12秒60の日本新記録を樹立し、カメラにポーズを取る中島ひとみ【写真:奥井隆史】

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「THE ANSWER 陸上PLUS|STORY」 Athlete Night Games in FUKUI

 中島ひとみには、届けたい姿がある。15日に行われた陸上の日本グランプリ(GP)シリーズ「Athlete Night Games in FUKUI」女子100メートル障害決勝で12秒60(追い風0.7メートル)の日本新記録を樹立した。9日の富士北麓ワールドトライアルで自身が更新したばかりの日本記録、アジア歴代2位の12秒62を上回り、2週連続の日本記録となった。レース後、遠回りも経験したキャリアの信念を明かした。

 速くなり続ける31歳・中島ひとみ。その歩みは、決してずっと順調だったわけではない。

 前週の富士北麓ワールドトライアル。12秒62の日本新記録を叩き出した日、記録達成について「タイムを出した時、少し泣いてしまいそうになったんですけど……」と照れ笑いしながら、ふと過去の自分を思い出した。

「昔の自分に言ってあげたいなという気持ちです」

 中3で全中優勝。高2で国体と日本ユースを制し、将来を嘱望されたハードラーだった。だが、高3以降はタイトルから遠ざかった。大学時代も日本インカレ5位が最高成績。華々しかった10代中盤とは違う時間が流れた。

 それでも走ることをやめなかった。

 昨年より今年、昨日より今日……。着実に、一歩ずつ前に進んだ。そして、30歳を迎える昨年、初めて日本代表のユニホームに袖を通した。母国で行われた東京世界陸上に出場し、準決勝に進出した。

 だから、今の中島には伝えられることがある。

「この前、インターハイもあって、素晴らしい結果もたくさんあったと思うんですけど。必ずしもずっと上手くいくのは難しい中で、何か私がこれからの高校生、大学生になる子たちに、昔はそうだったけど、今こうして走ることができていると伝えられたら良いなという風に思います」

 高校時代に勝った選手が、その先もずっと勝ち続けるとは限らない。今、結果の出ない選手の未来が、そこで決まるわけでもない。

 中島自身が、そのことを走りで証明してきた。

「過程が自分の人生をすごく豊かにしてくれる」

 北麓での12秒62は、実に8年連続となる自己ベスト更新だった。

 自身のインスタグラムで「競技を続けるほど、0.01秒動かすことがどれだけ難しいか わかってるからこそ、昔よりもこの更新がものすごく嬉しい」と胸中を記した。そして、前週からわずか6日、また日本記録を更新した。

 この会場で行われた大学4年の日本インカレで記録した自己ベストは13秒60。9年かけ、1秒縮めた。レース後、「12秒60」のタイマー表示とともにポーズを取る。福井のナイター照明に照らされ、中島のまぶしい笑顔が弾けた。

 ただ、数字ばかりが注目されるが、中島には記録よりもっと大切にしていることがある。

「コツコツ積み重ねるのが自分のスタンスであり、今もそれはずっと変わらない。日本記録を出したからといって、そこを守り続けるとかでは全くなくて。それが落ちても別に良くて。自分はそこまでの過程をすごく大事にしたい。

 競技がなくなった時に自分に何が残るんだろうと思ったら、もちろん記録とかも大事だけど、そこまでの道、過程が自分の人生をすごく豊かにしてくれるんじゃないかと思います。

 そこを自分の中では大切にしていきたいと思いますし、今の若い子たちにもそういう風に伝えられるような走りができたら、私はアスリートとして嬉しいかなと思います」

 31歳。中島ひとみはまだ速くなる。その一歩一歩が、思うようにいかない時間を過ごす誰かの道しるべになる。

(THE ANSWER編集部)