子どもに「わり算はなぜ0で割ってはいけないの?」と聞かれたら、何と答えればいいのか。サイエンスナビゲーターの桜井進さんは「この質問をされたら『いい質問だ!』と褒めてあげてほしい。『定義される・されない計算』を考えるきっかけになるからだ」という――。

※本稿は、桜井進『人生は数学でできている 恋愛、戦争、うわさ……すべてが解ける!』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Hanasaki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hanasaki

■電卓で「3÷0」を計算すると……

小学生に「なぜ0で割ってはいけないの?」「なぜ0で割れないの?」と質問されたらどう答えるでしょうか。まちがっても「そう決まっているの!」などと乱暴なレスポンスをしてはいけません。丁寧に答えてあげたいものです。

そもそもこの疑問自体が小学生にとって自然・当然なものです。「そうだよね!」「いい質問だ!」「面白い質問だ!」と疑問を持ったことを褒めてあげます。そして、どこがいい質問で、何が面白いのかを解説してあげましょう。

数学の問題としての説明はもちろんのことですが、ここで筆者が問題にしたいのは「いけない」という言葉使いです。

電卓で「3÷0」「0÷0」の計算をしてみた結果は、「エラー」(iOSのアプリ)「ゼロでは除算できません」(アンドロイドOSのアプリ)「数学的誤りか計算範囲超えです」(CASIO fx-JP900)という3通りの表現でした。みなさんの電卓でも「3÷0」「0÷0」を計算してどんな表示がされるかを確かめてみましょう。

例えば、60(km/時)とは60/1(km/時)のことで、1時間で60km進むという速さのことです。すると、60/0(km/時)とは、0時間で60km進むことを意味しますが、0時間で60km進むことはできません。60/0(km/時)という速さは存在しません。

60÷0を電卓で計算した結果の「エラー」とは、0で割る計算には「答えが存在しない」ことを表しているようです。error(エラー)とは、誤り、間違い、誤解、過ちのことです。数学では、計算の誤差という意味で用いられる場合もあります。では60÷0=(エラー)は、どの意味に当たるのでしょうか。

■かけ算で考えてみる

まずわり算とは何かをもう一度考えてみるところから始めてみます。

かけ算 ⇔ わり算
2×3=6 ⇔ 6÷2=3

このようにわり算に対応するかけ算を考えることができます。0で割るわり算「3÷0」に対応するかけ算を考えてみます。

かけ算 → わり算
? → 3÷0=?

すると次のようにかけ算の式を考えることができます。

かけ算 ← わり算
0×?=3 または ?×0=3 ← 3÷0=?

わり算の式の?を考える代わりに、かけ算の式の?を考えてみるということです。0×?=3とは、0に何をかけたら3になるか?ということです。

……そんな数はない!

そうです、3÷0の答え?は「ない」です。しかし、0のわり算はこれで終わりません。0で割るわり算のちょっと面倒なのは次の点です。

■「0÷0」は特別

0を0で割るわり算です。同じようにかけ算の式を探してみます。

かけ算 ← わり算
? ← 0÷0=?

すると、次のようになります。

かけ算 ← わり算
0×?=0 または ?×0=0 ← 0÷0=?

かけ算の式の?に当てはまる数を考えます。面白いことに?に当てはまる数はいくらでも見つかります。

かけ算 → わり算
0×0=0 → 0÷0=0
0×1=0 → 0÷0=1
0×2=0 → 0÷0=2
0×3=0 → 0÷0=3
…… → ……

つまり0÷0の答えは「無数にある!」と言えます。

このように「0で割ることはできない」ではなく「0で割る計算はできる」のです。ゆえに「どうして0で割ってはいけないの?」にある「いけない」に違和感が生じます。「いけない」には、許されないというニュアンスがあります。0で割るわり算はそれ以外のわり算と同じように考える(計算する)ことができる(許される)のです!

答えをまとめてみましょう。

0以外の数÷0の場合 …… 3÷0=(答えなし)
0÷0の場合 …… 0÷0=(すべての数)

なんと、0で割った答えは「ある」のです。それも2つ。これが問題なのです。

写真=iStock.com/georgi1969
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/georgi1969

■a÷0は「割ってはいけない」ではなく「定義できない」

以上は小学校6年生に何とか説明できる解説です。これを大人向けに答えるとどうなるかを続けましょう。

0でない数で割るわり算(例えば6÷3=2、0÷5=0)には「答えが1つに決まる」という大きな特徴があります。もちろん、たし算3+5、ひき算6−4、かけ算8×3もそうです。どんな数同士のたし算・ひき算・かけ算でも答えは1つに決まります。

ところが、0の数で割るわり算「a÷0」は、「答えが1つに決まらない」計算なのです。数学ではこのことをそれぞれ「演算が定義できる」「演算が定義できない」と表現します。高校までの算数・数学では「定義できる(答えが1つに決まる)」演算しか習いません。a÷0には答えが2通りある、すなわち答えが1つではありません。これを数学では「計算(演算)が定義されない(できない)」と表現します。これが「0で割ってはいけない」の正体です。

よく言われる「0で割ってはいけない」「0で割ることはできない」という表現を「0で割る計算(演算)は定義できない」と比べると、どちらも「ない」という否定表現のところだけは同じです。しかし「いけない」には「善悪」のニュアンスがあります。善悪は主観的です。人によって何が善で何が悪なのかは異なります。

■数学は善悪ではない

ですから大人に「0で割ってはいけない」と言われてしまうと子供はそれを大人が(主観的に)決めたことなのだと勘違いする恐れがあります。数学は善悪(主観的)ではないので「いけない」という表現が不自然なのです。

●0で割るわり算
aが0以外の場合は、a÷0は存在しない。
aが0の場合は、a÷0は無数に存在する。
したがって、わり算a÷0は定義されない。

このように答えを返してくる電卓があってもいいと思います。60÷0には「存在しません」、0÷0には「すべての数」と返してくる電卓アプリです。

ちなみに、Linux系OSであるUbuntuのアプリ「電卓」では「ゼロ除算は未定義です」と表示されます。これまでに見た電卓の中で最も正確な表現です。

■「定義される・されない計算」を考えるきっかけになる

ところで分数の四則のルールはほかの計算とくらべて独特です。たし算とひき算は通分して分子同士のたし算・ひき算をするのに対して、かけ算・わり算は分子同士に加えて分母同士のかけ算をします。なぜそのように決まっているのでしょうか。それは定義される計算としてデザインされているからです。

桜井進『人生は数学でできている 恋愛、戦争、うわさ……すべてが解ける!』(中公新書ラクレ)

「計算が定義されない」なんて教科書にはでてきません。それはそうです、小学校から高校までに習う計算のすべては「定義される計算」だけなのですから。わざわざ答えが1つに定まらない「定義されない計算」など学校では扱いません。結果として「定義できる計算」だけが教えられているということです。

だから安心して分数の計算ができます。本当はいちいち説明できるのですが、残念ながら学校でそこまでふみこむことは容易ではありません。高校数学でもそのことには触れられません。

ということで、0で割るわり算の問題は「定義される・されない計算」を考えるきっかけになるという意味で「いい質問だ!」といえるわけです。小学校で習う算数に「なぜ」「どうして」という疑問の眼差しを向けることで教科書には書かれていない風景に出会うことができます。

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桜井 進(さくらい・すすむ)
サイエンスナビゲーター
1968年山形県東根市生まれ。sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
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(サイエンスナビゲーター 桜井 進)