ホルムズ海峡封鎖で露呈した日本のエネルギー輸送リスク--「コスト安」追求の裏にある外航船籍の空洞化
2026年2月28日、米国とイスラエルによるイラン攻撃をきっかけに、イランがホルムズ海峡を実質的に封鎖するという事態が発生しました。この影響でペルシャ湾に日本関係船舶45隻が立ち往生し、そのうち日本船籍はわずか5隻にとどまり、日本のエネルギー調達が外国依存の構造的リスクを抱えていることが浮き彫りになりました。背景にあるのは、原油調達コストと船舶運航コストを抑えるために進んできた「便宜置籍船化」という経済合理性です。本稿では、その仕組みと、国民生活の安全性という観点から今後問われる政策課題を整理します。
ホルムズ海峡封鎖で立ち往生した45隻
2026年2月28日に、米国とイスラエルによるイランへの攻撃が行われました。イランは、ペルシャ湾の入り口にあるホルムズ海峡を実質的に封鎖しました。
それによって、ペルシャ湾に2026年3月時点で、45隻の日本関係船舶が立ち往生していました。このうち日本船籍は5隻にとどまり、残る40隻は、日本の会社が運航・用船する外国船籍の船舶、すなわちパナマ等に船籍を置く便宜置籍船でした。
平時であれば、話題にもならない石油の輸入問題がクローズアップされると共に、日本の経済基盤であるエネルギー分野の外国依存による脆弱性を露呈した感があります。
この一連の出来事の背景にあるのは、コスト安という経済上の概念です。1つは中東の湾岸諸国から調達する原油の価格が他の地域よりも低いからです。
なぜ日本の船会社は外国籍を選ぶのか
日本船籍の外航船をあまり使用していないという現実があります。なぜ、日本の船会社は、船籍を外国に移しているのかということです。
理由は、税金と人件費です。例えば、パナマの会社を子会社にして、船をここに登録するとします。パナマの法人税率は25%ですが、パナマは領土税制(属地主義)を採用しているため、船舶の国際的リースなど国外を源泉とする所得には課税されないのです。
トン税制度と登録免許税・固定資産税の壁
では、日本の税制はどうなっているのでしょうか。日本にも、外国船社と同水準の競争力を確保するための制度として「トン税(トン数標準税制)」が存在します。
トン税(トン数標準税制)は、船会社の所得ではなく、船舶のトン数等から「みなし利益」を算出して課する税です。2009年から実施されています。
この分野では、日本と競合する外国船会社と条件が同じになりましたが、日本に船舶を登録すると、登録免許税と固定資産税が課されます。
外国の船会社の多くは、これらの税負担がありません。日本の船舶を管轄するのは国土交通省ですが、登録免許税と固定資産税は総務省の管轄です。日本の船会社は、登録免許税と固定資産税の課税免除の特例を請求していますが、認められていません。
割高な人件費と外国人船員への依存
もう1点は、人件費です。日本人船員の人件費が割高であることから、外国人船員が雇用されています。冒頭に述べたペルシャ湾に立ち往生した船舶に日本人船員が少なかったことは報道されています。
国土交通省は、日本人船員の雇用を要件とすることに拘っています。目的は、外航船舶のガバナンスです。
コストか安全保障か--今後問われる政府の役割
これまで、コストに着目して、外国からの資源輸送が行われてきたのです。
コストよりも、国民生活の安全性という観点から、民間でできない部分を政府がいかに補完するのかが、今後の外航船舶問題の鍵となるでしょう。
矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員

