NASA(アメリカ航空宇宙局)は2026年8月28日付で、ガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト(Neil Gehrels Swift)」の科学観測が再開したことを発表しました。


後述する軌道上昇ミッションに備えて、NASAはスウィフトの科学観測を一時的に停止し、空気抵抗を抑える姿勢で飛行させていましたが、軌道上昇が行われなくなったことから望遠鏡の運用を再開しました。スウィフトは2026年内に大気圏へ再突入すると予測されています。


運用継続に向けた軌道上昇ミッション

【▲ NASAのガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト(Neil Gehrels Swift)」のCGイメージ(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab)】

スウィフトは短時間で爆発的なガンマ線が放出される現象「ガンマ線バースト」の観測を目的に、2004年11月に打ち上げられました。搭載されている3基の望遠鏡でガンマ線・X線・紫外線・可視光線を捉えることで、ガンマ線バーストの発生検知からその残光の観測をはじめ、活動銀河や超新星爆発、太陽系内の小惑星や彗星といった天体や現象の観測を多波長で行うことが可能です。


ただ、地球の大気圏と宇宙空間の境界は高度100km(または80km)とされていますが、それより上空にも希薄ながら大気は存在していて、低軌道を周回する人工衛星や宇宙ステーションなどは大気の抵抗を受けて徐々に高度が下がっていきます。軌道を変更できるエンジンが搭載されていないスウィフトは、20年以上にわたって希薄な大気による抵抗を受けたことで、高度が低下し続けていました。


近年では、2024年に極大期を迎えた太陽活動がこの高度低下に拍車をかけました。地球の大気は太陽活動が活発化するとわずかに膨張するため、低軌道の人工衛星は大気から受ける空気抵抗が増加します。太陽活動が予想以上に激しくなったことで、スウィフトの高度は当初の想定よりも早く低下し始めたのです。


そこでNASAはアメリカのKatalyst Space Technologies(カタリスト・スペース・テクノロジーズ)社と2025年9月に契約を締結し、スウィフトの軌道上昇ミッションを決定しました。スウィフトには他の宇宙機がドッキングや把持(キャプチャー)を行うための機構が何も備わっていないため、Katalystはロボットアームを使ってスウィフトの主要構造を把持し、宇宙機の推進システムを使ってスウィフトの高度を上昇させる予定でした。


一方、NASAはKatalystの宇宙機が到着するまでスウィフトの高度低下をなるべく遅らせるために、望遠鏡の電源をオフにして科学観測を休止し、大気との抵抗が小さくなる姿勢でスウィフトを飛行させていました。当初は2026年夏頃に大気圏へ再突入すると見込まれていたものの、空気抵抗を低下させる姿勢で飛行し続けた場合、同年10月までは高度300kmを下回らないとみられていました。


NASA天文衛星「スウィフト」2026年に軌道上昇実施へ 米企業と契約締結(2025年9月26日)救出ミッション間近のNASA天文衛星「スウィフト」高度の低下ペースを遅らせることに成功(2026年5月28日)

LINKでトラブルが発生 軌道上昇を断念

【▲ NASAのガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」を捕捉し軌道上昇を行う無人宇宙機「LINK」のCGイメージ(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Katalyst Space/Northrop Grumman)】

軌道上昇を担うKatalystの無人宇宙機「LINK」は契約締結から1年と経たない2026年7月3日に打ち上げられたものの、同年7月下旬に姿勢制御でトラブルが発生。リアクションホイールの一部が停止し、コールドガススラスターも一部で機能低下がみられるなどの状況に陥り、機体は毎秒約9度の多軸回転(複数の軸を中心とした回転)を始めてしまいました。


Katalystのチームはホールスラスターの噴射を繰り返すことで回転を段階的に抑制し、同社は2026年8月5日付で毎秒約1.47度まで回転速度を低下させることに成功したと発表。同年8月11日には新たな姿勢制御アルゴリズムのアップロードに成功したことも発表されています。


しかし、同年8月19日、NASAとKatalystは姿勢制御の問題が続いているLINKによるスウィフトの把持と軌道上昇は行わず、データ収集のためのランデブー・近傍運用のみを行うと発表。この時点で、2026年内と予測されているスウィフトの大気圏再突入は避けられないことが確定していました。


NASA天文衛星「スウィフト」救出ミッションの宇宙機打ち上げ成功 動作確認経て軌道上昇へ(2026年7月4日)NASA天文衛星「スウィフト」軌道上昇ミッションの宇宙機「LINK」で姿勢制御に問題発生(2026年7月30日)NASA天文衛星「スウィフト」軌道上昇断念 宇宙機「LINK」はランデブーと近傍運用のみ実施へ(2026年8月20日)

高度300kmにはあと1~2か月以内に到達か

【▲ NASAのガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」のXRT(X線望遠鏡)で2026年8月26日に観測した「ティコの超新星」の超新星残骸。黒い直線は撮像システムの特性上生じたデータの欠損部分(Credit: NASA/Swift)】

NASAによると、スウィフトの運用チームは2026年8月26日、同年2月からオフになっていた「UVOT(紫外線・可視光望遠鏡)」と「XRT(X線望遠鏡)」の電源を再びオンにして観測を再開しました。同年4月からオフになっている「BAT(バーストアラート望遠鏡)」についても、数週間以内にデータ収集を再開できるように取り組んでいると述べています。


なお、2026年8月30日時点で、スウィフトは高度約339kmの軌道を飛行しています。科学観測が再開されたことで、望遠鏡の運用も困難になる高度300kmには1~2か月以内に到達することが見込まれるということです。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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