《鹿児島中3男子自殺》「その調子だったら内申書を書かないぞ」学校中に響く大声で怒鳴り、不可能な指示を出して放置…判決で“違法”と断罪された女性教師の「恐怖指導」
2018年9月3日、鹿児島の中学3年生だったAくん(当時15歳)が、自室で静かに息絶えていた。首を吊っての自殺だった。
【写真】亡くなったAくんは女性教師に怯え、「クラス替えをしてほしい」と何度もこぼしていたが…。
その引き金となったのは、始業式の当日に担任の女性教諭Xから受けた、高圧的かつ理不尽な「指導」だった。

亡くなったAさん(仮名)
事件から8年後の2026年8月26日に鹿児島地裁で下された判決では、教諭Xによる指導を「教育的効果が認められない威圧的なものであり、正当性の範囲を超えた違法な行為」と断罪、鹿児島市に対して損害賠償の支払いを命じた。教育現場における教員の「不適切指導」が違法と認定されるケースは極めて少ない。
Aくんはなぜ自ら命を絶つほど追い詰められてしまったのか。教諭Xから受けた激しい指導の実態と、事件当日の全貌を追う。
校内中に響き渡る大声で怒鳴り、泣き出す者も…
Aくんが教諭Xに対して強い拒絶反応とトラウマを抱くようになった原点は、自殺の前年である2017年10月にまで遡る。
当時、2年生だったAくんはバスケットボール部に所属していた。遠征先で部員によるイタズラ事件が発生したが、A自身はこの件に一切関与しておらず、部内でも当初は問題視されていなかった。ところが1カ月後、他校の保護者からの連絡をきっかけに学校内で問題化すると、バスケットボール部の顧問でもなかった教諭Xが突如として指導に乗り出した。
教諭Xの行った懲罰は苛烈なものだった。
イタズラに関わった生徒を保健室に1対1で呼び出すと、近くにあった椅子を頭上高くに振り上げ、「どう思ってんだ!」と大声で威圧。さらに数日後、部員の保護者を集めた説明会が開かれた際にも、教諭Xの暴走は止まらなかった。
会場となった理科室から少し離れた廊下に生徒たちを整列させると、校内中に響き渡る大声で怒鳴り散らしたのである。そのあまりの凄惨な光景と大声に、生徒だけでなく説明を聞いていた保護者の中から泣き出す者が現れるほどだった。この時の音声データは保護者によって偶然録音されており、のちに裁判の重要な証拠として提出されている。
教諭Xの矛先は、当事者だけに留まらなかった。事件に全く関与していないAくんを含む部員全員に対し、「連帯責任」として毎朝の草むしりなどの奉仕作業を長期間にわたって強制したのだ。
自分が何も悪いことをしていないにもかかわらず、友人が目の前で激しく痛めつけられ、自分も理不尽な罰を科され続ける。連帯責任という名の見せしめ作業が続く中で、Aくんの表情からは次第に笑顔が消えていった。同時に、教諭Xに対して強い恐怖と嫌悪感を募らせていった。
しかしAくんが3年生に進級すると、担任に就いたのは、ほかでもない教諭Xだった。
1学期の間に、Aくんは母親に「X先生が嫌だから、クラス替えをしてほしい」と複数回こぼしていた。1学期はどうにか乗り切ったものの、事件は夏休み明け初日に起きてしまった。
「夏休み明けだからといってストレスを避けるようなことはせず、いつも通りの指導をした」
内閣府の「自殺対策白書」でも明らかなように、夏休み明けの9月1日前後は、18歳以下の自殺が1年で最も急増する危険な時期である。文部科学省からも全国の学校に対して警戒を呼びかける通知が出されており、同校の校長も始業式の日の職員会議で「生徒の心に寄り添う指導をするように」と全教員に注意を促していた。
だが、教諭Xはその注意を気に留めてはいなかった。「夏休み明けだからといってストレスを避けるようなことはせず、いつも通りの指導をした」と後に法廷で証言した通り、教諭Xは初日から容赦なく生徒へと襲いかかった。
2018年9月3日、始業式。Aくんは夏休みの宿題のうち、数点を学校に持参するのを忘れて登校した。とはいえ夏休み途中の出校日に提出すべき宿題はすべて提出しており、持参し忘れた宿題についても、事前に自宅で完成させていたものが大半だった。
それでも、教諭Xの威圧感を知るAくんは激しく動揺していた。休み時間、同級生に対して「宿題忘れた、やべーよ」と焦りを口にし、不安そうに落ち込んでいたという。
クラス内で宿題の未提出者は6人いた。教諭Xはまず教室で6人を一括して叱責したのち、Aくんと別の男子生徒の2人だけをピンポイントで職員室へと呼び出した。
職員室内に、教諭Xの大声が怒号となって響き渡った。
教諭X自身が裁判で「バスケ部員を廊下で叱責した声量が10段階評価のうち10ならば、このときは8くらいの声量だった」と認めたその声は、職員室の外にまで漏れ出るほどの威圧感を伴っていた。「自分の中でどうも思わないのね!」「ゲームばかりやってるからダメでしょうが!」と、Aくんを責める言葉が続く。
Aくんは提出できなかった宿題の中で、唯一手をつけられていないものに「数学のプリント集」があった。Aくんは正直に「紛失してしまった」と教諭Xに申告した。
教諭Xは「どうしたらいいの。そこはもう考えなさいね」「今日が締め切りだから、今日しっかり終わらせて持って来ないと」と突き放した。
「今日中に持って来い」という絶対に不可能な指示
しかし、実はこの日、数学の教科担当教諭は休みをとっており、学校を欠勤していた。つまり、Aくんがプリントの宿題を提出しようとしても、プリントを受け取ることすら不可能な状況だったのだ。
当日の提出など絶対に不可能な状態であるにもかかわらず、教諭Xは「今日中に持って来い」「どうするか自分で考えろ」と伝え、強い負荷を強いたのである。
のちの裁判で、教諭Xは「数学の教員が休みであることは授業変更でAくんも分かっていたはず。だからどうすればいいか自分に相談してくると思っていた」「友達のプリントを写せば当日中に提出できたはず」などと証言した。しかし、大声で怒鳴りつけられて極度の恐怖状態に陥っている生徒が、当の教師本人に相談するハードルは極めて高い。
判決もこの点について、「Aから見れば相談できるような状態にあったとは言い難く、全体としてみればAに対し、不可能を強いるものであった」と教諭Xの主張を退けている。
さらに教諭Xの暴走は、宿題の叱責にとどまらなかった。怒声の矛先はそのまま、生徒の将来である「進路指導」へとすり替わっていった。
「その調子だったら内申書を書かないぞ」
教諭Xは自ら椅子に深く腰掛け、目の前にAくんを立たせた。立ち尽くし、恐怖で青ざめるAくんに対し、教諭Xは逃げ場を完全に奪うような言葉の暴力を浴びせ続けた。
「その調子だったら内申書を書かないぞ」
「やる気がないんだったら味方しないぞ」
「提出がそんなに悪いと、マイナスのことしか書かないぞ」
「内申書がマイナスばっかりになるぞ」
「高校に行けないぞ」
「社会じゃ通用しないよ、やっていけないよ」
高校受験を控え、繊細な時期にいた中学3年生にとって、「内申書を書かない」「高校に行けない」という言葉は、己の未来を全否定されるに等しい絶望的な宣言だった。さらに人格まで侮辱されたAくんの目からは、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
Aくんは涙を拭いながら、失意のうちに職員室を後にした。
教諭Xは、それほど激しく動揺し、涙を流している生徒に対して、万が一の事態を防ぐために学校にとどめ置く、保護者に連絡して引き渡すなどの配慮をせず1人で帰宅させた。
同日午後5時40分ごろ、教諭XからAくんの母親の携帯電話に着信があった。
母親は尋問でその時の様子をこう振り返っている。
「『息子さんがカバンを学校に置いたままいなくなりました。宿題を出していなくて残していたらいなくなりました。どこか行きそうなところに心当たりはありませんか?』と言われました。心配しているような言い方ではなく、とても威圧的で、私も責められているような気持ちになりました」
虫の知らせを感じた母親が急いで自宅へ戻ると、学校からほど近い自宅には、すでに教諭Xが駆けつけていた。
そして、自宅の自室で母親がAくんを見つけた時、Aくんはすでに息絶えていた。
変わり果てた息子の姿を前に泣き叫ぶ母親の傍らで、教諭Xは「みんな一緒だったんです!」と叫び声を上げ、遺体に向かって「ごめん、Aくんごめん!」と錯乱したように叫んでいたという。その挙動から、教諭Xは現場に駆けつけた警察官から2度にわたって事情聴取を受けることとなった。
事件後、遺族は学校側から真摯な説明を受けることはなかったという。
指導が違法であることは認められたが、自殺の責任は認められず
裁判で遺族は、教諭Xの指導は「違法」で、自殺との間に明確な因果関係があると主張し、約6580万円の損害賠償を求めた。
鹿児島地裁は、教諭Xの指導が教育的指導の範囲を超えた「違法」なものであると認定し、Aくんは精神的苦痛を負ったとして市に33万円の賠償を命じた。しかし威圧的な指導そのものの違法性を認める一方で、自殺についての損害賠償は認めなかった。
つまり「違法な指導がなければ自殺は起きなかったが、教諭Xがそれを予測することは難しく、安全配慮義務違反とまでは言えない。よって、自殺についての損害賠償は認められない」という判断を下したことになる。
しかし、Aくんの母親はその判決にまったく納得していない。
「数学の担当教諭が当日欠勤していたことについて、X教諭は、調査委員会の聞き取りでは話さず、裁判の証言までずっと黙っていました。不適切な指導によって子どもの心が壊れてしまうのに、先生にはその認識がありません。大声で怒鳴る、椅子を振り上げる……社会一般ではパワハラと呼ばれる行為を『指導』で済ませないでほしい」
判決後、絞り出すような声で語ると、こう続けた。
「先生たちも、不適切な指導によって亡くなってしまう命があることを知って、子どもたちを守ってほしい。それは先生たち自身を守ることにもつながるはずです」
「息子に『あなたは悪くない』と言ってあげたい」--遺族は判決を不服として9月1日に控訴した。戦いは、今もなお続いている。
(渋井 哲也)
