2024年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん(Instagramより)

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 2024年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん(29)。2020年の入社後、多くの人気番組を担当したが、2023年7月に体調不良を理由に休業を発表。退社後に、SNSでPTSD(心的外傷後ストレス障害)であったことを公表した。約1年の闘病期間を経て、再び前に踏み出し、NEWSポストセブンのエッセイ連載『ひたむきに咲く』も好評だ。そんな渡邊さんが、「親友の結婚式後に感じた"心の穴"」について綴ります。

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 ここ一年の生きる目標は、親友の結婚式だった。夏の入り口に、その目標の日がやってきた。親友とは高校時代からの仲で、学校行事で共に委員をやったり、旅行したり、10年以上の付き合いがある。

 3年前、トラウマを抱える出来事が起きた翌日に、私の家まで飛んできてくれたのも彼女だった。何も聞かずにそばにいてくれたり、私が言葉にできないときにも気にかけ続けてくれたり。そんな彼女はもちろん、彼女のご両親やお祖父様、お祖母様にも随分支えていただいた。親友御一家には、一生頭が上がらない。

 そんな彼女と、学生時代から約束していたことがあった。それが、彼女の結婚披露宴の司会を私が務めるということだった。学生の時は「まあ、結婚できるかわからないけど~」と笑い混じりに話していたが、その約束がいよいよ実行されることになった。

 結婚式の予定が決まってから、私もウェディングプランナーさんとの打ち合わせに参加したり、台本を書いたり、準備をした。ドレスや装花などを決める過程を横で見ていて、合理的かつ迅速に決断していく様子に、学生時代から変わらない彼女らしさを垣間見た気がした。物事の本質を素早く見抜き、迷いなく判断を下す力に長けているところが、彼女の魅力の一つだ。

結婚式のあとに涙がこぼれた理由

 結婚式は自然に囲まれた場所で行なわれ、終始、穏やかな幸せに満ちていた。彼女や旦那様の友人もやわらかな空気を纏う人たちばかりで、あたたかくて優しくて、心の底から2人をお祝いする居心地のいい空間だった。

 披露宴が始まると、私は大忙しだった。司会をしつつ、親友の写真を撮ったり、家族や久しぶりに会う友人と話したり。庭付きの会場だったのだが、途中でポツポツと小雨が降り始めた。2人が「あれ、やり残したな~」と思うことがないよう、最大限希望を叶えるために、式場のスタッフと雨雲レーダーを逐一確認しながら進行を変更した。

 そんなこんなで、私は披露宴中バタバタだったため、あっという間にお披楽喜になってしまった。新郎新婦が退場し、一日の様子を捉えたエンドロールが流れ始めた。これで私の仕事は終わり。

 無事に任務遂行できてホッとしながらエンドロールを見ていると、そこには、これまで十数年一緒にいた中で、最も美しくて最も幸せそうな彼女の笑顔が映っていた。新郎新婦から溢れ出た幸せが、周りの空気も明るく輝かせていた。もし幸福が目に見えるのなら、きっとこういう姿をしているのだ、と思った。

 帰り道、雨が強くなって、肌寒くなっていた。それまで仕事モードだった私の心の糸がほどけて、雨とともに涙がこぼれた。なかなか止まなかった。

大きな心の穴に問いかけてみたら……

 親友の結婚式が終わると、私の心にはぽっかりと大きな穴ができた。PTSDになって親友が自宅まで駆けつけてくれたあの日から、私は手に届きそうなくらいの未来に、自分以外の人と何かしらの契約をして(食事や旅行の予定)、それを目標にそこまで頑張って生きよう、というのを繰り返してきた。

 親友の結婚式はその最たるものだった。目標だった結婚式が過ぎると、私はもぬけの殻になり、空虚感が心を占めた。せっかくだから、私はこの心の大きな穴に向かって、「どうしたのー?」と聞いてみることにした。

 まず返ってきた答えは、生きる理由だった大きな目標がなくなったことによる茫漠とした思い。これは先述のとおり。

 次に、親友が結婚したから寂しいのか?と聞いてみると、そうではないことは確かであるとわかった。そもそも入籍したのはもっと前だし、その後もよく会っていて関係は変わってない。今後会う頻度が減ったとしても、それは問題ではないと思った。

 では一体、この心の穴は何なのか。それはたぶん、私には摑むことのできない普通の幸せを目の前にして気づいた、「何の疑いもなく未来を楽しみにする感覚」だと思う。

 トラウマの性質上、私は異性との関係を築くことが非常に難しくなった。今も、異性がいる小さな空間は耐えられなくてタクシーにも乗れないし、知り合いではない異性とはよほどのことがない限り話せない。異性への警戒心がいまだに解けない。

 PTSDになるまでは、他人を必要以上に警戒したり、距離を置いたりすることなんてなかった。人と会話をしたり、ご飯を食べたりすることを、何気なく、普通にできてた。だが今は、誰かを信頼の内側に入れるまでに長い時間を要するようになってしまった。無条件に他人を信じることが、途方もなく困難になった。

 過去に自分の意思や境界線を踏みにじられた経験があると、「嫌だと叫べばやめてくれる」「話が通じる」という、ごく基本的な信頼そのものを持つことが難しくなる。そんな私に、恋愛や結婚は厳しい。実際、私はトラウマを抱えた後、異性に触れられるたびに心臓がギュッと苦しくなってしまう。ちゃんと異性と付き合うことができていない。

「ただ幸せだけを受け取ることができる」贅沢

 友人たちが恋をして、結婚して、子どもを持っていく、幸せそうな様子をSNSで見かける。そのたびに、「私にも、こういう未来があったのかな」と思う。みんなが当たり前に得ていく普通の幸せを、私は手にできない。

 もし仮に好意を向けてくれる異性がいたとして、私も心では好きだと思っていても、私は時間差でトラウマからの攻撃を受ける気がする。手を繋ぐ時、ハグする時、キスする時、私はその都度、トラウマを思い出してしまう。何かしらの拒絶反応をしてしまいそうだ。

 私にとって、「好きな人と接触するたび、ただ幸せだけを受け取ることができる」というのはとても贅沢なことなのだ。

 トラウマによって奪われたのは、そのときの身体の安全や尊厳だけではない。人を好きになることへの無邪気さや、誰かに触れられることへの安心や喜び、結婚や家庭を思い描いたときの未来まで、トラウマによって変えられてしまった。

 私は、何の疑いもなく未来を楽しみにする感覚を失ったことに気がついた。これが心の大きな穴。たぶん、一生、埋まらない。埋め方の見当もつかない。これからどう生きていくのだろう。未来がちっとも楽しみではないのに、どうして生きていなければいけないのだろう。

 暗中模索していて、今のところ答えは見つからない。ただ、結婚式で目にした親友の幸福だけは紛れもなく本物で、私は心の底から嬉しかった。幸せそうに笑う親友を見て、私も幸せだった。自分にはできないかもしれない結婚式を、準備の段階から一緒に経験させてもらえたことも、本当にありがたかった。

 披露宴の帰り道、降りしきる雨の中、どうしてあんなに涙が止まらなかったのか。今になって、少しだけわかった気がする。

【プロフィール】
渡邊渚(わたなべ・なぎさ)/1997年生まれ、新潟県出身。2020年に慶大卒業後、フジテレビ入社。『めざましテレビ』『もしもツアーズ』など人気番組を担当するも、2023年に体調不良で休業。2024年8月末で同局を退社した。今後はフリーで活動していく。2025年1月29日に初のフォトエッセイ『透明を満たす』を発売。同年6月には写真集『水平線』(集英社刊)も発売。渡邊渚アナの連載エッセイ「ひたむきに咲く」は「NEWSポストセブン」より好評配信中。