盆踊りアーティストで舞踊作家の高尾可奈子さん(写真:本人提供)

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夏の風物詩の盆踊りが、いま大きな盛り上がりを見せている。

8月8日に東京・渋谷で開催された、今年で7回目となる「渋谷盆踊り」には約6万7000人が参加し、前年から5000人増。その約3割を外国人が占めたという。さらに今年で14回目を迎えた東京・中野の「中野駅前大盆踊り大会」では約10万人を動員。いまや盆踊りは日本だけにとどまらず、フィリピンのセブ島やマレーシアなどの海外でも日本の規模を超えるほどの動員数で、世代や国境を越えて楽しまれている。

なぜ、いま盆踊りがここまでの盛り上がりを見せているのか。

一年を通して盆踊りを踊っているという、盆踊りアーティストで舞踊作家の高尾可奈子さんに、その魅力を聞いた。

「ひとつには、盆踊りのエンタメ化が進んでいることがあると思います」

その先駆けともいえるのが「中野駅前大盆踊り大会」だ。

やぐらを囲んで民謡を踊る昔ながらの盆踊りとはひと味違い、DJ KOOやLiSA、江頭2:50など著名人が出演するなど、まるで音楽フェスのような演出で年々来場者を増やしている。

なかでも名物となっているのが、ロックバンド、ボン・ジョヴィの『Livin’On A Prayer』で踊る盆踊りだ。

「毎年恒例になっていて、最終的にはボン・ジョヴィ本人からメッセージまで届いたんです。盆踊りをやっていたら、まさか海外のアーティスト本人にまで届くなんて、すごいですよね」(高尾さん、以下同)

今年は、M!LKの『好きすぎて滅!』やJuice=Juiceの『盛れ!ミ・アモーレ』など、最近のヒット曲で踊る盆踊りも各地で見られたという。

「伝統的な民謡だけではなく、現代音楽とコラボすることで、新しい楽しさが生まれています。ふと通りかかった若い方や外国人の人が『盆踊りってダサくないじゃん、楽しいじゃん』と、フェス感覚で参加するようになったんだと思います」

実際、東京・丸の内で行われる盆踊りも、そんな“フェス化”を象徴するイベントのひとつ。『東京音頭』発祥の地だけに、序盤は『東京音頭』や『銀座音頭』など、昔ながらの曲を踊る。しかし最後にはDJタイムが始まり、会場は一気に大規模な音楽イベントのような雰囲気になるという。

東京・浅草の「東本願寺盆踊り」では、サザンオールスターズのトリビュートバンドによる生演奏で『銀河の星屑』などを踊るのが恒例になっている。

「昔ながらの盆踊りを守りながら、今の人が楽しめる要素も入っている。そういうところが、いまの盆踊りの面白さだと思います」

■「お酒を飲まなくても、踊るだけでトランス状態」になる中毒性

もっとも、こうした“エンタメ化”だけが人気の理由ではない。盆踊りにハマった人たちを虜にする、独特の“中毒性”があるという。

「10曲くらい、30〜40分ぶっ通しで踊っても『まだ踊り足りない』となる人もいます」

その秘密は、盆踊り特有のゆったりとしたリズムと、シンプルな振り付けにある。

「ふだん聴いている音楽よりもテンポが緩やかで、振り付けも流れるような動きが多い。短い振り付けを繰り返していくので、一度覚えてしまえば、頭で考えなくてもずっと踊っていられるんです」

何曲も繰り返し踊っているうちに、次第に周囲の人との動きがそろっていく。

「みんなの動きがそろってくると、大きな波に飲まれていくような感覚になるんです。ちょっと悦に入るというか、ゾーンに入る感じ。お酒なしで酔っているような感覚になる人もいます」

高尾さんが表現するのは、いわば“集団陶酔”。

「お金もかけずに健康的にトランス状態が味わえる。それが盆踊りのすごいところだと思います」

思わず「もう一曲だけ」と輪に戻ってしまう。その繰り返しで、気づけば30分、1時間――。

盆踊りが“依存性がある”とまで言われるゆえんだ。

■初対面でも「目が合う」SNS時代に生まれるリアルなつながり

もうひとつ、現代の盆踊りならではの魅力が、人とのつながりだ。

SNSでは日々、誰かとつながっている。それでも、実際に同じ場所に集まり、同じ時間を過ごす機会は意外と少ない。盆踊りなら、初対面の人とも言葉を交わさずにコミュニケーションが取れるという。

「アイコンタクトしてくれたり、踊れない人がいたら、踊れる人がちょっと教えてくれたりするんです。初めての方でも受け入れてくれる雰囲気があります」

しかも、会話が苦手でも参加しやすい。曲と曲の間に輪の中へ入り、後ろの人に一礼する。あとは流れに身を任せて踊ればいい。

「知らない人同士でも、程よい距離感で一緒に踊れる。言葉を交わさなくても一体感を感じられるんです」

これもまた、SNSにはない盆踊りならではの魅力なのだろう。

■「盆踊りのために仕事を変える人も」 “盆オドラー”の深すぎる世界

こうして盆踊りに魅了されると、さらに深みにハマっていく人も少なくない。

「もう“盆踊り依存”ですね(笑)。日本各地の盆踊りに参加するために、仕事を変える人もいます。参加しやすい仕事に変えたという人も」

いわゆる“盆オドラー”たちは、夏だけ踊っているわけではない。

遠方の盆踊りへ“遠征”する人もいれば、シーズンオフの冬には仲間とオフ会を開き、各地の練習会に参加することも。

「冬も隔週くらいで踊っている人たちがいます。そこから友達を紹介して、また輪が広がっていく。コミュニティは確実にありますね。盆踊りをきっかけに結婚したりカップルになった人もいるようです」

ただ踊るだけではない。世代を超え、地域を超え、国境を超えて人と人をつなぐ――。盆踊りはいつの間にか、現代の新しいコミュニティにもなっている。

一方で地方では、少子高齢化や担い手不足などから、長年続いてきた地域の盆踊りが存続の危機に直面しているケースもある。

そんななか、盆踊りを地域活性化のきっかけとして復活させる動きも出ている。

「盆踊りって、年齢を問わず、若い人からご高齢の人、外国人まで参加できます。だから地域交流の場として、盆踊りに目をつけた地域もあるんじゃないでしょうか」

コロナ禍で数年間開催できなかったものの、近年の盆踊りブームをきっかけに「何年ぶりかに復活」という地域もあるという。

伝統を守るだけではなく、新しい人を地域に呼び込む。盆踊りは今、そんな役割も担い始めている。

■9月こそ盆踊り!秋祭りで“盆踊りトランス”を体験して

「盆踊り=8月」というイメージが強いが、実は9月以降も楽しめる機会はまだまだある。

なかでも注目したいのが、9月4、5日に開催される東京・浅草の「雷門盆踊り」。

浅草の大通りを封鎖し、大きなやぐらを囲んで踊る大規模な盆踊りで、通りに沿って細長く何重もの踊りの輪ができるという。

「大人数で盆踊りのトランス感を味わいたいなら、雷門盆踊りはおすすめです。人数も都内でも有数の多さ。やぐらから離れるとお手本が見えないので、各所にリードする人が立っていて、みんなで踊れるようになっています」

9月12日には東京の有明ガーデンで「有明まつり」も開催。全国各地の盆踊りを一曲ずつ楽しめるほか、ポップな曲も取り入れ、昼過ぎから夜まで6時間以上にわたって踊れるという。

さらに9月以降は、神社などで「奉納踊り」として行われる秋祭りも増えてくる。祭りのシーズンは11月ごろまで続くため、盆踊りを楽しむチャンスはまだ残されている。

「4時間踊っても足りなくて、その後、深夜まで踊れる場所があったら踊っていたりします(笑)」

夏が終わったからといって、盆踊りまで終わるわけではない。むしろ、暑さが少し和らぐ9月は、初心者が盆踊りの輪に飛び込む絶好のタイミング。太鼓の音に誘われて、知らない人たちと同じ輪の中へ。

一度入ったら最後、30分、1時間と踊り続け、「あと一曲だけ」と抜けられなくなる――。この秋は、そんな“盆踊り依存”の心地よさを味わってみるのもよさそうだ。