「船の飲酒運転」なぜ“野放し”、事故なら億単位の賠償金発生も…“保険が下りない”は本当か?【弁護士解説】
マリンレジャーの人気拡大に伴い、小型船舶の飲酒操縦やローカルルール違反による重大事故が深刻な問題となっている。1月に海上保安庁が発表した海難発生状況では船舶事故隻数は1708で、そのうち831隻がプレジャーボートだった。
現行の小型船舶操縦者法では飲酒操船に直接の罰則がないため、相次ぐ死亡事故を受けて自治体単位で罰則付き条例を導入する厳罰化の動きが広がっているのが実情だ。また、痛ましい衝突事故では業務上過失致死傷罪の適用やローカルルールの違反が問題視されるなど、操縦者の法的責任はより一層重くなっている。
業界内での教育強化が進む一方、酒気帯び操縦による不祥事は後を絶たず、さらなる規制強化と操縦者一人ひとりの規範意識の徹底が強く求められている。
法的には道路交通とは異なる部分もあり、万一の場合に被害者が十分な補償や賠償を受けられない可能性もある。そこで、事故等の対応実績も豊富な荒木謙人弁護士に、小型船舶で事故を起こした場合の法的リスクについて聞いた。
なぜ船舶には「酒気帯び罰則」がないのか荒木弁護士:「海上では、道路のように通行地点を絞った組織的・網羅的な検問を継続的に実施することが物理的に難しく、数値基準を設けた場合にどのように検査機会と取締り体制を確保するかが問題となります。
また、小型船舶は漁業・運送・レジャーなど利用形態が多様で、航行水域や操縦態様も異なるため、一律の数値基準、検査手続、取締り体制をどう設計するかは検討課題となります。このような状況が立法するにあたってのハードルになっていると考えられます」
荒木弁護士:「船舶職員及び小型船舶操縦者法23条の40は、アルコールの影響により正常な操縦ができないおそれがある状態での操縦を禁止しています。
全国一律の刑事罰はありませんが、事故の有無にかかわらず、海上保安官や警察官が違反を知った場合は、国土交通大臣へ通知する制度があり、違反点数に応じて戒告や最長6か月の業務停止等の行政処分の対象となり得ます。
これに加え、海難事故の捜査、現場での直接把握、自治体条例による取締りが行われます。例えば、滋賀県琵琶湖等水上安全条例では、酒に酔った状態で船舶を操船した場合、3月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象となります」
荒木弁護士:「刑事責任としては、飲酒の影響による操縦上の注意義務違反によって人を死傷させた場合、事案により業務上過失致死傷罪または重過失致死傷罪(刑法211条、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)が成立し得ます。
民事責任としては、不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)として、死亡事故であれば、逸失利益・慰謝料等を合わせて数千万円から、事案によっては億単位に及ぶこともあります」
荒木弁護士:「損害保険の適用は、船体損害、搭乗者傷害、第三者に対する賠償責任など、補償の種類と個別の約款によって結論が異なります。
船体保険等では、飲酒操縦や重大な過失による損害が免責となる約款があり得ます。
他方、第三者賠償責任保険は、飲酒や重過失があるというだけで当然に不払いとなるものではありません。保険法17条2項は、被保険者の故意による損害を免責としており、実際の保険金支払いは、約款・特約を確認する必要があります。
したがって、『飲酒操縦であれば必ず保険金が支払われず、賠償金が全額自己負担になる』とは一概にいえません」
荒木弁護士:「現行制度は、国法上の遵守事項と行政処分を基本とし、一部の水域で自治体条例が刑事罰を補う構造です。そのため、水域によって刑事罰の有無や基準が異なり、利用者にとって規制が分かりにくいという課題があります。
立法する場合の選択肢としては、①国レベルでの酒気帯び操縦に対する直接罰の導入と数値基準の設定、②全国的な呼気検査の権限・手続の整備、③飲酒状態で事故を起こした場合の加重処罰などが考えられます。
また、小型船舶の利用者に対し、飲酒操縦を行うと、行政処分や条例上の刑事罰の対象となり得るだけでなく、事故を起こせば業務上過失致死傷罪等の刑事責任や、高額の賠償責任を負う可能性があるということを、周知徹底する必要があるでしょう」

