なぜ国会議員は、都心一等地のマンションに破格の家賃で住めるのか。TBSラジオ記者の澤田大樹さんは「国会議員には、歳費、不逮捕、免責という憲法上の3大特権だけでなく、議員会館や宿舎にも一般人には考えられない待遇が用意されている。ただし、選挙に落ちればその恩恵はあっけなく消える」という――。(第2回)

※本稿は、澤田大樹『永田町の人をウォッチしてみた』(カンゼン)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Masaru123
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Masaru123

■国会議員が持つ「3大特権」

国民の代弁者たる国会議員には、さまざまな“特権”が与えられています。それはどんな内容なのか、憲法で定められた3大特権を見ていきましょう。

まずは、憲法49条で定められた「歳費特権」。国がその人の身分を保証し、国から歳費という名の給料が出るという特権です。

次に、憲法50条で定められた「不逮捕特権」。国会の会期中は逮捕されない、という特権です。例外として現行犯逮捕の場合や、警察や検察側が逮捕許諾要求を国会側に提出した場合は会期中でも捕まえられるというルールがあります。

ただ、「逮捕許諾要求」で提出すべき書類の記載内容があまりにも細かく、警察や検察はすべての証拠を固めた上で、手の内をさらさなければいけません。そこまでして会期中に逮捕したくないということもあり、国会が閉じると逮捕者が出るのが一般的。1月に通常国会が開くまでの、年末からの1カ月間や、6月に通常国会が閉まったあと臨時国会が始まるまでの大体3カ月間が、逮捕のチャンス期間となります。

尚、逮捕された議員に対して、国会側が要求すれば、国会が開いている間は釈放しなければいけないというルールもありますが、実際に釈放されたケースはゼロです。

■なぜ「不逮捕特権」があるのか

悪いことをした政治家が逮捕されないのはおかしい! と思うかもしれませんが、このルールは権力の暴走を止めるための大切なもの。万が一にも、警察や検察などが、「あの議員のやり方が気に食わん!」と容疑をでっち上げて不当逮捕できてしまったら、国民から選ばれた議員の発言権や議決権は簡単に奪われてしまいます。

戦前に、権力の暴走により身柄の拘束があった反省を踏まえているとも言えます。国会議員の地位は重く、簡単に身柄を拘束できないように、憲法が「国に好き勝手やらせないぞ」と縛っているのです。

3つ目は「免責特権」です。国会内で行った演説や委員会で行った討論、どの法案に賛成したかなどの発言に責任は問われない、というものです。「あの法案に賛成した○○議員が気に食わない! 処罰するぞ」という事態がまかりとおっては、議員たちは安心して議論ができません。そこで基本的には、国会内では“何を言ってもいい”ということになっているのです。

■簡単にはクビにできない理由

ただ、国会の品位はどの委員会も大事にしているので、あまりにひどい誹謗中傷など問題があることをしていると、懲罰委員会が登場します。国会の外で、国民に対する誹謗中傷の発信などは当然アウト。重鎮しかいない委員会が重い腰を上げ、どんな懲罰が適切かを話し合うことになります。

とはいえ、懲罰委員会を動かすのは相当許されない行為がある際に限ります。NHK党のガーシー(東谷義和)議員の除名も、当選から半年以上かかって処分に至りました。

ガーシー議員が得た投票数は約28万票。それだけ、彼を選んだ国民がいたということですから、その権利を委員会が侵害するということに対しては非常に慎重になります。簡単にはクビにできないのが国会議員なのです。

国会議員には使える施設が大きく2つあります。一つが議員会館、もう一つが議員宿舎です。

議員会館、永田町(写真=Arterialmaterial/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

議員会館は、国会議員にとっての事務所。国会議事堂の向かいにある3つの建物、衆議院第一議員会館、衆議院第二議員会館、参議院議員会館にそれぞれの議員の執務室が用意されます。

一議員に対して、執務スペースには3つの部屋があります。来客用の部屋が一つ、議員が使う部屋が一つ、そして秘書の部屋が一つ。陳情などに来た来客用に、お茶を出せるような小さなキッチンもあります。

■セブンもタリーズもある議員会館

議員会館の中は、施設も充実しています。薬局、コンビニ(セブンイレブン)、お土産屋さん、食堂が2〜3つ、クリーニング店、銀行(なぜか、りそな銀行一択)、旅行代理店(JTB)、理容室や医務室、さらにはマッサージルーム、トレーニングルーム、タリーズコーヒーまで完備。国会内には郵便局が2店舗あり、衆議院第二議員会館の中には保育園もあります。

寝る場所だけがない、という充実の設備ですが、選挙で落選し失職すれば、当然ながらすぐに出ていかなければいけません。選挙明けの4日後には退去を余儀なくされるため、選挙が終わると議員会館の周りには引っ越し屋さんのクルマがあふれることに……。大量の書類を入れた段ボール箱を運び出す姿は、何度見ても切なさがあります。

一方で、新内閣の誕生などでは、胡蝶蘭(こちょうらん)が支援者などから大量に贈られます。花屋さんが列をなし、新大臣のもとに胡蝶蘭を運び込む様子もまた、定期的に訪れる“永田町あるある”な光景です。

■日本屈指の警備を誇る保育園

衆議院第二議員会館の中には、東京都の認証保育園があります。国会議員や秘書、国会職員の子どもたちが通うことの多い、この保育園。実は、私の3人の子どもたちも、一時的に全員お世話になりました(待機児童問題がまだまだ解消されていなかったため、家の近所の保育園に通えなかったためです)。少数派ではありますが、私のような記者や、一般企業に勤めている永田町近くに在住の方や国会周辺で働かれている方も利用していました。

議員会館内保育園の最大の特徴は、日本トップレベルとも言えるセキュリティの高さ。保育園に通うには、保護者は全員、国会に入るための専用パスを作らなければいけません。万が一、このパスを忘れて登園してしまうと、議員会館の正面で手続きをし、保育士さんに入口まで迎えに来てもらわなければいけません。安心と言えば安心の環境ですが、パスを忘れたときの絶望感もそれなりです。

国会関係者の保護者の送り迎えの様子を垣間見れるのも、この保育園に通う面白さ。議員ご本人が頻繁に送り迎えをしている家庭もあれば、秘書が子どもを連れてくるところ、パートナーに任せっきりのところなど、いろんな家族のカタチが見えてきます。

■「赤坂、80平米」の家賃が12万円台のワケ

国会議員が使える施設の2つ目が、赤坂や青山、麹町など都内の一等地に建つ「議員宿舎」。すべてマンションタイプの寮施設です。気になるのは、その家賃でしょう。

議員宿舎、赤坂(写真=Kure/CC-BY-SA-2.5/Wikimedia Commons)

まずは衆議院の議員宿舎から。国会から歩いて10分、溜池山王駅にほど近い赤坂エリアの議員宿舎は、2007年築の3LDKで80平米。300戸の大型宿舎です。赤坂でこの広さ、羨ましいですね。

家賃は破格の12万4747円で、2023年に「築15年が過ぎて新築とは言えなくなったから」という理由で値下げされ、今の家賃になっています。新築じゃないとは言え、玄関はオートロックでとてもキレイです。物価高で家賃がどんどん高騰する中での、まさかの値下がり。羨ましいですねぇ。

もう一つ、青山にも宿舎があり、なんと家賃は2万1638円。学生寮か⁉ という金額設定ですが、安い理由は、建てられたのが1961年でとても古いから。昔懐かしい団地の面影たっぷりで、こちらは40戸となっています。

参議院の議員宿舎にも2つあり、麹町宿舎と清水谷宿舎があります。

麹町宿舎は、麴町駅すぐ、文藝春秋社の社屋に近い築40年超の団地です。2DK、3DK、2LDKの3タイプがあり計146戸。家賃は4万5000円〜9万2000円ほどで、10万を切っています。築古とはいえ、麹町の家賃相場ではありえない金額ですね。

■家賃相場の4分の1以下という好待遇

清水谷宿舎は2020年に建てられ、もっとも新しい議員宿舎です。1LDK、3LDKタイプがあり計56戸。1LDKは10万9239円、3LDKだと15万8006円です。家賃相場の3分の1〜4分の1と破格ではありますが、新築なのでほかの議員宿舎と比べれば少し高めです。

澤田大樹『永田町の人をウォッチしてみた』(カンゼン)

ということで、家賃は相当優遇されていることがわかります。

もともと議員宿舎は、地方選出の国会議員が東京でも安心して暮らし、業務に邁進できるように、と設けられたもの。そのため、都内に自宅がある議員は基本的に入れません。例えば、地元が岩手県の鈴木俊一さんは都内に家を持っているので入れません。麻生太郎さんも地元は福岡県ですが、渋谷区の豪邸に住んでいらっしゃいますので当然入れません。

地方に家族がいて、単身で議員宿舎を使っている議員もいますし、家族で上京している人、大学進学を機に子どもが上京し、議員宿舎から通学するなんてケースもあります。

どっちの議員宿舎を選ぶかは、その議員のおサイフ事情や生活スタイル次第。家族は地方にいて、平日に何日か過ごすだけなら、2万円の青山宿舎がいい、という考え方もあります。可処分所得の低い新人議員も「古くても2万円の魅力には敵わない」と選ぶことも。なんとなく、青山には若手議員が多いイメージがあります。

写真=iStock.com/fotoVoyager
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澤田 大樹(さわだ・だいき)
TBSラジオ記者
1983年福島県出身。2009年TBSラジオに入社。2010年にラジオ記者となる。東日本大震災取材後、2013年にTBSテレビに出向し報道局政治部記者、ニュース番組ディレクターを務め、2016年に再びTBSラジオへ戻る。ニュース番組のディレクターを担当したのち、2018年からは国会担当記者となる。著書に『ラジオ報道の現場から 声を上げる、声を届ける』(亜紀書房)。人気ポッドキャスト「セイジドウラク」のパーソナリティー。
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(TBSラジオ記者 澤田 大樹)