「日射病と熱中症の違い」はご存知ですか?症状や治療法も解説!【医師監修】

暑い季節になると、ニュースなどで頻繁に耳にする熱中症。かつては強い日差しによって引き起こされる体調不良を日射病と呼んでいたことをご存じでしょうか?本記事では、日射病とはどのような病気なのか、熱中症との違い、定義の変遷、そして症状や治療法をわかりやすく解説します。

監修医師:
江口 瑠衣子(医師)

2009年長崎大学医学部卒業。大学病院での初期臨床研修終了後、10年以上にわたり地域の基幹病院で腎臓内科の診療に従事。患者さん一人ひとりに寄り添った医療を心がけており、現在は内科・精神科の診療を行っている。腎臓専門医。総合内科専門医。

日射病と熱中症の違い

日射病とはどのような病気ですか?

かつて、体温の著しい上昇により、意識や運動を司る脳の機能に異常を来した状態を熱射病と呼んでいました。この熱射病のなかで、特に太陽光が原因で起こるものを日射病といいます。ただし、現在では熱射病や日射病という用語は使用されず、すべてを含めて熱中症と呼ばれています。日射病と呼ばれていた病態は、熱中症分類のなかのⅢ度(重症)に相当すると考えられます。本記事では、熱中症のうち重症かつ太陽光が原因のものを日射病として解説します。

熱中症の概要を教えてください

熱中症は、気温や湿度が高い、風が弱い、日差しが強いなどの環境下で、身体に熱がどんどん蓄積されてしまう病気です。体温が上がり、病状が進行するとさまざまな症状が出現します。重症度分類が定められており、I~Ⅳ度に分類されています。適切な対策で予防できることもある一方で、重症化すると意識障害やそのほかの合併症を引き起こし、命に関わることもあります。

熱中症と聞くと、真夏など暑いときに運動をしていた、屋外で炎天下のなかに長時間いた、などの状況を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、実はこういった状況ばかりではなく、家の中など屋外でなくとも熱中症にかかることがあります。

日射病と熱中症は何が違いますか?

日射病と熱中症は混同されることが少なくありません。現在、高温の環境下で生じる障害の総称として熱中症と診断されます。以前は、熱中症のなかの重症の病態で、中枢神経障害を伴うものを熱射病と呼んでおり、そのなかの太陽光が原因となったものを日射病と定義していました。日射病と熱中症は同じ病気ではなく、医学的には熱中症の一部として日射病が存在しているといえます。また、日射病の大きな特徴は、その原因が太陽光であるとされている点です。

日射病の定義の変遷

日本ではいつから日射病という用語が使われていましたか?

日射病という言葉は明治時代中頃にはすでに使われていたとされています。記録によれば、1889年(明治22年)に、日射病ニ就テ、という日射病に関する論文が発表されており、日射病という用語がその頃から使用されていたことがうかがえます。ただし一般的に広く普及していたかは明らかでありません。

日射病が熱中症と呼ばれるようになった時期を教えてください

日本では1999年に熱中症の重症度分類が提唱されました。それまで熱失神、熱痙攣、熱疲労、熱射病などと表現されていたものが 、熱中症と統一されることとなりました。その後2006年から継続的に、日本救急医学会が大規模な疫学研究(Heatstroke STUDY)を実施してきました。この研究のなかで熱中症という用語を使用し、熱中症の認知度も高まったとされています。

その後2008年に日本医学会が熱中症に関する用語整理を行いました。その際に、熱中症は高温の環境下で生じる障害の総称とされ、そのうち重症の病態で中枢神経障害を伴うものを熱射病と定めました。また、日射病は熱射病のうち、太陽光が原因となったものと定義されました。さらに、2015年の熱中症診療ガイドライン2015で用語は完全に熱中症に統一され、熱中症のなかでⅠ~Ⅲ度の重症度分類が導入されました。そして2024年、熱中症診療ガイドライン2024では重症度にⅣ度が追加された新しい分類に変わりました。

現在日射病は正式な用語ではないとのことですがどういった意味合いで使われていますか?

現在、日射病は医学的な診断名として用いられなくなっており、熱中症という用語を使用します。一方で、日射病は長年に渡って使用されてきたことから、社会的な認知度が高い用語です。また、太陽光による影響を直感的に認識しやすい特徴があります。これらの点から、現在でも太陽光が原因で発症した熱中症に対して日射病という用語が使われることがあります。このように現在の日射病は、医学的には熱中症に含まれる概念として、社会的・実用的な観点から、使用されることがあります。

日射病の症状と原因、治療法

日射病の症状を教えてください

日射病の症状に関して、現在使用されている熱中症の重症度分類を参考にみていきましょう。熱中症の症状は軽症から重症まで段階的に現れます。かつて日射病と呼ばれていた病態は、多くの場合熱中症分類のなかのⅢ度に当てはまると考えられます。

■ Ⅰ度
・症状:めまい、立ちくらみ、生あくび、多量の発汗、筋肉痛
■ Ⅱ度
・症状:頭痛、吐き気や嘔吐、全身倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下
■ Ⅲ度
・症状:意識障害、けいれん発作、手足の運動障害など神経症状
■ IV度
・症状:深部体温が40度以上に上がり、意識がほとんどない状態

熱中症のなかで重症の段階であるIII度になると、意識がもうろうとして呼びかけに反応しない、まっすぐ歩けないなどの重い神経症状が出現します。そのほかにもけいれん発作が起こることもあります。さらに病状が進行すると、意識がほとんどない昏睡状態となります。

なぜ日射病になるのですか?

日射病の発症には環境、からだ(体調)、行動の3つの条件が大きく関与します。特に環境要因は、日射病の場合は太陽光が体温上昇の直接的な原因となり、さらに気温や湿度などの条件が重なることで発症する可能性が高まります。それぞれの条件の具体的なものは以下のとおりです。

環境:太陽光に直接当たる、気温が高い、湿度が高い、風が弱い

身体:高齢者、乳幼児、脱水、体調不良

行動:激しい運動、慣れない運動、長時間の屋外作業、水分が補給しにくい環境

通常は体温が上昇すると熱を皮膚の表面から逃がしたり、汗をかいて熱を逃がしたりします。しかしこの3つの条件がそろうと、体温の上昇と調節機能のバランスが崩れてしまい、身体に熱が蓄積されてしまいます。

日射病を治療する方法を教えてください

軽症の場合は、全身を冷やしながら塩分と水分補給する治療を行います。涼しい環境で安静にして、衣服を緩めて身体を冷やします。水分摂取が可能であれば、経口補水液や食塩水を摂取し、経口摂取が難しい場合には点滴が行われます。また、血液検査で電解質などの異常所見があれば、それを補正する治療も行われます。

日射病は、分類としては熱中症の重症に相当する場合があります。重症の場合は、まずはできるだけ早く深部体温を下げる必要があります。Active Coolingと呼ばれる積極的に身体を冷やす治療を開始します。これは、患者さんの身体を外側から、あるいは体内から積極的に冷却する方法のことです。同時に脱水に対する点滴も行われます。重症例ではActive Coolingを含めた集学的治療が必要です。呼吸の状態、血圧などの循環動態、肝臓や腎臓などの臓器の障害、DICの状況に応じてそれぞれに対する治療が行われます。

編集部まとめ

現在では日射病という用語は正式には使用されず、熱中症に含まれる概念となっています。かつては、日射病は太陽光によって起こる熱中症を指しており、現在でも一般的に使われることがあります。重症化するとさまざまな合併症を引き起こし、命に関わる可能性もあります。予防策を徹底することが大切ですが、万が一症状が現れた場合は適切に対処しましょう。重い症状があればすぐに医療機関を受診してください。適切な知識と対策で、暑い夏を元気に過ごしましょう。

参考文献

https://jams.med.or.jp/dic/heat.html

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heatstroke2015.pdf

https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf

https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf

https://core.ac.uk/download/pdf/159400782.pdf

https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902209592199040&e=reference%2Farticle&utm