大乱闘が行われた甲子園球場

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 グラブを地面に叩きつけ、「来るなら来い!」と応戦する投手。怒りに任せてマウンドへ突進する打者。今のプロ野球では、まずお目にかかれない光景である。【久保田龍雄/ライター】

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3日連続の“死球合戦”

 近年、プロ野球では派手な乱闘シーンがほとんど見られなくなった。最後の本格的な乱闘ともいわれるのが、2019年8月13日の西武対オリックス戦だ。乱闘といえば、派手な大立ち回りがこれでもかとばかりに見られた昭和や平成初めのイメージが強烈だが、2000年代以降にも複数の退場者を出す騒ぎは少なからず起きている。そんな近年の乱闘シーンをプレイバックしてみよう。

乱闘が行われた甲子園球場

 2002年7月25日の阪神対巨人の伝統の一戦で起きた乱闘劇では、阪神・アリアス、巨人・入来祐作の2人が退場となった。

 事件が起きたのは、阪神が4対1とリードした7回だった。

 2死無走者で、この日初回に先制タイムリーを放った4番・アリアスが打席に入ると、入来の初球はアリアスの背中を通過してバックネットを直撃する大暴投になった。

 この暴投には伏線があった。3連戦初日の7月23日に清原和博、この日も阿部慎之助が死球を受けていた。阪神も前日に矢野輝弘が死球を受けており、報復にも思える3日連続の“死球合戦”に、グラウンドには不穏な空気が流れていた。

 入来自身、「マウンド上ではアドレナリンが出がちな私としては『死球を受けたチームメイトの仇を取るならココだ!』と思い込んでしまっていました。ぶつけないまでも、脅かしてやった方がいいだろう」(自著『用具係 入来祐作〜僕には野球しかない〜』講談社)と攻撃的な気持ちになり、これが背中を通過する危険な一球への引き金となった。

 思わずヒヤリとする大暴投に、アリアスは避けて事なきを得たが、直後、入来に怒りの言葉を投げつけ、鬼の形相でマウンドへ向かっていった。

 入来は逆切れしたような表情でグラブを地面に叩きつけ、両手で胸を叩くジェスチャーを見せ、「来るなら来い!」とばかりにファイティングポーズを取った。

 この挑発パフォーマンスにますます激高したアリアスは、そのまま入来に向かって突進。片腕で抱え込みながら、一発パンチを浴びせた。

 これを合図に両軍ナインがベンチを飛び出し、大乱闘が始まった。コーチ陣やブルペンにいた選手たちまで参戦し、上を下への大騒ぎとなった。

 巨人・村田真一コーチが阪神の選手に飛びかかると、阪神・星野仙一監督は「コーチがそんなことして、ええんか!」と叫びながら掴みかかった。村田コーチは“闘将”の気迫に怯むことなく、互角に応戦する。

 事件の主役となったアリアスは、桑田真澄、ファーストの江藤智、サードの元木大介の3人がかりで制止され、さすがに分が悪そうだった。桑田は冷静さを失わず、英語で「入来は狙ったわけじゃない」と懸命に説得した。

清原はアンダーシャツ姿で

 この日、故障のため先発を外れ、ベンチ裏で針治療を受けていた清原和博は騒ぎを知ると、アンダーシャツ姿でお尻に針が刺さったままグラウンドに乱入した。

「いざ参戦!」とタックルの姿勢を取った直後、後ろからかつてのチームメイト・広沢克実にブロックされ、動きを封じられてしまう。それを見た星野監督は矛先を変え、清原の胸ぐらを掴んで怒声を張り上げた。

「針を打ってたから、出遅れてしもうた。オレがファーストにいれば、イの一番に駆けつけられたのに、入来に悪いことしてしもた。状況は全然わからんかった」(清原)

 友寄正人球審が入来を危険球、アリアスを挑発行為で退場にする旨をアナウンスしたが、騒然となったスタンドの歓声や怒号にかき消され、グラウンドではなおも断続的に乱闘が繰り返された。

 スコアラー登録でベンチ入りしていた阪神のオマリー特命コーチも、巨人・西岡良洋コーチに詰め寄り、最後まで乱闘の輪の中にいた。グラウンドに出ることを認められていない立場でありながら、ベンチを飛び出してもみ合いに加わったため、翌日、口頭注意の処分を受けている。

 8分の中断後、試合が再開されると、退場になったはずのアリアスが引き続き打席に立とうとした。スタンドの大歓声で退場のアナウンスが聞こえなかったようで、改めて退場を告げられた。

 星野監督は再びベンチを飛び出し、「どうして両者退場だ。それならぼろピッチャーを出して、松井(秀喜)や清原の背中を通して退場させることは、いくらでもできる」と猛抗議。乱闘騒ぎについても、試合後、「それも野球のうち」と勇ましい発言が飛び出した。

 巨人・原辰徳監督は「基本的に審判のジャッジに従うという基本姿勢を我が軍は持っています。そういう判断をされたら、そういうことでしょう」と素直に裁定に従った。入来祐作は「危険球と判断されたんなら仕方がない」とコメントした。

 友寄球審は「入来のボールはすっぽ抜けだと思った。ただ、入来が(アリアスに)応じたから、危険球と見なして退場にした。アリアスは(入来を)殴っていたんで退場にしたんだが、歓声でアナウンスが聞こえなかったのは反省です」と説明した。

 試合はその後、巨人が8回に松井の2ラン、9回に後藤孝志のタイムリーで4対4の同点に追いついた。しかしその裏、阪神は1死満塁から沖原佳典がプロ初のサヨナラ打となる右前タイムリーを放ち、5対4でサヨナラ勝ちした。

 乱闘後、巨人は終盤に反撃して同点に追いついたが、阪神も最後に意地を見せた形だ。

 主役は入来とアリアスだったが、星野監督、清原、桑田、広沢ら“助演者”も実にキャラクターが濃い。それぞれがイメージどおりの言動を見せたことも含め、長く記憶に残る乱闘劇だった。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)

デイリー新潮編集部