止めないために立体交差が掘られていきました。利便性を追求して都市をつくった結果、洪水への脆弱性を抱え込んだ。これは必然的な欠陥なんです」
「川の名がつく道路」の正体
また、東京都における具体的な危険地帯について、東京都土木技術研究所で洪水対策に関わった元長崎大学教授の小川進氏がこう指摘する。
「杉並区の善福寺川と環状七号線が交差するエリアは、橋が低い位置にあり、増水時に流れがさえぎられる構造上の問題を抱えています。ほかには中野区の長者橋、高田馬場の神田川と妙正寺川の合流地点も要注意。水かさが増して橋にぶつかると流れが止まり、下水が川に流れ込めなくなるのです」
東京で水害と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは江東、墨田、足立といった下町エリアだろう。実際、大規模な河川の氾濫が起きれば、被害が集中するのはこの一帯だ。だが前出の土屋氏は、内水氾濫に関しては「山手エリアのほうが危険な場所が多い」と断言する。
「山手には昔の小さな川や谷が細かく残っています。分かりやすい例が渋谷。有名なスクランブル交差点は、かつて渋谷川が流れていた谷底にあたります。各区のハザードマップを見ると、山手はくねくねとした線状に色がついているはず。一方、下町は『面的』に塗られている。土地が平らだから水が広く広がるのです。ところが山手エリアのハザードマップに示される浸水箇所では、短時間のうちに30センチ、50センチ、場合によっては2メートルまで水位が上がることがあります」
水害が予測されるエリアは、地名から判断できる場合もある。判別しやすいのは、四谷、市ヶ谷、茗荷谷など地名に「谷」が入っている土地だ。ほかにも荻窪や恋ケ窪のように「窪」が地名にあるなら、水が溜まりやすい場所だという証拠だ。
「小さな道路でも『千川通り』や『桃園川』のように川の名がついた道路は注意したほうがいい。もともと川を暗渠化していて、地下に川が埋まっている状態なのです」(土屋氏)
大阪・福岡の都心部を襲う「内水氾濫」の盲点
都心部だからといって決して油断はできない。それは大阪や福岡も同様だ。
大阪市の場合、マップにも示している通り、低地にあるアンダーパスが多い。自然排水が難しいため、下水道や排水ポンプのへの依存度がきわめて高くなっている。特に、6月の大雨により床上・床下浸水が多発した、生野区や阿倍野区は注意が必要だ。
福岡市は海と山が近いのが特徴で、短時間で雨水が集中しやすい土地となっている。特に博多駅周辺や天神エリアは雨水の逃げ場がなく、冠水の危険性が非常に高い。
では、いざ内水氾濫に見舞われたとき、どう身を守ればいいのか。土屋氏は「自治体によっては内水氾濫ハザードマップを整備しているので、まずは確認してほしい」と前置きしつつ、こう語る。
「大雨で水が溢れ出したら、横方向に動き回るような『水平避難』をしないことです。周囲に高い建物があれば、マンションやオフィスビルに一時避難できないか住民に声をかけてください。これが『垂直避難』です。移動する時間がなければ、自宅の中で最も高い場所へ移動してください」
冠水道路で車から脱出「生死を分ける判断」
車に乗っている場合は、さらに早く判断しなければならない。災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏が解説する。
「地域に警戒レベル4の気象情報が出たり、時間50ミリに近い豪雨が発生している場合、まずは前方にアンダーパスを認識した段階ですぐに車を停め、進入しないこと。普通車のセダンなら水深10センチを超えるとブレーキが利きにくくなり、脱輪や転落のリスクが高まる。マフラーがある20~30センチの高さに水位が上がるとエンジンが停止します。
浸水エリアに入ってしまったら、電源が落ちる前にドアロックを外し、窓を下げてシートベルトを外してください。ドアは初期段階なら体重をかければ容易に開きます。車の放棄をためらうと、より状況が悪化し溺死につながります」
自宅には45リットルのポリ袋を二重にして水を入れた「水のう」を、トイレや風呂場、洗濯機の排水口に置いて逆流を防ぐことも重要だ。
「『過去の豪雨では大丈夫だった』という経験則は通用しません。判断と行動の速さが、被害を小さくします」(和田氏)
水害列島と化した日本で、あなたと家族の命を守るのは事前の知識のほかにない。
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「週刊現代」2026年9月28日号より
