【解説】“記者泣かせ”のアメリカ・イランの協議 世界はどう見た? イランが“強気”の理由とは?
原油輸送の要衝・ホルムズ海峡をめぐるアメリカとイランの協議は、今ひとつ実態が見えてこない。トランプ大統領は「イランと協議を行っている」「合意は近い」と主張するが、イランは「アメリカと協議はしていない」と協議の開催自体を否定している。
実態が見えない協議の行方を世界のメディアはどう見ているのか?イランが強気の姿勢を崩さない理由とは?(国際部 可児智之)
■“記者泣かせ”の協議と強気のイラン
ホルムズ海峡をめぐるアメリカとイランの協議は、今ひとつ実態が見えてこない。トランプ大統領は「イランの要請を受けて、協議を行っている」「合意は近い」と主張するが、イランは「アメリカと協議はしていない」と協議の開催自体を否定するという、どちらが真実なのか読みづらい、“記者泣かせ”の状況だ。
イランは「ホルムズ海峡の航路をオマーンと協議している」と説明していて、オマーンを介して、アメリカとイランの間接的な協議が行われている可能性もあるが、特徴的なのが、イランが見せる強気の姿勢だ。
■平和よりも好都合な“限定的戦闘”?
なぜ、イランが強気の姿勢を崩さないのか? それを読み解く上で参考になるのが、7月末のイギリスBBCの「イランにとって、アメリカとの『限定的戦闘』が『平和』より好都合な理由」という記事だ。
記事では、イランは全面的な戦闘こそ望んでいないが、アメリカと緊張状態を続けることにはメリットがある、という見方が示されている。
具体的には、「ホルムズ海峡の“封鎖”や親イラン武装組織フーシ派によるバブルマンデブ海峡周辺への圧力強化により、世界中がイランの要求に注目する」「国内的にも“国を守る”という大義名分のもと、激しいインフレなどに対する国民の不満を抑え込みやすい」という2つのメリットを指摘している。
■手に入れた“スペードのエース”

アメリカとイランの協議について、トランプ大統領は第1段階として「ホルムズ海峡の開放」を、第2段階として「イランの核開発問題」を話し合うと述べている。
そもそも、トランプ大統領が今年2月にイラン攻撃に踏み切った目的は、「イランの核・ミサイル開発の阻止」だったはずである。イランの核開発問題をめぐる協議が続く中での攻撃で、当時、トランプ大統領はイランの交渉姿勢に不満を漏らしていた。
しかし、現在の協議では、最優先課題が「ホルムズ海峡の開放」になっている。あれほどこだわっていた「核開発問題」は、いわば“格下げ”された格好だ。
一方、イランにとってみれば、アメリカと交渉する上での“カード”が1枚増えた形だ。原油価格を左右することができる「ホルムズ海峡の開放」という新たなカードは、世界経済を人質にとれる“最強のカード”で、イランにとって“スペードのエース”といっても良いだろう。
さらに、11月の中間選挙までに事態を打開したいトランプ大統領に比べると、イランには目に見える時間的な制約がない。このような中で、アメリカに直接要求を伝えられる現状は、イランにとって極めて有利な状況といえるだろう。
■同盟国でもトランプ氏を痛烈批判
アメリカとともにイランを攻撃した同盟国イスラエルでも、厳しい論調が見られる。イスラエル紙「ハーレツ」は8月7日、「ホルムズ海峡をめぐる合意はイランに前例のない地政学的勝利をもたらす」と題した記事を掲載した。
記事では、「イランは原油輸出の大部分が通過する海上交通路を実質的に支配することになる可能性があり、トランプ大統領はこれにより原油市場が徐々に落ち着くことを期待している」との見方を示し、「イランは、アメリカとイスラエルがイランの体制崩壊と核・ミサイル計画の終結を望んで戦闘に突入したときには議題にも挙がっていなかった成果を手にして戦闘を終える可能性が高い」と指摘している。
その上で、トランプ大統領について「『イランを粉々にする』という度重なる脅しは、もはや信頼どころか感情すら呼び起こさない」と痛烈に批判している。
トランプ大統領は今回の攻撃により、宿敵イランを降伏させるはずが、無二の同盟国イスラエルからの信頼を失うことになったようだ。
■今後の協議は?

トランプ大統領は大規模攻撃をちらつかせて譲歩を迫るという手法を繰り返しているが、アメリカとイスラエルの攻撃に数か月耐え続けたイランに、軍事的な脅しはもはや効果が薄れている。
加えて、アメリカ軍はミサイル不足が深刻化していると伝えられていて、イラン側はトランプ大統領の足元を見透かしているだろう。
今後の協議はイランのペースで進む可能性が高く、イランが求める「通航料」の徴収が現実のものとなり、日本や世界がトランプ大統領に代わって“ツケ”を払わされる日がやって来るかもしれない。
