「基本給を高く設定するか」「若手のうちから成果主義にするか」…“Z世代”に評価制度の議論に参加させた〈驚きの効果〉
「Z世代をはじめとする最近の若手は、会社が決めたことに従わない」「制度を作っても、社員はどこか他人事で冷めている」もしそう感じるなら、それは彼らがわがままだからではなく、その決定プロセスに自分がいなかったからかもしれません。多くの企業では、評価制度や育成方針は経営陣や人事部が決め、現場には決定事項として降りてきます。しかし、これでは社員の心は離れる一方です。では、あえて未完成の状態で見せ、社員をその話し合いの場に招き入れたらどうなるか? 本記事では、上林周平氏の著書『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム)より、組織へのエンゲージメントを高める「参加の場」の作り方について解説します。
誰でも意見を言える場を作ることの効果
職場において心理的所有感(※)を高めるためには「意見を言える」状態を一時的ではなく常設することが不可欠です。
※近年の組織心理学やマーケティングの分野で急速に注目度が高まっている概念で、「これは自分のもの(あるいは一部)だ」と感じることを意味します。
一時的にしかメンバーの意見を聴く会がないと、メンバーの多くの意見や想いは「一過性の“気づき”」として終わってしまいかねません。だからこそ、自発的に関われる「場」を常に、もしくは定期的に整えておくことが、心理的所有感の醸成に向けた大きな一歩になります。
弊社の毎月の全社会議では、経営・人事制度に関する主要なトピックを共有し、社員全員で意見や視点を交換するための時間を必ず確保しています。また、同じく月1回実施しているエンゲージメントサーベイでは、無記名での意見
やアイデアも受け付けており、「ちょっと言いにくいな」と思うような内容でも気軽に投稿できるようにしています。
さらに、経営メンバーと現場メンバーによる「経営トーク」と呼ばれる対話会も定期的に開催しています。これは単発のイベントではなく、「いつでも何かあれば声を上げていい」というメッセージを定着させるために、あえて定期開催という形を取っています。
定期的な実施によって、職場全体に「意見を言ってもいい」「関わっていい」という空気がじわじわと浸透していくのです。この経営トークでは、新入社員の育成や評価制度に関する議論を行った際には、「若手社員のベース給を高く設定し、自らの成長責任を持たせるか、従来通りの報酬体系で会社主導の支援体制を強化するか」といった対話が実際に生まれました。ほかにも、「評価軸について」といったテーマでも「若手のうちから達成率で明確な差をつけ、メリハリある評価にするか、一過性の成果よりも能力向上を重視し、絶対評価的に育成するか」という議論がなされました。
このように、育成や評価の在り方を経営陣や人事部だけで決めるのではなく、若手社員自身も含めて「どうあるべきか」を率直に議論する場を持ったのが特徴です。結果として、制度や方針が自分ごと化され、育成や評価に対して自律的かつ前向きに取り組む姿勢が社内に広がっていきました。
他部署の実態を知らなくて非効率に…
また、もう一つの事例として、問題意識を持った社員の呼びかけから始まった部門横断のセッションがあります。これは、ある5人のメンバーが「他部門の実態を知らず、シナジーが生まれていないことに課題がある」と感じたことをきっかけに、自ら全社の定例会の一部時間を使ってセッションを企画・実行したものです。セッションではまず、
1.各部門の「困りごと」や「やりがい」を可視化
2.その後、メンバーが他部門に“仮異動”して悩みをヒアリングするワーク
といった流れで進行されました。普段何気なくやりとりしていた他部門のメンバーに対して、「そんな苦労があった
んだ」「そういう価値観で動いていたんだ」といった気づきと尊重が生まれ、結果的に部門間の信頼や連携が飛躍的に向上したのです。この事例は、単に職位の高い人が動くのではなく、「現場で課題を感じた人が動き出す」ことの大切さを示す象徴的な取り組みでした。
もちろん、最初から完璧な制度や施策ができたわけではありません。しかし、自分たちで考え、決めて、改善していくプロセスそのものが、制度の定着を促し、「自分たちでつくる組織文化」になっていったのです。
途中入社のメンバーへのアプローチ
途中入社のメンバーに対しては、オンボーディング期間の3か月間にわたり、人事や経営との定期的な面談の中で「気になること」「感じた違和感」などをフィードバックしてもらう仕組みも設けています。こうした声を吸い上げる場があることで、早期から職場への参画意識が育ちやすくなります。そして、これらのベースには、日報などを通じて一人ひとりが全社に発信する機会が多く、常日頃から全体に自分の意見を発信することに慣れる環境があります。
一方で、こうした仕組みづくりには一定の難しさも伴います。たとえば、業務が忙しい中で時間を確保することが難しいという声もあるでしょう。また、意見を募ることで、「わがままな要望が増えるのではないか」「無理な期待を背負わされるのではないか」といった恐れを感じるマネージャーやリーダーも少なくありません。
だからこそ、取り組みが一過性のものにならないよう、内容や運用方法を定期的に見直し、形骸化を防ぎながら改善を重ねていく姿勢が重要です。こうして「きちんと運用され続ける場だ」という安心感が生まれることで、メンバーも自分の意見を託しやすくなります。仕組みが形骸化しないよう、内容や運用方法を定期的に見直しながら、継続的な改善を重ねていくことです。
自発的に関われる仕組みが整えば、メンバーの意見が場に流れ込み、職場が“みんなでつくる場所”へと変わっていきます。
最初からできる人はいない
新しくチームに加わった人が、初日から中心で活躍できることはほとんどありません。多くの場合、最初は何をしていいのかわからず、少し離れた場所から様子を見ているだけです。しかし、この「端っこ」での時間こそが、チームの文化をつかみ、成長していくための大切な第一歩になります。
このプロセスを理論として示したのが、文化人類学者ジーン・レイヴと社会学者エティエンヌ・ウェンガーの提唱した「正統的周辺参加」です。人の学びや成長は、知識を教わることよりも、共同体の一員として一緒に経験し、関わることで起こるという考え方です。人は教えられて変わるのではなく、共に場に関わる中で、自然と変わっていくのです。
たとえば職人の世界では、弟子が最初から技術を習うのではなく、掃除や道具の準備といった周辺的な仕事から始めます。そこで現場の空気や価値観に触れ、少しずつ中心に近づいていく。気づいたときには、共同体の一員として学びを内面化しています。これこそが正統的周辺参加の本質です。
現代の職場でも同じことが起きます。新人や異動してきたメンバーがすぐに成果を出せなくても、それは自然なことです。重要なのは、彼らが安心して「周辺から関われる」環境をつくること。たとえば会議の場で意見を聞いてみる、小さなタスクを任せてみる、気になる点を尋ねる。こうしたささいなアクションが、参加の入口になります。
共感型マネジメントにおいて、リーダーはこの「周辺からの参画」を支える存在です。すべてを指示するのではなく、一緒に考え、少しずつ任せていく。人は指示されて動くよりも、“巻き込まれて動く”ときに、本来の力を発揮します。だからこそ、共感型マネジメントに求められるのは、正解を教える人ではなく、一緒に成長していける場をつくる人です。そのような関わりが積み重なると、チームは上から動かされる集団ではなく、互いに影響し合い、学び合う「生きた共同体」へと変わっていきます。
職場に無関心なメンバーから意見を引き出すための工夫
意見を出し合う場で、「意見を出して」と促しても、うつむいて何も言わない……。そんな一見、「無関心に見えるメンバー」に対して、どう意見を引き出すかは多くの現場で共通する悩みかと思います。ただ実際は、無関心なのではなく、単に「どう話せばいいのかわからない」だけというケースがほとんどです。ここでは、現場で効果のあった「意見を引き出すための設計」を、3つのステップでご紹介します。
1.クローズドクエスチョン→オープンクエスチョンの流れを活用する
最初から「どう思う?」と聞かれると、多くの人が構えてしまいます。特に無関心に見える人ほど、突然のオープンな問いに戸惑いがちです。そこでまずは、選択肢つきのクローズドクエスチョンで思考のスイッチを入れます。
「職場の雰囲気は100点満点でどれくらいですか」
「この1年間のチーム連携、5段階でどれくらいですか」
といった答えやすい問いを入口にすると、多くの人が自然に考え始めます。そのうえで、
「なぜその点数にしたのですか」
「あと少し良くするなら、どこを変えたいですか」
とオープンクエスチョンに移ることで、徐々に自分の意見を言いやすくなっていきます。
2.最初の発表者を戦略的に選ぶ
場の空気は、最初の発言者によって大きく左右されます。上下関係ではなく、話しやすく前向きな雰囲気をもつメンバーに最初を任せることで、場の温度が一気に上がります。そして、その発言に対しては、否定せず受け止める姿勢が重要です。「なるほど、そういう見方もありますね」「共有してくれてありがとうございます」といった反応があるだけで、その場は「言って大丈夫」という安全な空気になります。こうした安心感は、その後の意見の出やすさを大きく左右します。
3.大人数→少人数→大人数の往復
多くの人にとって、大人数の前でいきなり話すのは高いハードルです。そこで、全体でテーマを共有したあとに、二人組や三人組など少人数で話し合う時間をつくります。
少人数の場でいったん言葉にしてみることで、口を開くハードルが驚くほど下がります。そのあとで全体に戻して「少人数で出た意見」を共有してもらうと、普段発言しない人でも自然と声を出しやすくなります。
[図表]メンバーから意見を引き出す工夫(まとめ) 出所:『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム)
上林 周平
株式会社NEWONE
代表取締役
