度重なる倒産を乗り越え、ダブルパートで月収18万円を稼いでいた60代男性。「70歳まで年金を繰り下げれば老後は安心」のはずだった。しかし、健康寿命の壁が立ちはだかる。63歳目前、激しい息切れや足のむくみが男性を襲ったのだ。国が推奨する「就労延伸と繰り下げ」の死角、そして彼を襲った病魔とは?

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 増田明利氏によるルポルタージュ『今日、年金暮らしになった 定年を迎えた17人のリアルな老後』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。なお、登場人物のプライバシー保護のため、氏名は仮名としている。(全2回の1回目/続きを読む)


写真はイメージ ©getty

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「貧乏神に取り憑かれている」

 木枯らし吹く肌寒い週末、池袋のサンシャインシティ近くにある公園では、生活困窮者支援の炊き出しが行われていた。食事や生活雑貨、医薬品(市販薬)などを求めて集まっているのは300人以上。

 1時間近く並んでハンバーグ弁当を手にした石井さんは、この会場の他にも都内のいくつかの炊き出し会場を周回して食料品、衣類、日用品を手に入れている。

「助かってますよ。年金だけではやっていけないもので」

 石井さんの年金は月9万6000円。これに生活保護費として3万4000円を支給してもらい、合計13万円で1か月の生活を賄っている。

「年金保険料は40年きっちり払っている。だけど職を転々としていましてね、そのうえ半分は国民年金なんです。だからいくらももらえないんですよ」

 石井さんは高校卒業後に金属加工会社に就職、生産工場で建築材、自動車関連品などの製造業務に従事していた。ところが8年勤めたところで倒産。約半年の失業期間があった。

 2つ目の職場はレンズ加工会社、やはり作業職だったが、約9年後に円高不況の煽りを受けてまた倒産の憂き目に。「貧乏神に取り憑かれている」と思ったそうだ。

「このときの失業期間は9か月もあった。アルバイト的な仕事はあったから生活が破綻するようなことはなかったけど、ギリギリの暮らしでしたね」

バブル時代が「最も豊かだった」

 3つ目の仕事は請負での貨物運送業。軽のワゴン車持ち込みで大手運送会社の業務委託という形態だった。一般家庭の宅配、工場からの製品運搬などを担当していた。

「最初は儲けが薄くて、失敗したかなと思った。だけどバブルになったら月40万円以上の売上が続いた。自分史上で最も豊かだった」

 ただし、自営業なので社会保険は自治体の国民健康保険と国民年金。当時は深く考えなかったが、今になって痛かったと思う。

 バブル崩壊後は月の売上が20万円程度まで落ち込んだが1年ほどで反転し、何とか30万円ぐらい稼げていたので辞めようとは思わなかった。

「たまに新聞の求人広告を眺めることはあったけど、まず年齢で除外される。就けそうな仕事も限定されるので、このままでいいと思ったんです」

 運送業は約18年続けたが、左眼が網膜剥離になってしまい、視力が落ちて視野も狭くなってしまったので、運転免許の更新ができず廃業することに。

「しばらくの間は派遣でしのいでましたね、日給は8000円ぐらいだった」

 派遣仕事の合間にハローワークに通い、斡旋してもらったのが警備会社。契約社員の警備士で採用してもらい、主に工事現場で歩行者、車両の誘導を担当していた。

「60歳まで働いたけどお役御免だった。東日本大震災があったから、あちこちの工事が一時的に中断してしまって。仕事がないから辞めてくれということだった」

 この時点で年金保険料の支払いは40年になっていなかった。最初の失業後の6か月、2度目の失業後の9か月に国民年金への切り換えをしていなかったのだ。

「役所から何か封書が来ていたけど無視していた」

 運送業を始めたときは手続きをしたが、最初の頃は売上が低い月もあり、保険料を払えないことが何回かあった。免除の申請もしていなかったので未納扱い。

「未納は全部で29か月もあった。なので追加納付することにしました。掛け金を払うためにも働かなきゃならないから、ハローワークに通ったりシルバー人材センターに相談したり。求人誌も毎号読んで職探ししました」

「独り身だから何とかやっていけるでしょ」と思いきや⋯

 何とか見つけた仕事は食品ミニスーパーと弁当屋のダブルパート。食品ミニスーパーでは商品陳列とレジを担当。弁当屋では調理補助や回収してきた器の洗浄などをやっていた。月収は18万円ぐらい確保できていたので生活に支障はなく、年金の追加納付の支払いも完了できた。40年分きっちり払い終えたのは62歳5か月のとき。

「それでも65歳からもらえる年金は月10万円にもならないということでした。ガッカリだった。なのでパートで働けるうちは働いて、年金をもらうのは70歳にまで繰り下げるつもりだった。5年繰り下げると13万7000円ぐらいになる。独り身だから何とかやっていけるでしょ」

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「なんとかやっていける」と思った石井さん⋯⋯ところが、63歳直前に体調が急変。早歩きするだけで息切れや動悸が激しくなり、ひどい咳や足のむくみにも襲われた。

 尋常ではない症状に、かかりつけの内科へ。そこで告げられた驚きの病名とは――。【下記の関連記事】に続く。

「これ以上悪化したら命を落とす」70歳まで働くつもりだったのに⋯年金ぐらしの男性に「生活保護を決意させた」恐るべき【病魔の正体】〉へ続く

(増田 明利/Webオリジナル(外部転載))