捜査官が大谷と水原受刑者の「メッセージの履歴」について明かした

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 ドジャース・大谷翔平(32)の銀行口座から約1700万ドルを盗んだとして、元専属通訳・水原一平受刑者(41)が不正送金の罪に問われた違法賭博事件。その捜査に当たった米連邦当局捜査員たちの肉声が、7月下旬よりスポーツ専門メディアのESPNが公開しているオーディオドキュメンタリー「大谷翔平を裏切った男」のエピソード5で報じられた。

【写真を見る】スキャンダル発覚当日、大谷が宿泊先ホテルで真美子さんに見せていた「覚悟の表情」。カードが押収された車の前で電話をする水原一平の姿も

 エンゼルス時代の水原受刑者と大谷がスマホで交わしたメッセージ約4万通の一部内容が明らかになったほか、事件発覚直前に水原受刑者が野球カードを大量に購入していた謎についても、スポーツ賭博で負けた分を取り返すための"悪あがき"だった可能性が浮上した。事件の取材を続けてきたノンフィクションライター、水谷竹秀氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む。以下敬称略】

捜査官が明かした「メッセージのやりとりの内容」

 エピソード5で取材に応じた米内国歳入庁の特別捜査官A氏によると、捜査対象となった水原と大谷の間で交わされたメッセージは約4万通あったという。すべて日本語でのやりとりだったため、日本語ができる捜査員が解読し、一部はGoogle翻訳を使って読み込んだ。その内容について、A氏はこう振り返った。

〈ごくありふれたことです。「何か食べよう」とか、「ねえ、これやろう」とか、「これ、何時だっけ?」とか。おそらくゲームの話もありました。でも、本当にありふれた内容でした〉

 2人のメッセージには、スポーツ賭博やギャンブルに関する内容は一切なかった。

 2年以上にわたって相棒から多額の金を盗まれ続けたことについて、事件発覚時、大谷の資金管理能力を問う声が米国内で高まった。エピソード5は、その疑問にも答えている。

 水原が電子送金に使っていた口座は、大谷が渡米時の2018年3月上旬、アリゾナ州フェニックスにあるバンク・オブ・アメリカで開設された。その際、通訳者として同行していた水原は、英語力が不十分だった大谷の隙をつき、口座情報を入手したとみられる。

 口座にはエンゼルスからの年俸が振り込まれており、大谷の代理人、ネズ・バレロ氏を中心とする財務チームによって管理されていた。この背景について、捜査を行なった米連邦検事のB氏は次のように説明した。

〈彼(大谷)は日常的な口座の確認には一切、関わっていませんでした。銀行の取引記録は英語で、彼(大谷)は英語を話したり読んだりができない。だから財務チームが存在していたのです〉

 大谷はそもそも、財務チームに多くを尋ねることがなかった。何か質問がある場合は、水原を通してチームに確認をしていた。口座からお金を引き出すことができたのも、大谷だけのはずだった。

〈(口座の)お金は数年間、手をつけられていなかった〉(B氏)

「野球カード大量購入」の意図とは

 水原はシーズン4年目の2021年9月からスポーツ賭博に手を出し、負けが込んで借金が積み重なった。ボウヤーから返済を迫られ、銀行に電話をかけて大谷本人になりすまし、電子送金を実現させた。検察の調べによると、なりすました回数は24回に上った。

 水原からボウヤー側への送金は2024年1月8日を最後に途切れる。だが、その後も水原は大谷の口座を使い続けた。ネットショップで野球カードを購入していたのだ。使った金額は32万5000ドル(約5000万円)で、捜査当局は水原の車から大量のカードを押収した。大谷のものだけでなく、ニューヨーク・メッツに所属しているフアン・ソト外野手、ヤンキース史上最高の名捕手と言われたヨギ・ベラ元選手のものなど、「推定20万ドル」(A氏)もする高額なプレミア品も含まれていた。カードを押収したA氏は、ESPNのティシャ・トンプソン記者の取材に、水原の購入意図についてこう答えた。

〈彼(水原)には別の計画があるようだった。ギャンブルでの損失を埋め合わせるため、将来的に価値を持つものに変える投資のような手段だったのではないか。彼は大谷翔平のカードをたくさん持っていた。推測だが、大谷にサインをもらおうとしたのではないか〉

 その時点で、送金先だったボウヤーはすでに家宅捜索を受けていたため、事件発覚は時間の問題だったはずだ。にもかかわらず水原は野球カードを大量に購入し、最後の悪あがきをしようとしたのだろうか。

 実際、大谷がドジャース1年目に達成した50本塁打&50盗塁(2024年9月19日)の場面のサイン入りカードは、歴代最高の68万6250ドル(約1億1000万円)で落札されている。水原が購入したカードがエンゼルス時代のものだったとしても、サイン入りであればある程度の価格は見込める。裏を返せば、水原はそれほどまでに追い込まれ、我を失っていたのかもしれない。

〈彼(水原)は詐欺師だと思う。彼は、利用できるチャンスを見抜いた人物だ。大谷が契約を結ぶやいなや、彼(大谷)に近づいて親しくなった。アメリカでの生活や現地の習慣を理解するために、彼(水原)を「シェルパ」として心から頼りにしていた大谷を悪用したのだ〉(米連邦検事のC氏)

 通訳者として、大谷の成功に寄与するパフォーマンスを発揮していた水原の姿は、もはやそこにはなかった。何が水原をそこまでさせてしまったのだろうか。

【プロフィール】水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)などの著書がある。10年超のフィリピン滞在歴を基に「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材を続け、ウクライナでの戦地ルポも執筆。