「遺言書を隠しておけば…」〈父の遺産3億円〉の独り占めを企てた50歳長男→2年後、隠蔽工作がバレて相続権を失う末路【弁護士が警告】
亡くなった親が「全財産を特定の子に譲る」という遺言書を残していた場合、他の相続人には最低限の取り分である「遺留分(いりゅうぶん)」を請求する権利があります。本記事では、弁護士法人山村法律事務所の代表弁護士・山村暢彦氏が、遺産3億円を独り占めしようとした長男の事例をもとに、相続欠格について解説します。
「全財産を長男に相続させる」…〈遺産3億円〉父の遺言書
関東地方に住むリョウさん(仮名・50歳)は、同居していた父・ヒトシさん(仮名・80歳)を亡くしました。ヒトシさんの遺産は、自宅の土地建物や預貯金などを含めて約3億円にのぼります。
葬儀後、リョウさんが父の部屋を整理していると、机の引き出しから自筆証書遺言が見つかりました。そこには「全財産を長男のリョウに相続させる」と記されていました。
リョウさんには、実家を離れて暮らす弟のジンさん(仮名・45歳)がいます。本来であれば、遺言書を見つけた時点でジンさんに知らせ、相続の手続きを進めるべきでした。
しかし、リョウさんの頭にはある計算がよぎりました。
「弟にこの遺言書を見せたら、間違いなく『遺留分』を請求してくるだろう」
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の遺産の取り分のことです。今回のケースでは、ジンさんに遺産の4分の1、すなわち7,500万円を請求する権利があります。
「7,500万円も奪われるのは絶対に嫌」…長男が企てた遺言書の隠蔽工作
「親父の面倒を見てきたのは俺だ。7,500万円も弟に奪われるなんて絶対に嫌だ」
遺留分を請求する権利は、原則として相続開始と遺留分を侵害する遺言が存在することを知ってから1年で時効を迎えます。
リョウさんは「しばらく遺言書の存在を隠しておこう。ほとぼりが冷めたころに出せば、弟は遺留分を請求できなくなるはずだ」と考え、遺言書を書斎の引き出しに隠しました。
欲張った代償は大きい…遺言書の隠匿で「相続欠格」のペナルティ
それから2年以上が経過したある日、実家の整理を手伝いに来ていたジンさんが、書斎の引き出しから遺言書を偶然発見してしまいます。
「兄貴、この遺言書はずっと隠していたのか」と問い詰めるジンさんに対し、リョウさんは「俺が全額もらう権利があるんだから問題ないだろう」と開き直りました。
しかし、このリョウさんの身勝手な行動は法律上、決して許されるものではありませんでした。遺産を不当に独り占めする目的で遺言書を隠す行為は、民法が定める「遺言書の隠匿」に該当し、「相続欠格」という重いペナルティの対象となります。
相続欠格に認定されると、その人は相続人としての権利を一切失います。つまり、リョウさんは3億円の遺産を独り占めするどころか、1円も受け取ることができなくなってしまいます。
遺留分を惜しんで遺言書を隠した結果、全財産を失い悲鳴を上げることになったリョウさん。遺言書を隠す行為は、なぜこれほどまでに重いペナルティが科されるのでしょうか。
【弁護士が警告】「遺言書を隠して時効成立を待つ」が通用しない理由
本件でまず指摘したいのは、兄の「遺言書を隠して1年経てば、弟は遺留分を請求できなくなる」という計画自体が、かなり杜撰だという点です。
遺留分侵害額請求権の1年という期間は、単純に相続開始から進むのではなく、相続の開始と、自分の遺留分を侵害する遺言等があることを「知ったとき」から進行します。
つまり、兄が遺言書を隠していたのであれば、今度は「弟は以前から遺言書の存在を知っていた」と兄側で主張・立証しなければならず、自らの隠匿行為と矛盾しかねません。むしろ、不当な利益を得る目的で遺言書を隠したことが立証されれば、相続欠格に該当し、自分自身が相続資格を失う可能性すらあります。
実務上は、「知った・知らない」という争い自体を避けるため、可能であれば相続開始から1年以内を目安に遺留分侵害額請求の通知を行います。
しかし、法律上の起算点はあくまで「知ったとき」です。遺言書を隠して時効完成を狙うという発想は、法的にも極めてリスクの高いものといえるでしょう。

