40代以上は中古が最適解? 520万の家を買い二拠点生活を始めた50代夫婦の「下げない質」
東京の家賃高騰に見切りをつけ、千葉県市原市に築50年・520万円の中古戸建てを購入した朋行さん(57歳)と妻の壽子さん(54歳)の50代夫婦。
後編では一括払いを回避してあえてローンを組んだ裏事情や、築古住宅ならではの苦労、そして地域での新たな生活のリアルをお届けする。
あえてローンを組んだ意外な理由
夫婦は当初、購入代金を現金で一括払いするつもりだった。ところが、金融機関などに相談しながら資金計画を検討するなかで、あえて住宅ローンを利用することにした。
一括で払える額だった。それでも朋行さんはあえてローンを組んでいる。借入は600万円。友人に「手持ち資金は残しておいたほうがいい」と言われたのが決め手だった。金利は固定でおよそ1%、10年返済。年間の返済額は60万円ほどで、月にならせば5万円程度になる。
「最後の低金利を楽しみたいなと思って。変動なんて怖いことはできない。固定金利にしました」(朋行さん・以下同)
都内にはワンルームマンションを新たに借りた。家賃は7万5000円。仕事や飲み会などで遅くなる日に都内に滞在するための部屋だ。
「東京からここ(市原市)に帰ろうと思うと、21時30分には都内を出なきゃ終電に間に合わない。帰ったとて、家に着くのは深夜0時前。そこから翌朝早く起きて通勤するツラさは想像を絶するので」
ローンの月5万円と、都内のマンションの7万5000円。合わせて12万5000円。それでもかつての自己負担16万5000円より安い。
「トータルして、今までの家賃よりも絶対に安くする。それが前提だったんです」
想定外! 修繕費180万のリアル
引き渡しの時点で、壁クロスと1階の床は張り替え済み。トイレ、洗面台は新品が設置されていた。自腹で入れたのは、内窓(二重窓)が30万円ほど(補助金を利用)。それに、資材を運ぶための中古車が50万円。
「買ったときにかけたお金は、内窓を別にすれば、車も含めて全部コミコミで100万円はいってないと思います」
固定資産税は年間1万円ちょっと。自治会に払うゴミの管理費は年間800円で、ゴミ当番はない。
想定外の出費もあった。購入から1年ほどたった頃(つい最近) 、屋根の雨漏りに気づいて修理に約100万円。床下から上がってくる湿気が想像以上に強く、床の改修にも約80万円かかった。築古住宅では、購入時に見えなかった問題が住み始めてからわかることもある。
購入価格は520万円だったが、そこで出費が終わるわけではない。問題が後から見つかる可能性も含めて、資金を残しておく必要があるのだ。結果的に、購入代金をすべて現金で払わず、修繕に備えられる余力を残したことが役に立った。
下水道も通っていない。トイレは浄化槽だ。浄化槽法により、家庭用でも4ヵ月に1回以上の保守点検、年1回以上の清掃、それとは別に年1回の法定検査が義務づけられている。維持費は年3万5000円ほどかかっている。
「思ったより維持管理が高いんです。ただ、一番きついのは、住み始めてから“下水道が通りました”と言われること。引き込みは個人負担で、めちゃくちゃカネがかかる」
築50年。1981年に導入された現行の耐震基準制度以前の建物だ。
「耐震補強すると補助金が出ますよと言われるんだけど、300万円ぐらいかかる。それなら引っ越したほうがいいかな、と。正直、そこは不安です」
この家は東日本大震災に耐えている。ただ、それが安心材料になるかどうかは本人にもわからない。倒壊すれば近隣にも被害が及ぶ。周りに建っているのも、似たような年代の家ばかりだ。
「一回耐えてるから大丈夫なのか、一回耐えてるから危ないのか…」
ただし、これは地域全体が危険だという話ではない。築年数や構造、地盤、これまでの修繕状況などによって、建物の状態は一軒ごとに異なる。夫婦が抱えているのも“この家を今後どう維持していくか”という不安だ。
抑えられるところは、とことん抑える。2階の和室を洋室に変えたときに出た畳6枚は、自分でゴミ処理場へ運んだ。他のものも一緒に捨てて3000円ほどで済ませた。
「業者に委託すると何万円にもなるので」
費用削減! DIYで乗り切る生活
安く済んでいるのは、リフォームやDIYの大半を朋行さんが自分でやっているからだ。購入から入居までの半年、週末ごとに東京から通い、収納棚を8つ作り、床の板張りも行った。住み始めてからはウッドデッキや倉庫、レイズドベッド(家庭菜園用)などを自分で作った。今はドアの位置を変えようとしている。
「業者に頼んだのは内窓と、エアコンをつけるくらいですね。それ以外のDIYのやり方はYouTubeにアップされてるので」
自分でできる部分と専門家に任せる部分を分ける。それが、築古住宅で費用を抑えて暮らす前提になっている。
収納も動線も作り替えられた。その仕事ぶりを、壽子さんは見てきた。
「人間、我慢しちゃダメなんだなと思うようになりました。我慢すると、工夫をしなくなる。この人は我慢しないから、板張りにしたいと思ったら意地でも板張りにする」
「77歳が最若手」ご近所の事情
移住で気になるのが、ご近所づきあいだ。夫婦はいずれも別の地域の出身で、移住前は知り合いがいなかった。引っ越す前、ご近所で事情に詳しい人へ相談した。答えは意外だった。
「自治会は入らなくていいよ、と」
後日、自治会の人が訪ねてきた。会費は払うが仕事は手伝えないかもしれない。そう言おうとしたら、先回りされた。
「ああ、もう入らなくていいよ、って。そのおじいちゃんが言うんです。“俺、77だけどさ、自治会のなかでは俺が今、いちばん若手だよ”って」
今は年に1回、ゴミの管理費を800円だけ払っている。
この一帯は、昭和期に東京への通勤者向けに開発された住宅地だ。当時の住人が高齢化し、子どもは戻ってこない。
購入時、まだ老夫婦が住んでいる家が近くにあった。その後、住人が亡くなり、現在は空き家になっている。
つきあい自体は緩い。屋根の工事で足場を組んだとき、向かいのおばあさんには「なんでもうやりかえるの? うちなんて70年よ」と言われた。
「朝、外で作業してると、“おはよう”“何作ってんだい?”“俺、元大工でな”って声をかけられる。今日中に仕上げたいのにな、と思いながら聞いてますけど、それが親しくなる手段なんでしょうね」
野菜のお裾分けで得た「安心感」
近所の猫が上がりやすいように、朋行さんは1階の窓辺に猫用のデッキを作った。
「マンションだと無理じゃないですか。急に4階に猫が現れたら、それ幽霊じゃん。郊外の一軒家ならではだと思います」(壽子さん・以下同)
駅前をキジが走る。近所からはキュウリが回ってくる。
「“キュウリがいっぱいできちゃったから食べない? ”って言われて、もらう。こっちは“トマトができたからどう?”って渡す。そういうやりとりが落ち着くんですよね」
「円安が続く中、将来の不安から外貨貯金は少しだけやっている」と、壽子さんは言う。
「でもトマトを作り始めたら、なんかちょっと落ち着いた。少しだけど自分達で作って、食べられるって大事なんだな、と思って」
40代以上は「中古」が最適解
朋行さんは今も、毎日のように物件サイトを見ている。次の住まいのためではない。空き家を買って自分で直し、貸す。すでに副業として成立させている人が少なくないのだという。
「空き家問題は、自治体や国だけでは解決できないので、民間でやるしかないんです」(朋行さん・以下同)
空き家が残り続けるのには理由がある。住宅が建つ土地には固定資産税の軽減措置があり、解体して更地にすると税負担が増える場合がある。しかも解体費用は300万円ほどかかる。
「放っておいたほうがいいんですよ、持ち主からすれば」
もっとも’23年12月施行の改正空家法で、管理不全と判断された空き家は勧告を受けると税優遇が外れる。放置のコストは上がりはじめている。
あのまま東京にいたらどうだったか。朋行さんが思いを馳せる。
「首都圏の高齢者は大変だと思いますよ。賃貸で独居老人だったら、年金だけで生活するのは厳しいでしょうね」
この家は、その先まで計算に入れて選んでいる。前の持ち主も子どものいない老夫婦だったらしく、風呂には手すりが並ぶ。階段が上がれなくなったら、2階は放っておいて1階だけで暮らせばいい。
「ちょうどいいんですよ。基本的に、ここはもう離れないです」
最後に「これだけは言っておきたいことは?」と聞いた。
「新築を買うんじゃない。どうにかなる。若いうちは新築でいいんでしょうけどね。でも40代、50代でローンを25年も組めない人は、もう絶対に中古で買ったほうが早いです。
もう墓を買うこともないでしょ。だとすれば、家もそんな感覚で」
買うものでも、借りるものでもない。余っているからもらう。あるいは、もらうような値段で買う。「家を買う=数千万円の出費」という前提の外側に、900万戸の空き家がある。
取材・文:田幸和歌子
