車のフロントガラスに「釘が刺さった人形」置き逮捕…非科学的な「呪い」が「脅迫罪」にあたる理由【弁護士解説】
他人の車のフロントガラスの上に釘やまち針を刺した人形を置き、「呪う」と刻んだCDをくくり付ける――。そんな行為をしたとして、被疑者が脅迫の疑いで逮捕されたという事件が報じられた。
釘やまち針が刺さった人形と、「呪う」と刻まれたCD――。被害者にとっては強い不安や恐怖を感じさせる悪質な行為といえるが、法律上、このような行為はなぜ脅迫罪にあたるのだろうか。
脅迫罪(刑法222条)とは「人の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加えると告知して、人を脅す罪」だ。法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金である。
刑法に詳しい雨宮知希弁護士によると、脅迫罪の成立には、以下の3つの要件を満たすことが必要とされる。
(1)害を加えるという告知があること
(2)それが生命・身体などに向けられていること
(3)一般の人を基準に、恐怖を感じさせるに足りる程度のものであること
一方で、「脅迫行為によって、実際に被害者が怖がった」といった結果が生じたか否かは、脅迫罪の成立には必ずしも関係しない。
そして、他人を呪ったり祟ったりするような行為に関しては「迷信的な害悪の告知」として、法律の世界では古くから議論されているという。
「純粋に『呪ってやる』『祟りがある』と相手に伝える、超自然的・非科学的な害悪の告知については、告知した本人が結果を左右できるものではないため、それ“だけ”を捉えると脅迫にあたらない、と説明されることがあります」(雨宮弁護士)
今回のケースも、CDに刻まれた「呪う」という文言だけをみれば、法的には脅迫罪が成立しない。
しかし、釘やまち針が刺された人形とは、人の身体を傷つけることを強く連想させる、攻撃的な性質を持つものだ。そのようなものが、「呪う」という言葉を刻んだCDを括りつけた状態で、被害者の生活圏にある車に、ひそかに置かれた。
「こうした一連の行為は、一般の人の立場からみれば、『相手が自分に強い害意を抱いており、身体などに危害を加えてくるかもしれない』という不安・恐怖を覚えるに足りるといえます。
このように、外形は『呪い』であっても、実質は加害の意思=生命・身体などへの害悪の告知と評価できる場合には、脅迫罪が成立し得るのです」(雨宮弁護士)
具体的には、以下のような要素が「脅迫」にあたるかを判断する際には考慮される。
告知の内容や体裁(釘や針を刺した人形、「呪う」の文言) 置かれた場所や方法(被害者の車や自宅敷地にひそかに設置した) 行為の反復性や継続性 当事者の関係やそれまでの経緯 一般の人であれば、どの程度不安や恐怖を覚えるか 精神疾患を発症させたら「傷害罪」他人に対し呪いの言葉をかける行為については、状況によっては脅迫罪のほかにも犯罪が成立する場合がある。
たとえば、呪いの行為を相手が認識できる形で繰り返し、それにより相手が精神疾患を発症したようなケースでは、傷害罪(刑法204条)が成立する可能性がある。法定刑は15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金だ。
「同罪における『傷害』とは、外傷(ケガ)だけを指すものではなく、人の生理的な機能に障害を与えることをいい、精神的な機能の障害も含まれると解されています。
判例上も、執拗な嫌がらせ行為を続けて、被害者にPTSD(心的外傷後ストレス障害)や精神衰弱などの精神疾患を生じさせた場合に、傷害罪の成立を認めたものがあります。
したがって、呪いの言葉を相手にかけ続けるなどの行為によって、被害者が医学的に精神疾患(うつ状態、PTSD、睡眠障害など)と診断される状態に至り、その発症と呪い行為との間に因果関係が認められる場合には、脅迫罪とは別に、傷害罪が成立する可能性があるのです。
ただし、単に『怖い』『気分が落ち込む』という程度では、傷害と評価されにくいです。医学的な診断がつく程度の精神疾患であることに加え、その発症と呪い行為との間に因果関係が認められることがポイントになります」(雨宮弁護士)
なお、特定の恋愛感情やその裏返しの怨恨などから他人を呪ったというケースであれば、ストーカー規制法が問題となる可能性もあるという。もっとも、ストーカー規制法は動機についての要件があるため、事案によって適用の有無は分かれる。
損害賠償が請求される可能性も他人に呪いの言葉をかけるなどの行為は、刑法上の犯罪に該当し得るのみならず、民法上の不法行為(709条)として、損害賠償責任を発生させる可能性もある。
たとえば、相手を怖がらせる行為をすることによって精神的苦痛を与えた場合には、慰謝料が請求される可能性がある(民法710条)。
また、相手方が精神疾患に至った場合には、治療費・通院交通費・(仕事を休んだ場合の)休業損害などの賠償を請求される可能性がある。
なお、刑事責任と民事責任は法的には別々に判断される。そのため、仮に刑事手続きにおいて不起訴ないしは無罪になった場合でも、民事上の責任までもが否定されるとは限らないのだ。
また、嫌がらせが続く場合には、被害者は人格権に基づいて行為の差し止め(接近やつきまといの禁止など)を求めることもできるという。
人を呪わば穴二つ――。呪い行為の方法や結果によっては、犯罪が成立したり、損害賠償責任が生じたりするなど、呪った本人が法的責任を負う可能性があるということだ。

