《“安倍元首相へのシンパシー”の意味》山上徹也被告が鈴木エイト氏に明かしたアンビバレントな心情…「統一教会って社会問題ですからね」面会で示唆された“動機の核心”
長年にわたり統一教会をはじめとするカルト問題に取り組んできたジャーナリスト・作家の鈴木エイト氏の最新著『アンビバレント 山上徹也が私だけに明かした謎の核心』(講談社)は5月29日に刊行され、話題を呼んでいる。
【写真を見る】安倍晋三元首相が寄せていたビデオメッセージ。本を上梓した鈴木エイト氏
山上徹也被告は2022年7月8日、参議院選挙の応援演説に臨んでいた安倍晋三元首相を銃撃し死亡させ、今年1月に奈良地裁で無期懲役の判決を下された人物だ。統一教会2世としての生い立ちや動機が注目された山上被告が、犯行に至った動機の核心はどこにあるのか。ほとんどの関連公判を傍聴し、山上被告との面会を重ねてきたエイト氏に聞いた。【前後編の前編】
自虐的なジョークを口にする「普通な人」
今年1月21日、奈良地裁によって山上被告に無期懲役の判決が下された。2月4日には弁護団によって控訴の申し立てが行われ、現在は控訴審への準備が進められている。
2022年の事件以降、長らくメディア関係者と接触していなかった山上被告だが、判決を翌週に控えた1月14日、エイト氏との面会に応じていた。以降、エイト氏は山上被告との面会を重ねていくことになる。法廷ではなく、狭い面会室で相対した山上被告は、エイト氏の目にどのような人物として映ったのだろうか。
「法廷で見たときは暗い陰鬱な人というイメージだったんですけど、直接会うと、あっさりとした普通の人という感じ。ニコニコ笑ったりするわけではないですけど、ちょっと斜に構えつつ、自虐的なジョークを口にしたりとか。僕のことを気遣うようなことを言ってくれたりして、元々は心優しい普通の青年なんだろうな、という印象を受けました。だからこそ、この人が人を殺しているんだ、というギャップに改めて驚くようなところもありました」(エイト氏、以下同)
エイト氏の前に「普通の人」として現れた山上被告だが、事件を通して変化した面もあったのではないか、とも指摘する。
「元々は対人関係を築くのが苦手という性格から、事件前には地元の住民と言い合いになるようなトラブルを起こしたこともあったようです。ただ、この事件の後にいろんな人と関わる中で、社会性を身につけたのではないか。事件前と比べると人当たりの良さは大分変わってるんじゃないかなと思います」
安倍氏の境遇が特定の部分で「自分と同様」
山上被告が銃撃という凶行に至った動機は何だったのか。『アンビバレント』では、事件前に山上被告が安倍氏に対して抱えていた、複雑な感情について明らかにされている。そんな本書を読んだ山上被告と、6月11日にエイト氏は面会し、興味深い言葉を聴いたという。
「山上は安倍氏に対して、ある種の"シンパシー"を感じていた、と言うんですよ。安倍氏の境遇が特定の部分で『自分と同じだ』と。それは、2人とも『統一教会との関係において折り合いをつけていた』、という認識です。
山上は、自分の家庭は統一教会のせいで崩壊してしまったけど、その状況に折り合いをつけて自分の人生を生きようとしていた。安倍氏も2世の政治家として、祖父や父親が深い関係を築いてきた統一教会と一定の距離を保ちながら統一教会という存在に折り合いをつけて政治活動を続けてきたんじゃないか、と」
山上被告がエイト氏に明かした「シンパシー」。だがその感情は屈折していく。
「第2次政権以降、安倍氏と旧統一教会の関係性が急接近して、2021年に教団系の集会にビデオメッセージを送った。それで、山上は安倍氏が『一線を越えた』と認識しました。安倍氏に対して『自分と同じだったのに』、という感情があるんですよね、彼が言うには。
山上も、兄の自死とそれに対する母親の捉え方を知り、感情の限界、一線を越える選択をしてしまった。法廷では安倍氏殺害の動機には『飛躍がある』とされましたが、統一教会問題という社会問題が根本にあったことはしっかりと見なければいけない」
「統一教会って社会問題ですからね」
一審では山上被告に無期懲役の判決が下された。控訴審において、この判決が覆ることはありえるのだろうか。
「一審で認定された発射罪(許可なく拳銃などを不特定または多数の人がいる場所で発射する犯罪)などの事実関係を覆すのは非常に難しいと思います。可能性があるとすれば、動機の核心に関わるところで理解が得られるような立証をすれば、情状酌量による有期刑の可能性も少しは出てくるんじゃないかと」
山上被告自身は一審判決にどのような感情を抱いているのだろうか。
「理解はしているけれども、納得はしていない、ということだと思います。とりわけ『内心の葛藤や負の感情は個人の内心で健全に解消すべきだ』と読めてしまう判決文について、私が『社会問題は個人の内心で解決されるべきものではないと思う』と言うと、彼は「そうですね、統一教会って社会問題ですからね」と言っていました。
彼の認識と実際の状況とか、そういうのを全部提示しきって、そこが認定された上での量刑だったら、納得できるんじゃないかな」
法廷では動機の核心が十分に明らかにされていない、とエイト氏は指摘する。果たして、控訴審では十分な審理が尽くされるのだろうか。エイト氏は続けて、山上との距離感、そしていまだ解決していない旧統一教会をめぐる問題についても語った。
(後編につづく)
【プロフィール】
鈴木エイト/1968年、滋賀県生まれ。日本大学卒業。ジャーナリスト・作家。日本ペンクラブ理事、日本脱カルト協会(JSCPR)理事、「やや日刊カルト新聞」主筆。現在は「鈴木エイトの調査報道ファイル」で情報発信を続ける。旧統一教会をはじめとするカルト問題を中心に長年におよぶ取材・執筆を行っている。著書に最新著『アンビバレント』(講談社)のほか、『NG記者だから見えるもの』『「山上徹也」とは何者だったのか』(ともに講談社+α新書)、『統一教会との格闘、22年』(角川新書)、『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』『自民党の統一教会汚染2 山上徹也からの伝言』(ともに小学館)などがある。
