オンライン葬儀のURLに飛ぶと、アニメキャラのサムネが映り、アニソンが流れ出した…

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【前後編の後編/前編を読む】恒例行事のコミケにさえ行けない…「実家」に束縛された推し活仲間が苦しみの末に選んだ「最悪の手段」

 これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集し、語り部としても活動する川奈まり子が世にも不思議な一話をルポルタージュ。

 同じ会社に籍を置いていた佳苗さん(仮名)とA子は、同じ声優を推す同志で、親友と呼べる関係を築いていた。だが、コロナ禍によって、A子は北陸の実家に帰りリモートワークをするようになる。そこには、娘を二度と東京にやりたくないというA子の父の思惑もあった。職場復帰はもとより、2人で毎回行っていたコミケへの誘いも断られ、佳苗さんはA子に裏切られたような気持になるように……。そんな折にA子の妹から連絡が入る。A子が自宅で首吊り自殺をしたというのだ。故人の遺志で、佳苗さんと、2人の指導係であった上司のB氏を葬儀に招きたいという。A子の家族は、佳苗さんも出席できるようにと、オンライン葬儀をとりきめたがーー。

オンライン葬儀のURLに飛ぶと、アニメキャラのサムネが映り、アニソンが流れ出した…

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【写真を見る】「幽霊でもいいから会いたい」残された遺族の心を救う“死者との再会”

 訃報の翌週、7月初旬にオンライン葬儀が執り行われた。

 事前に動画配信サイトのURLと開催日時がメールで送られてきて、その文中で式の終了後に動画が削除される旨なども説明された。

 開始時刻は15時ちょうど。30分前から待機画面が表示されるそうなので、佳苗さんは14時半になると自宅でパソコンを開いて、貰ったURLにアクセスしてみた。

 A子の葬儀のオンライン動画のサムネイルはアニメキャラクターのイラストだった。

 待機画面にも同じイラストが表示され、A子が推していた声優が歌うアニメソングが流れた。

 一瞬、違うチャンネルに繋げてしまったかと思ったが、URLに誤りはなく、動画のタイトルを見ても、ここで間違いなかった。

 《故〇〇A子様 葬儀式場》

 佳苗さんの胸に、A子と一緒に推し活にいそしんだ頃の楽しい記憶が去来した。

 溢れる涙をティッシュで拭いながら待っていると、やがて15時になり、画面が葬儀告別式の会場に切り替わった。

喪主挨拶

 遺影と花が飾られた祭壇は、ごく簡素なものだった。どれほど簡素だったかといえば、佳苗さんが「もうちょっと豪華にしてあげられなかったの?」と内心不満に思ったぐらいで、白いクロスを敷いた上に葬式用の遺影にしては小さな……せいぜい四六判サイズぐらいの遺影の額を立てて、左右に菊の花束を一対飾っただけであった。

 袈裟をつけた僧侶と、葬儀社のスタッフらしい男女2名も画面の端に映っている。

 そこまでは想定内だった。

 しかし、それ以外には黒い影たちが佇んでいるばかりであった。

 黒い煙がわだかまって人間の輪郭を成している。

 そんな、よくわからないモノが5つぐらい、祭壇の横に並んでいた。

 佳苗さんは我と我が目を疑い、パソコンの画面を食い入るように見つめた。

 そこにいるはずのA子の両親と妹の姿も見当たらない。

 だが、おもむろに黒い影の1つが画面の方へ進み出てきて挨拶をしはじめた。

「本日はご多忙の中、○○A子の葬儀にオンラインにてご会葬いただきまして、誠にありがとう存じます。A子は7月〇日の朝に急逝しました。28歳という若さでした……」

 台詞こそ典型的な喪主の挨拶だ。しかし奇妙だった。

――この声! A子の声だよね!?

 全身に鳥肌が立ち、パソコンの前で思わず腰を浮かしてしまった佳苗さん。

 その前で、黒い影が粛々と、やや奇妙な言葉を続けた。

「突然のことで、きっと皆さまも信じられない思いでいらっしゃるでしょう。生前に皆さまから賜りましたご厚誼について御礼申し上げると共に、このように驚かせてしまったことを深くお詫びいたします。最期の日々は内なる衝動との闘いでした。誰のせいでもございません。しかたがなかったのだとお考えください。本日は誠にありがとうございました」

 A子自身が語っている。そう確信しつつ呆気に取られて動画を視聴するうち、佳苗さんは気がついた。

 動画配信サイトの画面上に表示された視聴者数のカウンターが「1」で止まっている。

 つまり佳苗さんしか閲覧していないということになる。

雨だれ

 このとき僧侶の読経が始まった。重々しい南無妙法蓮華経が寂寥感たっぷりにパソコンのスピーカーから流れだすと、画面の中の黒い人型の影たちがどよどよと体を揺らしはじめた。

 同時に、パチパチッと電気がスパークするような奇妙な音が、佳苗さんの周囲の空気を震わせた。

 部屋のどこかで鳴ったと思われるのに、辺りを見回しても変わったところは見受けられず、ただ、7月の午後3時過ぎにしては窓の外が薄暗いような……。

 と、視線を向けた窓のガラスに水滴がポツンと一滴だけ当たって、ツーッと下に流れた。それきり、雨が降り出す兆しもない。

 佳苗さんは震える手で、パソコンのブラウザをいったん落とした。

 深呼吸して気を整えた後、あらためてブラウザを立ち上げてA子のオンライン葬儀動画にアクセスすると、僧侶が読経を終えるところだった。

 式場のようす、遺影、花の祭壇、僧侶やスタッフは、先ほどの中継画面に映っていたのと寸分違わなかったが、今度は、喪服を着た年輩の男女と、20代の女性がいた。

 彼らはA子の家族であろう。

 カウンターに表示されている視聴者数は約6名。妥当な人数だ。A子の父母両方の祖父母とB氏と佳苗さん自身、合わせて6名が視聴しているわけだから。

 その後は何事もなかった。拾骨は動画配信しないそうなので、僧侶による読経に続いて故人を悼む説法が行われ、締め括りに喪主がオンライン葬儀を視聴している人々へ向けて再び挨拶をして、終了した。

 あっけないものだと思いつつ、佳苗さんはブラウザを閉じた。

――人の形をした黒い影が5つぐらいあったが、あれは何だったのか?

――それにまた、そのうち1つがA子の声で最初の挨拶をしたのは……?

 混乱して頭を抱えていたら、オンライン葬儀に参加していた上司のB氏からLINEメッセージが届いた。

「おつかれさま。今、電話で話せますか」

誤配信

 B氏もおかしなものを見てしまったのでは、と、佳苗さんは期待した。

 だが、B氏の話は予想外のものだった。

「他所の葬式の生中継に接続されてしまって、慌てて切って、入り直したんですよ。そちらは問題ありませんでしたか?」

 佳苗さんは咄嗟に答えに詰まった。

 人間の形をした黒い影がいくつもウヨウヨして、死んだはずのA子の声で挨拶をしたなどと話せば、どんな誤解を受けたものかわからない……。

 困っていたら、B氏は続けてこう問いかけてきた。

「一瞬、立派な祭壇が映ったでしょう?」

「え……と、はい」と、佳苗さんは、さっき見たばかりの質素きわまる祭壇を思い浮かべながら答えた。

「たぶん同じ葬儀社が同時に手掛けていた別のオンライン葬儀の画像でしょう。すぐに画面が切り替わりましたが、他人の葬式を配信してしまうなんて、ひどいミスだ!」

 こうB氏は腹に据えかねた口調で言ったかと思うと、「それにしても……」と呟いて急に黙り込んだ。

 あまりに沈黙が長いので「どうされました?」と佳苗さんは訊ねた。

 「あ! いえ、誰の葬式だったのだろうと思いまして。0コンマ何秒かで正しい葬儀会場に画面が変わったので、故人の名前を確認できませんでしたし、遺影もしっかりとは見れなかったのですが……。遺影に写っていた人は私ぐらいの年齢の男性で、面差しも私に似ていたような気がするんですよ。単に気のせいでしょうけど……」

幻の葬儀

 B氏との通話を終えて間もなく、A子の妹から、Wi-Fiかデバイスの不具合が原因でライブ中継の一部を見逃した人がいたため動画を1週間残す旨を伝えるEメールが届いた。

 そこで佳苗さんは再びA子のオンライン葬儀の配信動画を視聴してみることにした。

 再び怪しい黒い影を目にする可能性があるからこそ、確かめずにはいられなかったのだ。A子の声がおかしな弔辞の挨拶をしたことも時間が経つほどに現実感が薄らいで感じられてきたので、あれが本当の出来事だったのかを知るためにも、視聴しておきたかったのだとか……。

 だから彼女は動画配信サイトの閲覧履歴から手早くA子のオンライン葬儀動画に繋がろうとしたのだが、そこでさっそく意表を突かれてしまったのであった。

 サムネイルと待機画面は、白地に落ち着いた色調で描かれた雲の文様と花々のイラストの静止画像だった。

 アニメキャラのイラストではなく、BGMも推していた声優の曲ではなかった。

 厳かな調べのインストゥルメンタルが流れる中、画面中央にA子の遺影と《故〇〇A子様 葬儀式場》という文字が静かに浮かびあがり、音楽がフェードアウトすると同時に葬儀の中継画面に切り替わったのである。

 黒い影たちはどこにも見当たらず、最後まで不審な点を発見できないまま終了した。

 何度見ても同じことで、佳苗さんは次第に、親友が死んだショックのあまり幻を見てしまったのだと思い込むようになっていった。

ペットのお迎え

 それから約1年が経過した2023年の7月、佳苗さんは初めてA子の墓参りをした。

 祥月命日の一週間後のことで、一周忌の香典はすでに書留で送ってあった。

 A子の実家には知らせず、東京から新幹線で北陸のA子の郷里に行くと、真っ先に墓のある寺院を訪ねた。

 すると、A子の墓の前で、オンライン葬儀の動画で見た人物に遭遇した。

 それはA子の妹で、こちらから声を掛けるまで佳苗さんが誰だかわからなかったようであった。

 あらためて挨拶を交わし、その場で立ち話をした。

 やがてオンライン動画に話題が及ぶと、A子の妹が「変なものが映っていませんでしたか?」と言ったので、佳苗さんはドキッとした。

「……変なものと言いますと……?」

「黒い影が5つぐらい映っていたようなんですよ」

 これを聞いて佳苗さんは一気に1年前に引き戻された心地がして、思わず「私も見ました!」と大声を出してしまったのだという。

「てっきり気の迷いかと思っていましたけど、本当に映っていたんですか!?」

「はい。祖父母が4人とも見たそうです。モヤモヤした黒い影が5つあって、昔、姉が可愛がっていた猫と犬も合せてちょうど5匹で、みんな寿命や病気で死んでいるので、姉を迎えに来たのだろうという意見に落ち着きました」

「……でも、人の形をしていませんでしたか?」

「はい。人間の形をしていたそうで、そこはちょっと気味が悪い感じですよね? けれども、うちには犬が2匹、猫が3匹いたので数は合っているんです。もっとも、残念ながら私と両親は見ていないんですよ。アーカイブには、そんな変わったものは何も映っていませんでしたし……」

 A子の妹は香典のお礼を丁寧に述べて、この後、用事があるからと言い訳しながら去っていった。

盛大な葬儀

 佳苗さんは、例の黒い影は幻覚ではなかったようだと考え直した。

 A子の祖父母も同じものを目撃したのだから。

 しかし、あれが犬猫だとは思いもよらなかったし、A子の妹はああ言っていたけれど、今でも頭から信じ込むことは出来ない気持ちだった。

 だいいち、黒い影が映っていた画面には、A子の家族の姿がなかったのである。

 犬を2匹と猫を3匹、かつてA子が飼っていた事実を知っている人たちが推理するのと同じ文脈には佳苗さんは乗れなかった。

 A子の死から時が経って心が平穏を取り戻すと共に、佳苗さんは上司のB氏にこの話を打ち明けたいと思うようになった。

 だが、日頃、雑談を交わすような間柄ではなく、やがて2024年の1月にB氏が50代の若さで病死してしまうと、そんな機会も永遠に失われた。

 B氏は前年の9月頃に心筋梗塞の発作で倒れ、以来、余病を併発して入院していた。

 そして、重篤な状態から抜け出せず、とうとう帰らぬ人となったのであった。

 社内で責任ある部署を任されていたほか、彼は副業でも成功していた。

 非常に顔の広い人だったので、葬儀告別式はセレモニーホールの大広間を借りて行われ、200人あまりの参列者の中に佳苗さんもいた。

 彼女が、もしや……と思ったのは、豪壮な祭壇と遺影を眺めたときだった。

 あのときB氏は、立派な祭壇と彼自身に似た男性の遺影を見たと言っていた。

 まさかとは思うが、彼は未来の自分の葬式を視聴してしまったのではあるまいか?

憧れ

「こういう出来事があったのですが、その後、社内でA子がBさんを彼の世に引っ張っていったのだと言う者が現れました。A子がBさんのことを好きだったから……というんですよ」

 インタビューのとき、佳苗さんはそう言って苦笑を漏らした。

「何かあったとは思えません。亡くなった時期だって、1年半も間が開いていますし。強いて言えばBさんはA子と私が好きだった声優さんに顔が似ていましたけど、既婚者で、うんと年上のオジサンですからね。無責任な噂ですよ」

「似ていたのなら、ちょっと憧れていたのかもしれませんね?」

「まさか、違うでしょう。A子はBさんについて私には何も言っていませんでしたから」

 そうは言っても、佳苗さんは同期の同僚で、共にB氏の部下である。かえって打ち明けられなかった可能性もあるのでは……などと考えると、B氏が語った見知らぬ葬儀告別式と彼の死を、A子の自死と結びつけたくなってしまう。

 しかし、B氏が言っていたように、同じ葬儀社が手掛けた別のオンライン葬儀の動画が一瞬紛れ込んだ可能性も完全には否定できない。

 だったらB氏については、何ら不思議な点は無いということになる。

 佳苗さんとA子の祖父母が見た黒い影の正体も判然としない。

 A子が実家にいた頃に可愛がっていたペット5匹の霊が配信された動画の中に出没したのか。

 それとも……そう、たとえば、葬儀告別式の会場に憑いている地縛霊かもしれない。

 あるいは、あれらはA子に祟っていた怨霊で、そのためA子は前触れなく自死してしまったのだ等々、いくらでも思いつけてしまう。

 佳苗さんは「サムネや待機画面がアニメキャラでBGMが声優さんの歌だったのはA子の仕業だと思います」とも話していた。

「あれは、良い想い出の記念に、A子が私にだけ見せてくれた幻だったんですよ」

 そうかもしれないが、それだって、佳苗さんがショックと悲しみのあまり幻覚を見たという解釈も成り立ってしまうのだ。

 私としては、関係者の皆さんがなるべく心穏やかに過ごせるように、それぞれに解釈されるのが良いと思うばかりである。

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【記事前半】では、A子との推し活の思い出やA子が受けた実家からの束縛、あまりに若く突然だった自死について語られる。

川奈まり子(かわな まりこ) 
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部