半導体一極集中相場が迎える、さらなる「大調整の日」…中国・習近平の”AI強国宣言”で半導体の過剰生産がスタートか
中国半導体企業のIPOラッシュ
7月、上海で開催された世界人工知能大会(WAIC)で、中国の習近平国家主席は「中国のオープンソースモデルを世界の公共財にする」と宣言した。これは、事実上の“AI時代の中華思想宣言”であり、米国から世界トップのAI強国の座を奪うという決意表明に他ならない。
実際、強力な政府の支援のもと、“四小龍”と呼ばれる新興AI開発企業が相次いで巨額の資金調達に成功し、推論モデルの開発を驚異的なスピードで加速させている。
かつて絶対的優位を誇った米国勢との技術格差は、いまや半年程度にまで縮小したとみられ、中国はAIを武器にグローバルサウスのインフラ需要を取り込み、国際ルールの策定まで主導しようと目論んでいる。
前編記事〈「中国のAIを世界の公共財にする」習近平が目論む新世界の形…すでに一部のアメリカ製を凌駕し始めた中国製AIの「恐るべき躍進」〉では、こうした現状を詳しく解説している。
中国のAIモデルの開発加速の背景には、半導体関連企業の成長の寄与もあった。
目下、中国の半導体メーカーはIPOラッシュだ。まず、メモリー半導体では、DRAM世界4位の長鑫科技集団(CXMT)が、上海証券市場の新興市場である科創板に上場を計画している。
資金調達の予定額は当初の295億元(7000億円)程度から、666億元(約1.4兆円)に増額された模様だ。調達した資金は広帯域メモリー(HBM)の量産、アップルなど海外企業への供給体制拡充に配分するようだ。
逆境の中で体制を整える執念
7月下旬、NAND型フラッシュメモリーの長江存儲科技(YMTC)も、科創板に上場する予定だ。YMTCは、フラッシュメモリーの積層技術に優位性があるといわれている。同社は、韓国のサムスン電子に一部の特許をライセンス供与するまでに成長した。
中国の半導体メーカーは、米国の制裁により極端紫外線(EUV)を使う最先端の露光装置を調達できなくなった。逆境を跳ね返すべく、旧世代の露光装置を使った回路の形成技術を磨き、低価格かつ相応の性能をもつチップを供給する体制を整えたといわれている。
チップの受託製造企業(ファウンドリー)の上場も実現した。
7月、合肥晶合集成電路(ネクスチップ)が香港市場に上場した。ネクスチップは、どちらかといえば汎用型のチップを生産している。IPOで得た資金を、微細化の向上や香港での研究開発・マーケティングに配分する方針のようだ。
中芯国際集成電路製造(SMIC)は、ファーウェイが設計開発した“アセンド950”などの先端チップを受託製造している。中国政府は、ネクスチップの成長を支援し、先端チップの製造技術向上につなげる意向だろう。
米AMD出身者が設立した、画像処理半導体(GPU)開発企業の上海燧原科技(エンフレーム・テクノロジー)もIPOを計画している。同社は、テンセントとの取引が多いといわれている。
ファーウェイとの関係が深い、半導体製造装置メーカーの新凱来技術(シリコンキャリア)もIPOを計画しているようだ。半導体関連企業の資金調達、それによるチップ開発や製造技術の向上は、AI開発の加速を支えている。
世界の株式相場は調整の恐れ
中国のAI関連企業の急成長は、世界経済に無視できない影響を与えるだろう。目先の注目点は、世界の株式市場への影響だ。
中国のAI関連企業の供給能力向上は、世界的なAI・半導体一極集中相場の調整要因になりうる。中国企業の存在は、世界の株式市場の波乱要因になるかもしれない。
国営、民営を問わず、中国企業には需要に合わせて生産を調整する発想が乏しいといわれている。産業補助金獲得の恩恵もあり、電気自動車(EV)や車載用バッテリー、太陽光パネル業界では短期間で生産能力が積み上がり、過剰生産問題が顕在化した。
中国政府は、過剰生産能力の解消に取り組む姿勢を明確にしていない。それは、不動産バブル崩壊後、不動産開発業者への公的資金の注入、不良債権処理が抜本的に進んでいないことからも確認できる。
上海AI会議での習氏の演説を旗印に、当面、中国の推論モデル開発や半導体関連業界の供給能力はさらに高まるだろう。AIモデル、AIチップともにEVなどを上回るスピードで価格競争が激化する恐れは高い。
7月中旬、米スペースXの株価は、早くもIPOの公募価格を下回った。ビジネスモデルの実効性、ロケット打ち上げの延期に加え、中国宇宙産業の追い上げが熾烈であることも株価調整要因の一つだろう。7月、中国は運搬用ロケットの1段目回収に成功した。AI、半導体に加え宇宙開発分野でも中国は米国を猛追している。
中期的な展開を考えると、AI関連分野における、世界の主要企業の優勝劣敗はより鮮明になるだろう。経済・金融市場の環境変化に対応しながら、先端技術を開発できるか否かで、米中などのAI関連企業の競争力には差が出るはずだ。
それは、主要国の産業競争力や経済成長に決定的な影響を与えるはずだ。上海で開催された世界人工知能大会での習氏の演説は、AI関連企業の株価、関連産業、そして世界経済の不安定感を高めるリスクをはらんでいる。
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