古代ローマの人々は「鉛で汚染された風呂」に入っていた可能性

古代ローマは北アフリカからヨーロッパにまたがる非常に広大な領土を支配し、高い技術力を持っていたことで知られており、多くの都市に公衆浴場が設置されていたこともわかっています。ところが、古代ローマの都市・ポンペイにあった初期の風呂を調べた結果、当時の風呂の水はなかなか交換されず、人々が鉛に汚染された風呂に入っていた可能性があると判明しました。
Seeing Roman life through water: Exploring Pompeii’s public baths via carbonate deposits | PNAS

'Not very inviting': Pompeii bath facilities may have been filthy with lead-contaminated water | Live Science
https://www.livescience.com/archaeology/romans/romans-regularly-soaked-in-filthy-lead-contaminated-bath-water-pompeii-study-finds
公衆浴場はローマ文化において重要な存在であり、人々はかなりの長時間を浴場で過ごし、重要な社交の場にもなっていました。古代ローマの拡大に伴って入浴文化も進化し、最盛期には入浴などに使う水を運ぶだめの長大な水道橋も建設されました。
しかし、水道が設置される前の公衆浴場では使える水にも限りがあったため、風呂の水は決して新鮮で清潔なものではなかったとのこと。ポンペイに水道が建設される前の紀元前130〜30年ごろに使用されていた初期の公衆浴場では、井戸や貯水槽からくみ上げた水を奴隷が単一の揚水機で供給していたそうです。
ドイツにあるマインツ大学の考古学者であるギュル・シューメリヒンディ氏は、「水は1日に1回しか補充できませんでした。このような状況では、特に入浴用の水が補充される前は水質が劣悪になると考えられます」と述べています。

シューメリヒンディ氏らの研究チームは、ポンペイで使われていた初期の公衆浴場の水質を調べるため、沈着した炭酸カルシウムのサンプルを調査しました。炭酸カルシウムは硬水中のカルシウムイオンが炭酸イオンと反応することで作られ、湯沸かし器やボイラー、配管などに白っぽくて硬い沈殿物として蓄積します。
分析の結果、当時の浴場に水を供給した井戸と人々が入浴した風呂の間で、炭素同位体が顕著に減少していることが確認されました。炭素同位体が最も少なかったのは風呂の水が排水された場所であり、微生物の活動や人々の汗、皮脂、尿、洗体に使った油などの影響で有機炭素が流入した結果だろうと研究チームは考えています。
論文の共著者で、マインツ大学の地質考古学者であるシース・パッシェ教授は、「これらの浴場は、現代では体験できないものでした。人々は石けんではなくオリーブオイルでこすり洗いをして汚れを落としていました。その油の一部が水に混ざっていたのです」とコメントしました。
公衆浴場の水は人間の老廃物などによって汚染されていたものの、1日1回程度しか水が交換されなかったため、衛生状態はあまりよくなかった可能性があるとのこと。シューメリヒンディ氏は、「この小さな浴場での入浴体験はおそらく衛生的な環境ではなかったため、あまり魅力的ではなかった可能性が高いです」と述べています。

by Tim Milkins
また、研究チームは公衆浴場内に残された微量の元素を分析し、どれほど重金属によって汚染されていたのかを調査したところ、当時の浴場では鉛の濃度が高かったことが確認されました。これは、浴場内に設置された鉛配管システムを通じて持ち込まれたものだとみられています。なお、時間の経過とともに鉛配管の内部に炭酸カルシウムが沈着することで、徐々に水中の鉛濃度は下がっていったと考えられています。
しかし、仮に公衆浴場が非常に不衛生で悪臭が発生するような状態だったら、人々はわざわざ入浴しなかっただろうと思われます。パッシェ氏は、「人々は小さくて温かい風呂にはあまり長くつからず、主に浴場の温かい空気の中で座りながら会話を楽しんでいたのでしょう」とコメントしました。
