多頭飼育崩壊と高齢の飼い主の死去で居場所を失った2匹の猫。半年後に迎えられた”思いがけない家族”の正体
一般家庭から50匹もの猫が救出
9月20日から26日は、動物愛護週間。動物の愛護と適正な飼養への理解と関心を深めるためのこの期間に、動物支援団体「ワタシニデキルコト」(通称・ワタデキ)代表・坂上知枝さんの活動を通して、人と動物がともに幸せに暮らすために何が必要かを、改めて考えたい。
前編「多頭飼育に飼育放棄、高齢の飼い主の死去で80匹を超える猫が犬の収容スペースにまであふれ…差し出された『救いの手』」では、多頭飼育崩壊によって一般家庭から50匹もの猫が救出された多頭飼育崩壊や高齢の飼い主の死亡で遺棄状態となった7匹のシニア猫、さらに他所でも多頭飼育現場が見つかり、愛護センターに猫があふれる事態になったことをお伝えしている。
犬の収容スペースにまで猫のケージが所狭しと積み上げられ、痩せて風邪を引いた猫や、エイズ・白血病の陽性反応が出た猫もいるなか、坂上さんは初めに4月にエイズ白血病キャリアや疾患のある5匹を、その後、多頭飼育崩壊の猫3匹や四肢麻痺の子猫など8匹と犬3匹を引き出した。
そんな中、さらに、愛護センターから下痢が治らず、異食を繰り返していた「テンパー」と「デル」の引き受け相談が。
愛護センターはあくまで一時的な預かり所。積極的な治療を行う場ではないため、ワタデキにはこうした「積極的治療」の必要な子についての相談が寄せられる。
だが、費用はチャリティイベント開催で得た収益と賛同者からの寄付、足りない分は持ち出し。また、ワタデキには専用の受け入れ施設がなく、すでに家族、スタッフ、ボランティアさんの家は複数の犬や猫で限界となっており、2匹をすぐに引き出すことは簡単ではなかった。
そこへ、立川の動物病院、サムズアップアニマルケアセンターから、病院で世話をしながら里親を探したいという思いがけない申し出が届いた。
愛護センターに収容時のテンパー。50匹一度の救出となったため、名前は数字「18」をもじって、「テン+パー」になったという。
後編も、保護団体の代表・坂上知枝さんの献身的な行動を、ワタデキのスタッフメンバーによる寄稿でお伝えする。
子どものころから捨て犬や捨て猫を見過ごせず、保護しては世話をし、新しい家族につなげてきた坂上知枝さん。2020年9月に、動物支援と保護を目的とする一般社団法人「ワタシニデキルコト(ワタデキ)」を立ち上げた。本連載は、東京・千葉・福島などの保健所や愛護センターと連携し、ボランティアメンバーたちとともに、犬や猫の救助、ケア、里親探しに奔走する日々を、ワタデキで坂上さんとともに活動するメンバーの視点から伝える。
体調の悪い猫を優先して引き出す
今回、神の助けのような「病院で預かりながら、里親を探したい」というオファーをくれたのは、同年9月に立川で開院したばかりの、24時間診療を行うサムズアップアニマルケアセンターだ。
坂上と院長ご夫婦とはもう10年以上の付き合いで、昔から、夫婦2人で開業するのが夢だと話していた。「そして、そうなったら絶対にワタデキをサポートしますから!」とも。
彼らからの申し出について、坂上はこう話す。
「2人の夢が叶ったことも本当に嬉しかったですし、そしてその言葉とおりにすぐにこんな申し出をしてくれたことにも感激しました。
テンパーとデルは医療ケアが必要な2匹だったので、動物病院で預かっていただけるなんて最高の環境です。
2匹のことを頼むと『スタッフの手が空いている時はフリーにしますし、時間のある限りスタッフみんなで可愛がります! 人慣れも進むよう頑張りますので任せてください。みんなで猫ちゃんたちが来るのを楽しみにしていますー』なんてメッセージがきて本当に心強かったです」(坂上)
2匹の里親希望者が現れた
2匹を託してからしばらく経った頃、デルの下痢はすっかりよくなり、テンパーの異食にいたっては「最初から平気でしたよ!」という嬉しい報告が坂上の元に届いた。
スタッフ一丸となって、めいっぱい可愛がり、院内の広いスペースでお散歩していくうちに2匹ともどんどん心を開いている様子だという。
送ってくれる動画でも2匹は楽しそうに遊んでもらい、最初は距離のあった2匹同士もいつのまにか一緒に眠るようにもなっていた。
テンパーの下痢は再発を繰り返し安定しないものの、内視鏡やエコー、レントゲンなどでも原因が見つからなかった。それでも1kg 以上体重も増え、身体も一回り大きくなって成長がみられた。
テンパーはまだ子猫だったのだ。
子猫は成長するに従い免疫力も体力も向上するため、徐々に体調も安定する可能性がある。光明が見えた瞬間だった。
そんな日々の献身的なお世話が続くこと半年、2匹の里親希望者が現れた。
「なんとサムズアップケアセンターに勤務する獣医師の方でした。もうすぐ地元、青森県八戸市に帰り、同じく獣医師のお父様と一緒に新たな病院(さいがみ動物クリニック)を始めるとのことで『2人を一緒に連れていっていいですか? テンパーの体調が気になるし、デルと一緒がいい。なにかあればすぐに病院に連れていって私が診られますから』と申し出てくれました。
よかった! とメンバー全員で大喜び!!
ずっと可愛がってくれた大好きな獣医師さんの家族になれるのです、こんなに幸せなことはありません」(坂上)
怖がりだったテンパーは、サムズアップケアセンターで遊んでもらうことで、周囲の環境に慣れていった。遊びには猫のストレスを軽減し、早く環境に適応させる効果も期待できる。
そしてテンパーとデルは里親さんの運転で、青森へと旅立っていった。
今後も預かり家庭で育ててもらえたら
「デルの下痢もテンパーの異食も、大きな環境の変化によるストレスが大きく影響していたのかもしれないなあ……と思います。そもそも多頭飼育の環境の中にいたテンパーが、その頃から異食をしていたならば生きていることは難しかったと思います。
デルも仲間と離され、飼い主もいない場所で1匹でケージに入れられ、不安だったに違いありません。
こんな風に考えると、どの子もなるべく早くセンターから出してあげたいと思うのです。ワタデキが登録しているこのセンターは、職員さんも親身で動物を大切にしてくれてはいるのですが、それでも夜間は人がいない、医療も最低限しかかけられない、やはり一時的な“置き場”だと思うのです。
センターから引きだすためには、場所、お金、そして人の手が必要です。
今も何匹か引き受け相談が入っていますが、ワタデキに来る相談は大きな医療や看護が必要な子がほとんどなので、そのどれかひとつが足りなくても引き受けられなくなります。
ワタデキは一時緊急シェルターがなく、全てはメンバーや預かりボランティアさんの家庭での飼育となります。今後も預かり家庭で育ててもらう形は続けていきたいのですが、もしシェルターがあったらとりあえずの引き受けができるようになるのになあ……といつも呟いています。飼い主が適切な形で最期までお世話をすることが一番大事ではあるのですが」(坂上)
動物の愛護と適正な飼養についての関心と理解を深める動物愛護週間。動物たちが健やかに、そして安心して暮らすためには何ができるのかを考えるきっかけにしたい。
【前編】多頭飼育に飼育放棄、高齢の飼い主の死去で80匹を超える猫が犬の収容スペースにまであふれ…差し出された「救いの手」
