「青空エール」竹内涼真

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 何気なく見始めたらテレビの前から動けなくなった、地元チームの試合結果だけは気になる、自分もかつて出場を夢見ていた――「夏の甲子園」こと全国高等学校野球選手権大会は、日本の夏の一部といっても過言ではないだろう。一体なぜ球児たちの姿は我々を魅了し続けるのか。映画解説者の稲森浩介氏が、そのヒントとなる「夏の甲子園映画」5本を紹介する。

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【写真】やっぱり野球でしょ! 「甲子園の映画」に登場した俳優と選手たち

2人が目指す甲子園

〇「青空エール」(2016年)

 甲子園を目指す野球部員と吹奏楽部員を、竹内涼真と土屋太鳳が演じた。

 高校に進学した小野つばさ(土屋)は、ブラスバンドの応援に憧れて名門の吹奏楽部に入部した。しかしトランペット初心者のつばさは、練習についていけない。そんな彼女を励ますのは、野球部員の山田大介(竹内)だった。2人は互いに励まし合い、大介は甲子園に出場し、つばさはスタンドから演奏で応援することを約束する。

「青空エール」竹内涼真

 直球ど真ん中の青春映画だ。高校野球とそれを応援するブラスバンド。この最強の取り合わせに主役2人の清々しさが加わり、王道をひた走る作品となっている。それでも、吹奏楽部内の金管楽器と木管楽器のグループ同士の反目や、メンバーに選ばれない辛さ、ケガで大会に出られない大介のエピソードなど、高校生の挫折感も丁寧に描かれている。

 つばさにも、吹奏楽部の全国大会出場という夢があった。劇中たびたび「普門館に行く」というセリフがあるが、当時、吹奏楽部の全国大会は東京の普門館ホールで開催されていた。「吹奏楽の甲子園」と言われていた場所だ。

 クライマックスの地区予選決勝戦。これに勝てば甲子園だ。9回裏、逆転のチャンスの場面で打席に立つ大介。その時つばさがソロで吹く「セント・ポール」(Our Boys Will Shine Tonight)の調べが、エールのごとく青空に鳴り響く。果たして2人は甲子園に行けるのだろうか。

余命半年の教え子

〇「泣くな赤鬼」(2019年)

 野球部監督の小渕隆(堤真一)は、ある日病院でかつての教え子・斎藤智之(柳楽優弥)と再会する。斎藤は末期がんで余命半年だった。

 小渕は陽に焼けた赤い顔で鬼のように厳しく指導することから、赤鬼と呼ばれていた。甲子園出場を目指す強豪校の監督だったが夢は叶わず、今はありし日の情熱を失っていた。指導者が抱く野球や部員たちへの思いを描く作品だ。

 小渕は、才能ある斎藤がさらに良い選手となるために厳しく指導していた。しかし斎藤はその考えを理解できずに反発して、野球部を辞め、学校も退学してしまう。あれから10年、死期を悟った斎藤の「もう一度野球をやってみたい」という頼みを聞いて、小渕は現在監督をしている野球部員にグラウンドに集まってもらう。

 斎藤が後輩に言う言葉が心に残る。「バカな先輩だろ。死ぬ前にやり残したことが野球なんてさ。高校の時に済ましとけよって話だよな」。そして「ありがとう」と言って帽子を取り、頭を下げ、動かない身体で小渕のノックを受ける。小渕も斎藤も、やり残してきたものが何かを探して生きてきたのだ。

 ラストの辛い別れのシーンは、撮影時にスタッフが全員泣いたという。堤も公開当時に「自分が出演した映画を見て泣いたのは初めてかもしれない」と語っている。人生は負ける人の方が圧倒的に多い。その負けをどうやって自分の中で生かしていくのか、そんなことを教えてくれる作品だ。

元高校球児たちの甲子園

〇「アゲイン 28年目の甲子園」(2014年)

 ついに行けなかった甲子園。中年になった元高校球児たちが、再び憧れの場所を目指す物語。彼らが出場する「マスターズ甲子園」とは、現役時代の出場の有無に関わらず、地区予選で勝ったチームが出場できる大会だ。

 46歳の坂町晴彦(中井貴一)は、かつて夏の高校野球で地区予選決勝まで行った経験があった。ある日、マスターズ甲子園のスタッフ・戸沢美枝(波瑠)が大会出場をすすめに訪ねてきた。美枝はかつてのチームメイト・松川(太賀、現在は仲野太賀)の娘だったが、坂町は頑なに出場を断るのだ。

 離婚していた坂町は、娘・沙奈美(門脇麦)からは拒絶され仕事にも熱意がない日々を送っている。エースだった高橋直之(柳葉敏郎)はハローワーク通いで、甲子園に行けなかったことを今でも引きずっていた。大会出場を拒む坂町たちには、ある理由があった。高校時代と現代が交互に描かれ、忘れられない事件が徐々に明らかになっていく。

 やがて坂町たちは、あの夏に決着をつけるために出場を決意する。太り過ぎで走れなかったり、トンネルしたりするが皆真剣だ。甲子園はやはり特別な存在なのだ。そしてもう一つ、この大会の魅力は試合後に行われるキャッチボールだろう。自分が大切に思っている人と、グラウンドでキャッチボールをする。登場人物たちが、それぞれ誰とするのかが見どころだ。

 失ったものはたくさんある。それでももう一度あの瞬間を感じてみたい。昔失くしたものがある日突然届けられたような、そんな思いがつのるのだ。

応援席のドラマ

〇「アルプススタンドのはしの方」(2020年)

 アルプスタンドとは、甲子園球場の内野と外野の間にある席のことで、出場校の生徒たちの応援席だ。名前の由来は、白いシャツで埋まっているスタンドがアルプスに積もる雪のように見えるところから名付けられたという。

 夏の甲子園1回戦。アルプススタンドに、演劇部の安田あすは(小野莉奈)と田宮ひかる(西本まりん)が座る。2人は学校に言われて参加しているだけで、応援にも熱が入らない。そこに元野球部の藤野富士夫(平井亜門)と優等生の宮下恵(中村守里)もやってきた。試合のイニングが進むにつれて、安田と田宮の間のわだかまりや藤野が野球部を辞めた理由、そして宮下の勉強と恋の悩みなどが少しずつわかってくる。

 当初は冷めた思いで試合を観る4人だったが、試合に出られないのに頑張っている野球部員を見て、少しずつ心が動き始める。諦めたくない、どうせだめだと思いたくない。最終回にその野球部員が打席に立つと、いつのまにか声の限り応援していた。

 舞台劇を映画化したもので、試合の場面はなく応援席の会話と吹奏楽部の演奏する様子が中心の異色の“甲子園映画”だ。城定秀夫監督は、その限られた空間と人数で、高校生たちが未来を見つめ直す一瞬を切り取る。ラストに成人になった4人が映される。そこで交わされる会話はとても素敵なオチだ。

 主役はグラウンドの選手だけではない。スタンドにいる生徒たちも、希望と不安を抱えながら生きているのだ。清々しい試合を観終わったような気分になれるだろう。

高校野球と日本社会

〇「甲子園:フィールド・オブ・ドリームス」(2020年)

 第100回夏の甲子園大会(2018年)出場を目指す、神奈川県・横浜隼人高校と岩手県・花巻東高校の監督と球児を追うドキュメンタリー。

 横浜隼人高校の水谷哲也監督は「自分は昭和の頑固親父でありたい」と言う人だ。野球の指導だけではなく挨拶、グラウンド整備、道具の手入れなどを通して生徒の人間形成を目標とする。

 佐々木洋監督は、水谷監督の下でコーチを経験後に花巻東高校の監督となり、菊池雄星、大谷翔平と大リーグ選手を輩出して一躍有名となった。先日、息子の麟太郎がマーリンズ入団を発表したことでも知られている。

 山崎エマ監督は、高校野球を日本社会の縮図と捉え、海外で知ってもらいたかったと言う。自然と規律や調和が身につく高校野球という、日本独特の文化に光をあてたかったのだろう。

 作品は、水谷監督と佐々木監督を対照的な存在として映しだす。昔ながらの指導方法で、選手に愛情を注ぐ水谷監督。一方の佐々木監督は、頭髪の丸刈り廃止を宣言する。「高校野球は古くて良いものもいっぱいあるが、新しいものも取り入れなくてはならない」と。

 当時、強豪校の決断は大きく報道されたが、現在も丸刈りの学校は多い。佐々木監督は「ちょっと驚いています。もっと急速に変わると思っていました」と語っている(「文藝春秋」2026年9月号)。

 日本の高校野球も変わりつつある。それは、世界と繋がることによって変わっていく日本社会と同じだ。変化は古くから続く良さを大切にすることと、進取の気性が折り重なりながら成されるのかもしれない。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部