地政学リスク、膨れ上がる債券、株高リスク…金価格1年で「65%」上昇。“際立つ強さ”を見せる金に吹く“強力な追い風”【1月の金市場】
2026年1月の金市場動向から、高騰を支える要因と今後の展望についてみていきましょう。なお、本稿はステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの4名のストラテジストによる共同執筆です。
金市場の好調を示す2026年最初の「6つ」のチャート
金のスポット価格は2025年に65%上昇し、年間リターンは実質、名目ベースともに1979年以来の大幅な伸びとなりました。注目すべきは、金の上場投資信託(ETF)市場が投資家の利益確定が意識される11月/12月の局面でも底堅さを見せたことです。
歴史的に見て、第4四半期は季節的に金への資金フローがマイナスとなる傾向があり、また米国株式市場は記録的なバリュエーションをつけていましたが、現物金を裏づけとするETFセクターには2025年最後の2ヵ月間に大量の投資家資金が流入しました※1。
最近のベネズエラにおける地政学的動向、世界的に膨れ上がる債務負担をめぐる不確実性の高まり、米国の株式/債券の相関性、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策、中央銀行の金需要、突発的なボラティリティ・ショックの可能性――こうした要因を背景に、金は2026年も依然として輝くと見られます。
最近の金価格のモメンタムや地政学要因を踏まえると、今年、金のスポット価格が1オンス5,000ドルに到達する確率は当社が2026年の金市場展望で示した30%を上回りそうです。
本稿では、「2026年の6つのチャート」を用い、金市場がなぜ(A)下値を切り上げる、(B)2024〜2025年の歴史的な上げ相場の後、今後6〜9ヵ月間に1オンス5,000ドルを突破して最高値を更新する可能性があるかについて、当社の見解と確信を示します。
・世界の政府と企業の債務は2025年に大幅に増加し、金の需要をサポート
・ポートフォリオの分散手段としての金
・金は積み上がったマネー・マーケット・ファンド(MMF)からシェアを奪えるのか?
・不確実性が高まるなか、金は上昇した株式バリュエーションのヘッジ手段として有望
・中央銀行の金購入は価格弾力性の低い現物需要を下支え
・2025年に過去最高を記録(米ドルベース)した金ETFへの資金流入、サイクルは2026年も持続へ
[図表1]世界の政府と企業(非金融)の借入れ(対GDP比、%)★1
政府と企業の「債務」が大幅に増加…金の需要をサポート
世界的にディベースメント(通貨価値の希薄化)懸念が広がり、借入れ水準が記録的な高さまで上昇するなか、フィアット通貨の代替資産として貴金属に対する投資家の需要は2025年に大幅に増加し、2026年も旺盛に推移する可能性があります。
2025年、政府と非金融企業の債務はドルベースで過去最高の210兆ドル、世界の国内総生産(GDP)の約182%にまで膨れ上がりました。過去25年間で、部門別債務の対GDP伸び率が年間でこれを上回ったのは、パンデミック危機のあった2020年と世界金融危機に見舞われた2008〜2009年のみです※2。
金融市場が、景気後退以外の環境での世界的な債務積み上がりを構造問題と捉えるなら、2026年に金価格が5,000ドルをつける支援材料になるでしょう。
世界の債務残高の増加は広範に見られるものの、特に新興国が主導しており、政府による借入がその拡大をけん引しています。政府予算に占める利払い費の割合が上昇すると、財政圧力や予算制約が露わになり、結果として世界的に金の魅力を直接高めます※3。
さらに注目すべき点として、先進国でも人口知能(AI)やクリーンエネルギー関連の起債を受け、非金融企業の債務も急速に増加しており、初めて100兆ドルに迫る水準となっています※4。
「持続不可能な債務」は過去のレジームでは投資家の目を問題の本質から逸らすものでした。しかし、金価格は過去わずか数年で1オンス2,000ドル弱から4,000ドル超に値を上げており、コロナ禍以降の現物需要と金融需要にけん引された金の高騰は、一部の資産配分者が今回は過去のレジームとは異なる可能性があるとみていることを示唆しています※5。
債務が経済成長を上回るペースで積み上がり続け、その債務に占める政府の割合が拡大し続けるなら、金は、債券のイールドカーブ・スティープ化、フィアット通貨の購買力低下、先進国または新興国の債務再編リスクの上昇に対する主要な資産ヘッジ手段として、おそらく恩恵を受けるでしょう。
[図表2]米国の株式/債券および米ドル/金の四半期ごとの対数正規リターンの3年移動相関性★2
ポートフォリオの「分散手段」として、金は・・・
米国の株式/債券の相関性は、パンデミック後のインフレ高進とFRBの金融引き締めサイクルのなか2022〜2024年に数十年来の高水準に上昇したあと、2025年に正常化しました※6。米国の財政政策およびインフレの景気への持続的な影響が、米国債のイールドカーブの期間プレミアムおよびデュレーションリスクを高めるようです。
したがって、米国の株式/債券の相関性が、1990年代後半、2000年代、2010年代に市場を支配し、ポートフォリオ構築のけん引役となっていた逆相関関係に戻るかは依然として疑問です。
米国の株式/債券が2026年に順相関関係を維持する限り、金への資産配分は増える可能性があります。なぜなら伝統的な60/40や70/30ポートフォリオを保有する投資家は、流動性のある代替資産を求めるとみられるからです。
そのような局面では、金は分散化手段およびレフトテール(下方リスク)ヘッジ手段として利用され、特に長期債からシェアを奪う可能性があります。
一方、米ドル/金の逆相関関係は持続すると思われ、為替ヘッジ手段としての金の役割は強まるでしょう。デノミネーション効果は、米ドルの広範な下落に対する米国内外の金投資需要(たとえば機関投資家フロー)や、自国通貨の価値下落懸念にもとづく需要(たとえば米国外では機関投資家や個人投資家のフロー)を下支えするうえで、重要な要素です。
[図表3]米国経済におけるマネー・マーケット・ファンド(MMF)の拡大と景気連動性★3
金は積み上がったマネー・マーケット・ファンド(MMF)からシェアを奪えるのか?
1980年から2001年にかけて、投資家が短期的な投資先を低利回りの銀行預金から高利回りのMMFへとシフトさせるなか、MMF残高の対GDP比率は2%から21%へと大幅に上昇しました※7。
この間、金は保有資産として一般的に選好されていませんでした。しかし2000年以降の20年間に、構造的な短期金利の低下でMMFの「リターンの優位性」が低下したため、金はコモディティのスーパーサイクル、そして世界金融危機後の期間に下値を切り上げました。
概していうと、MMFの対GDP比率は低下基調をたどり、2010年代終盤には15%まで低下しました※8。
パンデミック後の短期利回りの上昇でMMFの魅力が再び高まったことから、資金が流入し、MMF残高は過去のサイクルの高水準近くまで増加しました。
現在の水準(24%)は、2000年代初頭のピーク(21%)を上回っており、MMF残高の対GDP比率は世界金融危機(26%)や2020年のパンデミック(25%)の際につけた高水準に匹敵します※9。
歴史的に見て、MMF残高がピークをつけた後、短期利回りは低下し、金融政策は緩和されており(現在のFRBの政策経路)、金のように利回りを生まない資産を保有する機会コストは低下してきました※10。
短期利回りの低下に伴い、MMFの税引き後の実質インカムが減少するため金のメリットは高まります。MMF残高のGDP比率が24%から2000年代の10年間の平均である19%近くに戻った場合どうなるでしょうか?
この期間は現在との比較に特に適しています。というのは、FRBは2000年代半ばに政策金利を5.25%と、現在のサイクルのピーク(5.50%近傍)におおむね匹敵する水準まで引き上げているからです※11。
過去のサイクルでは、同様の金融政策の移行時には、実質利回りが低下し金融緩和が拡大するなか、投資家が過剰流動性を価値保存手段と見なされる資産に再配分するため、金に対する関心が再燃しました。
[図表4]金換算でみたS&P500指数および米国経済政策不確実性指数★4
不確実性が高まるなか、金が株高の有力なヘッジに
米国株式と金がいずれも2026年の幕開けから史上最高値を試す展開にあるため、金はテールリスクに対するヘッジやマクロ・ポートフォリオ・オーバーレイの観点から引き続き恩恵を受けるとみられます。
S&P500指数が2025年3月/4月の水準でこう着する場合、当社は金価格が1オンス4,000〜4,500ドルに達する可能性に警戒感を強めるでしょう。
しかしベンチマークの米国株価指数が7,000台に迫り、VIX指数が過去12ヵ月間の最低水準を試す展開にあるため※12、金は潜在的なボラティリティ上昇やリスクオフ・ショックへの備えとなる可能性があります。
実際、S&P500指数/金価格比率の1.6倍以下への低下は(パンデミック前の20年平均は約2.1〜2.2倍)※13、金価格を下支えする構造的要因に加えて、投資家が依然として金を妥当な流動性ヘッジまたはドローダウン・ヘッジ手段とみなしている可能性を示唆しています。
これは米国の「政策サプライズ・リスク」によって、さらに増幅されている可能性があります。
トランプ2.0の「不確実性プレミアム」は、資産市場のボラティリティに常に反映されるとは限らないですが、金の資産配分を構造的に押し上げる要因です。
米国経済政策不確実性指数は、第二次トランプ政権下で平均400ポイント弱であるのに対し、オバマ政権(2009〜2016年)では118、バイデン政権(2021〜2024年)では132、第一次トランプ政権(2017〜2020年)では139でした。トランプ2.0で地政学または政策レジーム(たとえば通商政策、防衛/外交政策、FRBの独立性など)が大きく転換する可能性には明らかに現実味があります。
こうした状況で最も確からしい確率分布の幅が大きく広がるにつれ、金を世界的な不確実性に対するヘッジ手段とみなす傾向は強まるでしょう。
[図表5]現物市場における構造的下支えとしての中央銀行の金需要★5
中央銀行による金購入が、金価格を下支え
中央銀行の金需要は2022年のピークから鈍化したものの、金需要全体に占める割合は過去10年間で構造的に拡大しています。
中央銀行による購入の割合は2025年に低下したものの、過去50年間の水準を依然として大幅に上回っており、公的部門の外貨準備管理が持続的にシフトしていることを裏付けています※14。
中央銀行の根強い需要は金市場の安定化要因となっています。価格感応度が高い、あるいは循環的な需要源と異なり、中央銀行の購入は政策主導で長期間にわたり、短期的な価格変動に影響されにくいため、市場のストレス局面やETF経由での投資家の売却局面で下方ボラティリティを抑えるのに役立ちます。
このダイナミクスは、中央銀行が実質的に金の需給均衡価格を徐々に押し上げ、金価格を1オンス4,000〜5,000ドルで下支えする役目を果たしていることを示唆しています。
重要な点は、需要全体に占める中央銀行の割合が低下したにもかかわらず、中央銀行のドル建て購入額が増加し続けていることです※15。こうしたかい離は、現在の金価格上昇と中央銀行による純購入の持続を反映しており、価格水準が徐々に上昇するなか公的部門の需要が供給を吸収しているとの見方を裏づけています。
購入は、価格サイクルを通じて、ドル金額ベースで購入規模を拡大しながら行われているため、中央銀行は事実上、下値の切り上げに寄与しているといえます。
以上の点を踏まえると、中央銀行の参加とドル建て購入金額の増加は、金の金融資産および準備資産としての役割を支える長期的で「粘着性のある」需要源を示しています。
この枠組みでは、金価格は短期的な投機フローより戦略的なバランスシート政策に支えられ、市場サイクルを通じた底堅さの向上に寄与しています。
金ETF流入は昨年“過去最高”…2026年も持続する見通し
現物を裏づけとする世界の金ETFは2025年12月に7カ月連続の資金流入となり、金の保有額は96億ドル(金72.2トン相当)増加しました。2025年の流入額は米ドル建て名目ベースで過去最高(868億ドル)を記録しました※16(すでに9月に2020年につけた495億ドルを突破)※17。
歴史的に見て、季節要因は11月/12月に金ETFのフローに最もネガティブな影響を及ぼします(図表6を参照)。
[図表6]2025年の金ETFのフローは例年と異なり11月/12月に落ち込まず、過去最高を記録★6
しかし2025年はこのトレンドに反し、最後の2ヵ月間で148億ドル(同111トン)の資金が流入しました。12月の流入額は米ドル名目ベースで96億ドルと、月次ベースでは2025年で3番目、そして過去6番目の高水準となりました※18。
2026年の金市場展望で指摘したように、今回のETF金保有量増加サイクルは約86週間で、その間に金保有量は936トン増加しており、持続期間は過去のETF強気サイクルの約39%/34%に、金保有増加量は約51%/40%に相当します※19。
過去の平均ペースである約8.75トン/週に基づくと、2026年のランレートごとの流入量は25%、50%、75%、そして100%に対し、約114トン、約228トン、約455トンとなり、年末の保有量は約4,118〜4,459トンとなる見通しです※20。
ランレートが100%のシナリオでも、今サイクルの流入量は2008〜2012年の合計を約432トン、2016〜2020年の合計を950トン、それぞれ下回ります。そのため、当社は今回の保有量増加サイクルは複数年に及ぶ公算が大きいとみています※21。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。
Aakash Doshi(Head of Gold Strategy)、Mohanad Abukhalaf (Gold Strategist)、Diego Andrade(Senior Gold Strategist)、アーロン・チャン(ゴールド・ストラテジスト)
