カリフォルニア工科大学(研究当時)のRyleigh Davis氏を筆頭とする研究チームは、海王星で最大の衛星Triton(トリトン)よりも内側を公転する小さな衛星たちをジェームズ・ウェッブ(James Webb)宇宙望遠鏡で観測した結果、太陽系の外縁部にある他のどの天体とも異なる組成を持つことが明らかになったとする研究成果を発表しました。


トリトンよりも内側の衛星については、これまでその組成も起源もほとんど分かっていなかったといいます。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Science Advances」に掲載されています。


【▲ ジェームズ・ウェッブ(James Webb)宇宙望遠鏡が観測した海王星とその衛星(Credit: NASA, ESA, CSA, and STScI)】

海王星を公転する“普通ではない”衛星

海王星は、巨大惑星の中で唯一、規則衛星を持たない惑星です。規則衛星とは、惑星の赤道面に近い円軌道を惑星の自転と同じ向きに公転する大型の衛星を指します。


海王星最大の衛星トリトンは衛星全体の質量のうち99%以上を占めていますが、海王星の自転とは逆向きに公転しており、形成後に海王星の重力に捕獲されたエッジワース・カイパーベルト天体だと考えられています。


木星、土星、天王星には規則衛星が存在していることから、研究チームは同じ太陽系の巨大な惑星である海王星にも規則衛星が存在していたものの、トリトンが捕獲された際の混乱で破壊されてしまったのではないかと考えています。ただ、破壊された規則衛星の残骸がどうなったのかは謎のままでした。


フィロケイ酸塩の検出と見つからない水の氷

研究チームはウェッブ宇宙望遠鏡の「NIRSpec(近赤外線分光器)」を用いて、トリトンよりも内側の衛星(以下「内衛星」)のうちLarissa(ラリッサ)、Galatea(ガラテア)、Proteus(プロテウス)の3つと、海王星の環のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)を取得して分析を行いました。


その結果、ラリッサ、ガラテア、海王星の環から、木星よりも外側では検出例がなかったフィロケイ酸塩(層状ケイ酸塩鉱物)の吸収帯(波長2.72μm付近)が見つかりました。吸収帯の特徴は地球に落下した隕石の一部(CM2型炭素質コンドライト)とよく一致しており、水質変成が進んだ準惑星Ceres(ケレス)の吸収帯ともよく似ていることから、フィロケイ酸塩の存在はほぼ確実とみられています。


ところが、フィロケイ酸塩の存在が示された一方で、スペクトルには氷(水の氷)の兆候が見られませんでした。フィロケイ酸塩は300〜400ケルビン(約27〜127℃)程度の環境下で、液体の水に100万〜1000万年さらされることで形成される鉱物です。明確なフィロケイ酸塩の吸収帯がみられるにもかかわらず、水の氷の兆候をともなわない天体は、これまで太陽系で観測された他のどの天体にも例がないといいます。


【▲ ジェームズ・ウェッブ(James Webb)宇宙望遠鏡が観測した海王星とその衛星。左上の明るいTriton(トリトン)をはじめ、内側を公転するGalatea(ガラテア)などの衛星も捉えられている(Credit: NASA, ESA, CSA, and STScI)】

研究チームはフィロケイ酸塩が形成された場所について、ラリッサやガラテアのように小さな衛星の内部とは考えにくいことから、内部で氷が溶けるほど大きく成長し、分化を遂げた天体に由来すると結論付けています。最も有力視されているのは「トリトンの捕獲時に破壊された衛星」です。つまり、海王星の内衛星はかつて存在していた規則衛星の残骸でできている可能性があるというのです。


海王星に接近した際に潮汐力で破壊された別のカイパーベルト天体に由来する可能性も残されているものの、今回の研究にも参加しているカリフォルニア工科大学のMatthew Belyakov氏が以前に発表した研究成果を踏まえれば、トリトン捕獲時に破壊された衛星の可能性のほうが高いと研究チームは考えています。Belyakov氏は以前の研究で、海王星の衛星Nereid(ネレイド)がトリトン捕獲時の混乱を生き延びた衛星である可能性を示しています。


天体の内部を調べるまたとない機会

氷を主体とする天体内部の水質変成の痕跡は、その天体が破壊されない限り外から見ることはできません。Davis氏は、海王星の内衛星が氷天体内部の組成を直接観測できる貴重な場所だと指摘しています。


今後は破壊後の破片が再集積する過程を追うことで、見つからない氷の行方をはじめ、海王星の衛星をめぐる未解決の謎にさらに迫ることが期待されます。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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