「お義兄さんの太ももの上のほうにちょっと大きなほくろがある」。義妹がなぜそれを…

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【前後編の後編/前編を読む】3700グラムのわが子の誕生に、妻の手を握り号泣…なのにわずか7年で離婚 66歳再婚夫の「会えないひとり娘」への心残り

 杉野宏忠さん(66歳・仮名=以下同)は、60歳のとき、10歳年下の同僚・美陽子さんと再婚した。定年直後に心筋梗塞で倒れたことで、長く会えずにいる娘の存在を強く意識するようになったという--。娘は、宏忠さんが40歳のときに結婚した麻里さんとのあいだに生まれた。気楽で居心地のいい夫婦生活を送っていた結婚5年目に、3700グラムの女の子を授かった。「親になる器じゃない」と恐れていた宏忠さんも、妻のお腹に命を感じ、出産時には妻の手を握って号泣。ところが、その後ふたりは離婚し、宏忠さんは娘とも会えなくなった。夫婦に何が起きたのか。

「お義兄さんの太ももの上のほうにちょっと大きなほくろがある」。義妹がなぜそれを…

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 当時の妻の麻里さんとの関係がおかしくなったのは、娘が小学校に入学して間もないころだった。当時、妻の妹がときどき手伝いに来てくれていたのだが、彼女と宏忠さんが関係をもったという話を、麻里さんが持ち出したことだった。

「聞けば、義妹は僕と関係があったと麻里に伝えていたんですよ。僕はびっくりして、そんなことがあるわけないと断言しました。ところが義妹は『お義兄さんの太ももの上のほうにちょっと大きなほくろがある』と妻に言ったんだそう。確かにあるんですが、義妹がどうして知っているのか……とそのときはあわてるだけだった」

 だがあとから考えてみれば、宏忠さんは娘をあやしながらソファで居眠りをしたことがあった。真夏だったから短パンをはいていたのだが、短パンだと寝相によってはほくろが見える可能性もある。冷静になればわかることなのに、宏忠さんはあわてふためいてそのことに気づかないままだった。

「妻は激怒して妹をめちゃくちゃに殴り始め、僕はあわてて妻を止めました。義妹は家を飛び出し、僕は妻に追い出されて……。それきり妻の怒りはおさまらず、釈明することさえできずに離婚となってしまったんです。どうしてもっと話し合おうとしなかったのか、あとから考えたら本当に娘に悪いことをしたと思って」

 離婚届が送られてきたときも、彼は話し合おうと妻の留守電にメッセージを残したが返事はなかった。そのうち彼の電話番号はブロックされるようになった。しかたなく離婚届にサインして送り返した。その後も手紙を出して、娘に会わせてほしいと懇願したが、麻里さんから連絡はなかった。

恨まれたまま死にたくなかった

 ときどき養育費として現金を送っても、律儀に送り返されてきた。娘が中学に入る頃、自宅を訪ねてみると、ふたりはすでに越していた。妻の勤務先を訪ねたところ、警察を呼ばれてしまった。そこまで嫌われているなら、もうどうしようもないと悟ったのが50代後半だった。そして60歳のとき縁あって美陽子さんと再婚したのだ。

「定年になって心筋梗塞で死にかけて、ようやく蘇ったとき、やはり娘に会っておきたいと思いました。娘はきっと僕を恨んでいる。恨まれたまま死にたくなかったというのが本音です。今さら何かしてやれることがあるかどうかわからないけど、娘も成人したのだから彼女自身の意志で会うことができるのではないかと思ったんです」

 心筋梗塞で倒れてから半年後、彼はようやく動こう、娘に会おうと意志を固めた。そんなときタイミングよく、義妹から連絡があった。あれ以来、義妹とも完全に縁が切れていたので宏忠さんはひどく驚いた。

義妹からの衝撃の告白

「迷ったけど連絡したのは、お姉ちゃんががんになったから、と義妹は言いました。お義兄さんに会いたいとは言ってないけど、本当は会いたいと思っているはずだと。『あのときはごめんなさい。私、お義兄さんのことが好きだったの』と衝撃の告白までしてくれました。まさか義妹がそんなふうに思っていたとは。僕は何か恨みを買ってしまったのだとばかり思っていたんです」

 13年たって謎が解けたものの、今さらどうにもならない。ただ、宏忠さんは元妻の体調が気がかりだったので、元義妹に段取りをつけてもらって見舞いに行くことにした。美陽子さんには話せなかった。よけいな心配をさせたくなかったし、邪推されるのも嫌だったからだ。

「元義妹の手引きで、麻里が入院している病室へ行きました。入って行ったら娘がいて……。麻里は目を見開いていました。元義妹が娘を呼んでふたりは出て行き、麻里とふたりきりになりました。『妹は、ろくでもないことしかしないわね』と麻里がつぶやき、僕は思わずちょっと笑っちゃったんです。すると麻里も笑い出して……」

離婚の真相…

 乳がんなのよ、転移もあるみたいで、もうだめかもねと麻里さんはあっさりと言い放った。そして、今だから言うわと離婚の真相を明らかにした。

「『実は浮気していたのは私のほう。離婚してもらうためにあなたと妹のありもしない浮気をでっち上げたの。妹はグルじゃないのよ。妹があなたを好きだったのは本当。関係をもったことにして私を陥れたかったんだと思う。でもそれが思わぬ助けになって、私が慰謝料を払うことなく離婚できちゃったというわけ』って。あまりの衝撃に言葉も出ませんでした。ダブル不倫だったそうです。ただ、相手の男は結局、離婚してくれず、ずるずると数年つきあって別れたと。僕は思わず、『だったら別れたときに連絡をくれればよかったのに』と言ってしまいました。言ってしまってから、ああ、僕はやっぱり麻里のことが好きだったんだと自分でもようやく気づいた」

 そうしたらやり直してくれた? そう尋ねた麻里さんに、宏忠さんは力強く頷いた。そうだったのか、惜しかったわ、もうあなた再婚しちゃったんでしょと麻里さんは笑いながら言った。

「なんだかせつなくてたまらなかった。もうちょっと早く麻里と連絡をとれれば、僕はすべてを水に流してやり直したかもしれないのに」

娘との対面

 もういいわよ、こんな病気の私とやり直してとは言えないし、再婚しているならなおのこと。もうここへは来ないでねと麻里さんは言った。いや、また来るよと彼は言った。

「そうだ、娘に会わせなくちゃと麻里が言いだして。いつも、あなたのおとうさんはいい人だったのよと言ってあるから恨んではいないはずって。そこへ義妹が娘を連れて戻ってきました。『長い間、ごめん』としか言えなかった。『知ってる。すべて母が悪いのよ』と娘がサバサバした口調で言ったのでびっくりしました」

 この母には苦労させられたの、この叔母にもねと大学生の娘はきっぱり言った。そのふたりは、娘に「申し訳ない」と揃って頭を下げている。なんだこの人たちはと宏忠さんは呆れた。だが3人を見ているうちに、3人ともさまざまな葛藤を抱えていたはずなのに、なんとかがんばって軽やかに生きてきたのだろうと想像することができた。

前妻を病院へ…美陽子さんは疑いの目

 その後、元妻は手術を受け、放射線治療や抗がん剤などさまざまな治療を続けた。いつでも駆けつけるからと言ってあるが、「再婚した奥さんに悪いから」とほとんど連絡してこない。代わりに娘がときどき連絡をくれる。

「あるとき、娘が『麻里さんの体調が悪いの。病院に連れていきたいんだけど、私はどうしても試験があって抜けられない。この試験を受け損なったら留年しちゃう』と連絡してきたんです。娘と麻里はお互いに名前に“さん”をつけて呼んでいる妙な親子でして。そう言われたので、僕が麻里を病院に連れて行ったんです。たまたま仕事のない日で、美陽子も代休をとったから一緒に出かけるはずだった。でも、どうしても麻里に付き添ってやりたかったんです」

 それが4ヶ月ほど前のできごとだ。「仕事で緊急の用ができた」と言い訳して家を出たが、美陽子さんは疑いの目を向けていた。麻里さんを病院に送り届けると、少し体力が落ちているから入院したほうがいいと言われた。娘に連絡し、試験が終わったら行くと言った娘を待った。

「入院手続きを終えて、娘とふたりで病院近くでランチをとりました。ふたりきりでランチなんて初めてだった。『宏忠さんの人生を教えてよ』と言われましたが、どう伝えたらいいか迷いましたね。小学校に入学してすぐに別れた娘が、こんなふうに大人っぽい口をきくのがいまだに信じられなくて……」

妻の態度が冷たいような

 それでも何度か会ううちに、娘の個性をおもしろいと感じるようになった。麻里さんの育て方がユニークだったのだろう。改めて麻里さんの魅力を知ったような気がしたと彼は言う。

「麻里はその後、落ち着いて、今はまた職場に復帰しています。周りも温かく見守ってくれているようで。本人はもちろん、がんなんか克服してやると意気軒昂です。だいぶ病気と仲よくなってきたわよと、いかにも麻里らしい言い回しをしていました」

 美陽子さんとの仲も決して悪くなっているわけではないが、隠し事をしている後ろめたさが宏忠さんにあるため、ときおり美陽子さんの態度が冷たいような気がすることがあるようだ。

「この年だから美陽子が僕の浮気などを疑っているとは思えない。でももしかしたら疑われているかもしれませんね。何をもって浮気とするかは人それぞれでしょうし……」

 宏忠さんとしては、このまま前妻や娘といい関係を続けたい。だが美陽子さんとも仲よくやっていきたい。そう願っているのだが、いつかはこのバランスが破綻する予感もある。

「美陽子と万が一、破局となっても麻里が再婚しようと言うはずがない。そんな気がするんです。彼女には彼女なりのプライドがあるから、病気を抱えたまま僕を受け入れるとは思えない。麻里のことだと手に取るようにわかるのが不思議なんですけどね……」

本当に惹かれている女性と一緒にいたい

 勢いで離婚してしまったものの、再会してから麻里さんへの気持ちが生き生きと蘇っているのが伝わってくる。それなのに美陽子さんと別れるつもりはない。そういう男性を世間では「ずるい」と言うのだろうが、「今さら、大きな決断をしたくない」という宏忠さんの気持ちもわからなくはない。

 このままどこまでいけるかわからない。ただ、元妻の健康を祈りながら、ときどき娘に会い、今の妻とトラブルなく過ごしていければいいと彼は言う。

「もうちょっとで、ちゃんと老人になれるのだから、色恋で揉めたくないんですよ。でも一方では、やはり本当に惹かれている女性と一緒にいたい気持ちもある。僕が好きなのはやはり麻里だけど、彼女とは激しいケンカもしそうな気がする。つつがなく、うまくやっていけるのは美陽子だとわかってもいるんです。だから、このままいけるところまでいければいいと思っています」

 ずるいといえばずるいのだが、彼の気持ちもわからなくはない。もう揉めたくない、気持ちを揺さぶられたくない。老境にさしかかった心持ちは、そういうものかもしれない。

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 前妻への思いと現在の結婚生活との間で、宏忠さんは決断を避け続けている。記事前編では、定年直後の心筋梗塞を機に娘との再会を願うようになった宏忠さんが、麻里さんと出会い、娘の誕生を喜ぶまでを紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部