選手が乗るバスにタンクローリーが追突…あわや大惨事に…プロ野球のキャンプ中に起きた“衝撃事件”
プロ野球の春季キャンプもたけなわ。キャンプ地では連日期待の新戦力などの話題で盛り上がっているが、約1ヵ月もの長丁場となれば、時には思わぬ事件が起きることもある。過去のキャンプ中に起きた衝撃事件を振り返ってみよう。【久保田龍雄/ライター】
野球選手は体を鍛えているので
監督と主力選手が乗ったマイクロバスにタンクローリー車が追突するという、一歩間違えば大惨事になりかねないご難に見舞われたのが、1972年の近鉄である。同年2月4日、宮崎県延岡市でキャンプ中だった岩本堯監督と選手13人は、マイクロバスに乗って宿舎の旅館を出発。キャンプ地の西階球場へと向かった。

ところが、市道交差点を右折しようと停止したところ、後ろから走ってきた運輸会社のタンクローリー車に追突されてしまう。
実は、ひとつ前の交差点でも、タンクローリーは異常に接近していたので、身の危険を感じた選手の何人かはずっと後方を注視し、ぶつかることを事前に察知していた。だが、補助イスに座っていた主力打者・永渕洋三は気づくのが遅れ、「ガクンとなった感じ」で、激しい衝撃を受けた。
驚いた岩本監督が降車し、タンクローリーの運転手に事情を聞くと、「選手の顔が見たくて近寄り過ぎた。お詫びのしようもありません」と平身低頭するばかりだった。運転手は4年前に近鉄の延岡キャンプがスタートしたとき以来の熱烈なファンだという。
バスは車体が大きくへこんだ状態で球場に向かい、到着後に永渕やエース・鈴木啓示ら5選手がめまいや吐き気を訴えたため、病院で精密検査を受けたところ、全員が全治1週間のむち打ち症と診断された。だが、「野球選手は体を鍛えているので、大事にならなかった」(担当医)とあって、翌日の練習には5人とも元気な姿を見せた。
一方、運転手は免停になったあとも、連日宿舎を訪れ、選手たちを見舞った。いつしかナインも「免停を食らったら、生活にも困るだろう」と心配するようになり、連名の減刑嘆願書を延岡署に提出。同署も「事故では揉める被害者と加害者が多いが、今どき珍しい話です」と感心しきりであった。
すぐ注意しようと思ったけど……
キャンプ中、スナックで警察沙汰になる事件を起こしたのが、阪神時代の伊良部秀輝である。
沖縄キャンプ中の2004年2月7日未明、伊良部は門限の午後11時を過ぎているにもかかわらず、石川市(現・うるま市)のスナックに友人2人とともに泥酔状態で現れ、ボックス席にいた客十数人の頭を小突くなどしてはしゃいでいたという。
本人はファンサービスのつもりだったようだが、酔った男性客の一人が「何で叩くのか!」と怒り、伊良部と取っ組み合いに。従業員や客ら6、7人が取り押さえ、間もなく騒ぎは収まった。
ところが、その後、男性客が石川署に被害を訴えたことから、翌8日、伊良部は島野育夫管理部長とともに事情聴取を受けることになった。同署では「事件性はない」として、それ以上捜査することはなかったが、球団は「団体行動の規律を破った」として、伊良部に厳重注意の上で、罰金30万円を科した。
「大事なキャンプ期間中に門限を破って迷惑をかけたうえ、(翌朝)風邪をひいて熱まで出した。どのようにとられても仕方ない」と反省する伊良部に、岡田彰布監督も「練習では若手の見本になっている。グラウンド外でもそうあってほしい」と戒めの言葉を贈った。
さらに2月12日、今度は宮崎県日南市でキャンプ中の広島の捕手・木村一喜が門限を破り、スナックで男性客と喧嘩になり、殴られて顎の骨を骨折する事件が起きた。相次ぐキャンプ中の選手の不祥事に、球団側も「伊良部の(事件の)ときにも、すぐ注意しようと思ったけど……」と困惑の態だった。
一部のファンの行き過ぎた行動で肩を痛めた松坂
ファンに腕を引っ張られ、右肩を痛めるアクシデントに見舞われたのが、中日時代の松坂大輔である。
2019年2月11日、北谷キャンプに参加していた松坂は、右肩の違和感を与田剛監督と阿波野秀幸投手コーチに訴え、話し合いの末、当分の間、ノースローで調整することが決まった。
その原因となる事件が起きたのは数日前だった。ブルペンからメイングラウンドに移動していた松坂は、花道の両側に並ぶファンが差し出す手にタッチで応じていたが、突然右腕を後方に引っ張られる形になり、直後、右肩に違和感を覚えた。
18年に6勝を挙げ、カムバック賞を受賞した松坂は、チームきっての人気者とあって、ネットオークションでサイン入りグッズが多数出品されていた。これに対し、球団側も転売目的で選手にサインを求める行為の自粛を呼び掛ける異例の声明を出していた。
そんな矢先に、一部のファンの行き過ぎた行動により、松坂が投手の命とも言うべき肩を痛めてしまったのは、残念な一事だった。
その後、2月10日までキャッチボールを行うなどして、状態が上向くのを待ったが、違和感はなくならず、同12日、病院で検査を受けた結果、右肩に炎症があると診断された。さらに16日、名古屋でチームドクターに診てもらうため、キャンプを完全離脱することが決まった。
3月29日の開幕戦、DeNA戦で松坂を開幕投手の候補に挙げていた与田監督も「(本人も)『うまく治る、痛みが消えるんじゃないか』と厳しくは考えていなかったと思う。悩んだだろうし、かわいそう。不慮の事故という形なんでね」と表情を曇らせた。
同年、前半戦を棒に振った松坂は、調子が戻らないまま、わずか2試合の登板に終わり、退団、古巣・西武に復帰後も首の痛みや右手のしびれなど故障との闘いに明け暮れた。だが、復活することなく、21年限りで現役引退となった。
久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘!激突!東都大学野球』(ビジネス社)。
デイリー新潮編集部
