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富裕層の支出には、常に明確な「投資基準」が存在します。黎明期のテスラ購入に見る「体験の先取り」や、法的責任を負うプロへの「正当な報酬」は、その一例といえるでしょう。ではなぜ富裕層は、単なる節税や消費に留まらない投資を惜しまないのでしょうか。本記事では、富裕層専門税理士の森田貴子氏による著書『富裕層の領収書1000万枚見てきた税理士が教える 億万長者になるお金の使い方』(SBクリエイティブ)から、富裕層が重視する投資価値の基準について解説します。

2010年当時にテスラ購入の富裕層、その理由は「体験投資」

テスラといえば、今では誰もが知るイーロン・マスク率いる電気自動車メーカーです。しかし、日本に進出した2010年当時は、テスラの企業名どころか「電気自動車(EV)」という存在自体がまだ珍しく、知っている人はごく少数でした。

そのような中で、テスラを購入した富裕層を複数知っています。当時の販売台数は日本でわずか12台、価格は1800万円超。決して気軽に買える車ではありませんが、富裕層は、単なる消費としてではなく「体験投資」として購入しています。

テスラはソフトウェアのアップデートで進化し続けるプラットフォーム。さらにディーラーを介さないD2Cモデルなど、従来の常識を覆す仕組みを持っていました。ここから得られるのは、単なる移動手段ではなく、未来を先取りする体験であり、その過程で得られる知見という見えない資産です。だからこそテスラをいち早く購入した富裕層にとって、単なるかっこいい車を持つことではなく、自己投資として大きなリターンをもたらす行動だったのです。

トレンド意識と節税でも有益だったテスラ購入

トレンド意識と節税の意味でも、テスラは富裕層にとって買いでした。

理由のひとつは、時代の流れに対する感度の高さ。テスラは自動運転やエネルギー管理など最先端技術を実装し、環境負荷の少ないサステナブルな製品として、世界的な潮流を先取りしていました。そんな未来の技術をいち早く自分で体験することは、貴重な洞察につながります。

ある経営者は「ガソリン車と比べてどれほど違うのか、まずは自分で確かめたかった」と語っていました。

さらに、「テスラに乗っている」という行為そのものが、環境意識や未来志向を示す社会的メッセージにもなります。

つまり、テスラは「機能的価値」と「情緒的価値」を兼ね備えたブランド。最先端の性能や環境配慮という機能に加え、「未来を先取りする自分」という誇りや共感が、富裕層にとっての魅力になっているのです。だからこそ、テスラの購入は単なる高額消費ではなく、「価値ある選択」として位置づけられたのです。

そして最後が「節税」です。

テスラを社用車として購入する際に一般的に認められる節税効果があります。通常、企業や個人事業主で一定額以上の資産を購入した場合は、その年に全額を経費にすることはできず、「減価償却資産」として耐用年数に応じて少しずつ経費化していきます。たとえば普通乗用車(新車)の耐用年数は6年とされており、6年かけて分割して経費にしていくのです。

具体的に見てみましょう。

取得価額:1800万円/耐用年数:6年/定率法の償却率:0.333

初年度の償却費は約600万円(1800万円×0.333)。業務に100%使用している場合は全額経費となり、ガソリン代や車検費用なども経費に含めることができます。法人税等の実効税率を約30%とすると、約1260万円で購入できたのと同じ効果になります。

さらに、最高税率55%の個人事業主であれば、実質負担は810万円程度にまで下がる計算です。

このように、車両購入は高額な支出に見えても、税務戦略を踏まえることで実質的な負担は大きく変わります。富裕層が高級車を購入する背景には、こうした「税と経費の最適化」への理解と判断があります。

税理士としてお伝えしたいのは、節税は合法的に認められた権利であり、正しく活用すれば資産を守る有効な手段になるということです。

ただし「節税ありき」で支出するわけではありません。無策であれば莫大な税負担を抱える富裕層にとって、テスラのような高額なものの購入であっても法に則って申告し、税負担を抑える判断をしている──そこに合理性があるのです。

プロに対価を払うことの意義

無料相談や金融機関の窓口などお金や法律、特に税金に関する相談方法はさまざまですが、本当に守るべきは「お金」や「モノ」よりも、信用という見えない資産です。アドバイザー選びを誤れば、巨額の追加納税や信用失墜につながります。新聞やネットニュースで取り上げられ、社会的信用を一瞬で失いかねません。こうした事態を避けるために、富裕層は税理士などの専門家を活用しています。その結果、トラブルを防ぎ、信用という見えない資産まで守るのです。

まず、専門家を雇うことは、「対価を払って相談する権利を得る」ことです。

プロのサービスは無料ではありません。税理士を含む専門家には「質問に答える義務」がありますが、知っていただきたいのは有料・無料にかかわらず答えたことには法的責任が伴うことです。「気軽にご相談いただける」のはありがたいことです。ただ、依頼した以上は当然対価を支払う前提があります。この前提が欠けていたり、支払いを後回しにするような対応は、専門家リテラシーが不足していると判断せざるを得ません。

税理士としても、そうした方とは信頼関係を築くことは難しいと感じます。一方、富が続く富裕層は正当な報酬を支払うことで、専門家をアドバイザーとして最大限に活用します。それは、専門家が持つ目には見えない知見や、背負っている責任の重みを理解しているからです。

また、自分のお金のことは自分が責任を持つ。専門家に依頼する目的は「全部任せるため」ではなく「自分で判断できるようになるため」です。

たとえば税務の届出ひとつとっても、選択を誤ると権利を失い多額の税金を払うことになります。富裕層にとって専門家とは「よしなに処理してくれる人」ではありません。正当な報酬を支払って、専門知識と経験に基づくアドバイスを授けてくれるのです。だからこそ「〇〇コンサルタント」といった責任を伴わない立場からのアドバイスを嫌います。税理士には税務調査に対する責任が、医師には手術のリスクに対する責任があるように、専門家は必ずその判断の結果に責任を負っています。

富裕層はこうした責任を理解しているからこそ、専門家が判断できる必要十分な情報提供を行います。一方で必要書類を求められても「なぜ必要なのか」「どう扱われるのか」を理解しない限り動きません。

これは面倒なのではなく、「大切な個人情報を開示する責任」に真剣に向き合っている証しです。極端な例では、保険料控除の証明書をあえて提出しない人もいます。控除メリットより契約情報の開示リスクが大きいと判断するからです。つまり、「出せるから出す」ではなく、情報を出す意味とリスクを一つひとつ見極める。これは投資詐欺を避ける力にも通じます。厳しい言い方をすれば、引っかかるかどうかは自己責任なのです。

このように富裕層は、信頼できる専門家に任せつつも自分自身も主体的に関わります。その姿勢が資産を守り、育てる力につながっています。

富が続かない人はこれができません。申告期限ぎりぎりに領収書を束にして「お願いします」と丸投げする。あるいは「自分の申告は簡単にできる」と誤解する。こうした姿勢はいずれも富を遠ざけます。専門家に正しく情報を伝え、適切なタイミングで必要書類を整えることは、結果として「より質の高いサービスを受ける」ことにつながります。早めに状況を把握できれば、節税提案やリスク回避など選択肢は広がります。

任せきりにせず、信頼しつつも主体的に関わる――それが良好な関係と最大の成果を引き出すための鍵です。専門家が丁寧に説明し書面を残しても、一定の知識がなければ正しく理解されず、結果的に行き違いや不満に至ることがあります。副業や起業が当たり前になった今、事業規模にかかわらず、すべての人に求められる姿勢だと言えるでしょう。

富裕層に学ぶ「信頼できるアドバイザー」を見つける方法

日本では、居住者は全世界所得課税と言って、日本国内だけではなく海外で得た収入もすべて申告対象になります。アドバイザー選びに失敗すると、内科医に外科手術をお願いするようなもので、損害を被るリスクが高くなります。

特に富裕層の場合は法律の解釈の間違いが巨額の損失につながります。そのため、富が続く富裕層は、自身のビジネスに欠かせない分野の専門家を選び、資産防衛のために信頼できるアドバイザーを見つけています。

中でも国際税務ではその差が顕著です。国内法に加えて租税条約を扱う場合、経験のない専門家に任せれば、修正申告や追徴課税の額は莫大になります。堅実な顧問税理士がいたとしても、国際税務の専門性は別です。富裕層が世界四大会計事務所出身など国際案件に強い独立系事務所を選ぶのは、こうした背景があるからです。

実際に、弊社に辿り着く前に何社もの税理士事務所を渡り歩いた方がいました。肩書や紹介だけで選んだ結果、多額の租税債務と利息を負い返済に追われることになってしまったのです。本税よりもその利息が膨れ上がって、いくら働いても一向に払いきれないという状況に陥っていました。一般事業者でも、インボイス制度を誤って理解したまま課税事業者を選択し、払わなくてよい消費税を支払うケースもありました。

結局、知識不足の代償を負うのは依頼者自身です。お金や税金について何を重視するのか。安い税理士なのか、〇〇に強い税理士なのか、話しやすい税理士なのか。富裕層は「税務調査が入ったとき戦えるか」「これまでの実績や税務調査での対応力、意見書の作成能力など実際に成果を残し続けてきた本物の専門家かどうか」といった視点で厳しくアドバイザーを見極めます。

専門家はチームで機能する時代へ

複雑化した社会で、税理士業界ではすでに30年前から「チームで仕事をする」ことは当たり前でした。欧米の品質管理が導入されている世界四大会計事務所でも法人税・個人所得税・資産税と税目ごとに部門が分かれはじめ、監査法人でも業界別の部署ができるなど、専門特化が進んだ時代です。企業再生の現場でも、既存の顧問税理士がいる中に、ファンドに任命された会計事務所として税理士が入ることがあります。富裕層にとっても、日常業務を任せる税理士と、役割の異なるセカンドオピニオン的存在は併存します。

税金も医療と同じです。総合診療的に広く対応する専門家もいれば、国際税務・資産税・金融取引・企業再生といった領域に特化する専門家もいます。だからこそ「専門家には役割分担がある」という認識を持つことが重要です。

今の自分に必要なのは誰か。誰に相談すればよいのか。これを判断できるだけの知識と感覚を持つことが安心につながります。肩書や人付き合いではなく、「この人にはお金を払う価値がある」と自分の目で判断できること――それが見えない自身の資産を守る第一歩なのです。

森田 貴子

株式会社ユナイテッド・パートナーズ会計事務所

パートナー・税理士