水族館の魚「おいしそう」と思うのはダメ…?いえ、むしろ嬉しいです!飼育員が実食した「食べ方」の展示 “海のギャング”もいただきます
水族館の魚を見て、こう思った経験はありませんか?
【写真を見る】マアジ、カサゴ、キジハタ…ウツボやヒトデの「美味しい食べ方」
「おいしそう…」
ハッ、ダメダメ。展示されている命を「食べ物」として見るなんて…。でも、やっぱりスーパーでパック詰めされた魚よりもツヤツヤしていて…。ああ、刺身が食べたくなってきたなぁ…。
インターネットで「水族館 魚」と検索してみると、候補には「食べる」「食べたくなる」「おいしそう ダメ」などが挙がりました。同じ様な疑問や葛藤を抱く人たちが一定数いるようです。
そんな悩める私たちに対し「『おいしそう』と思ってもらえると嬉しい」と話す水族館スタッフがいます。
「魚」と「食」への探求心が詰まった独自の展示方法に注目しました。
おいしいか、おいしくないか
天草四郎ゆかりの地、そしてイルカウォッチングが人気の熊本県上天草市。全国的にも珍しい“海に浮かぶ水族館”として知られる「海中水族館シードーナツ」に、その展示はあります。
天草・牛深地方の海で獲れる魚を紹介するエリア。魚の「おいしい食べ方」が、レシピや、食べた感想とともにずらりと並んでいました。
マアナゴ『(蒲焼の感想)脂はウナギより少ないですが、またそれがいい!』『(丼の感想)ご飯がめちゃくちゃ進みます。ただ5日連続はつらかったです』
5日連続でアナゴ丼を…?気になるところですが、続いてウニの水槽を覗いてみます。こちらはシンプルかつ明瞭です。
ムラサキウニ『おいしいウニ』
ガンガゼ『おいしくなかったウニ』
更には、こんな魚たちも…。
「ねえ見てー!ウツボっておいしいんだって!!」
子ども達が釘付けになっていたのは、ウツボやヒトデの水槽です。
ウツボ 『天草ではキダコとも呼びます。 から揚げにすると絶品!マヨネーズやチリソースで味変も○』
ヒトデ 『(塩ゆでの感想)ウニやカニ味噌のような味わいです 百聞は一見にしかず』
高級食材として知られる生き物は「おいしそう」な装いに。イセエビやタイワンガザミ(ワタリガニ)は、平皿や丼と一緒に展示されています。
「丼がカニよりも小さかったので、全然カニが入らなくて…タコでもチャレンジしたのですが、丼に入らず裏側に隠れちゃうので、こちらは諦めてタコ壺にしました」
「生き物は思い通り動いてはくれないので」そう言いつつも目を輝かせながら魚たちの魅力を語るのは、海水生物担当の山中大葵さん(22)です。
3年前の入社時にこのエリアを任されてから、「食べ方」をテーマにした展示を増やしてきました。
なぜ「食べ方」展示を?
シードーナツ 山中大葵さん「『お皿に乗ったイセエビ』の水槽は、入社前から既にありました。それをSNSでアイコンにしている人を見て『これは受けがいいのでは?』思って、そっちに振り切った方が面白いかなと。面白いものを見たら、うまく落とし込めないか、自分のモノにできないかを考えます」
解説版の調理方法や感想は、山中さんが実際に作ったり食べたりした経験をもとに作成したもの。魚のイラストの多くも自身で描きました。
その原動力は、やはり「食べることが好きだから」。
一番好きな魚はフグ。珍しくておいしかったのは、ハコフグの味噌焼き。おいしくなかったのは、イラの刺身。「おいしくなくても、ひとつの経験」として楽しむ姿勢と探求心が、解説版ひとつひとつに反映されています。
山中さん「魚を見たら、『食べられるのか』『おいしいか、おいしくないか』を考えます。私の展示はこれがマストです!」
「小さな水族館」ならでは?
シードーナツの敷地面積は約2800㎡と、全国的に見ても小規模な水族館。飼育・展示している生物の多くは、スタッフ自ら捕獲したものや、地域の漁師などが善意で分けてくれたものです。
日常的に漁業関係者と連絡を取り合う関係性が、料理や食の経験を積むきっかけにも繋がります。
なので、時にはこんなことも。
山中さん「漁師さんに『展示用のアナゴが欲しい』とお願いしたつもりが、言葉足らずで『アナゴが食べたい』と伝わってしまって。頂いた食材用のアナゴが生き返ることは、残念ながら無いので、家で何十匹と捌いて一週間くらい朝晩ずっとアナゴを食べていました」
その結果完成したのが、先ほどの「ご飯が進む」解説版だったのです。
実は、イルカトレーナーを目指して専門学校を卒業した山中さん。しかしその探求心を見込まれて現在の配属先に決まってからは、今まで知らなかった魚のことや、描いたことがなかったイラストを学び、好きな「食」と掛け合わせることで現在の展示を作り上げてきました。
山中さん「実際に『書いてあった方法で食べてみました』と言われたことがあります。ああ、それは良かったな。レシピを書いた甲斐があったなと思いました」
『おいしそう』なのは嬉しいこと
魚は「食べ物」として、「鑑賞用」として、「釣り」というアクティビティとして、生活の様々な面と結びつく身近な生き物。
『展示用の魚』が『食』のイメージと結びつくことは「他のスタッフにも抵抗感は低いのでは」と、山中さんは考えています。
山中さん「お客さんの会話は結構、スタッフに聞こえているんですよ。『食べることが書いてあるよ』『おいしそう』と聞こえると、意外とスタッフは喜んでいます。『おいしそう』ということは、一生懸命飼育していることが展示を通して伝わっているんだなと。元気な姿を見て、そう思ってもらえるなら個人的には嬉しいです」
そんな山中さんの今後の目標は「ふぐ調理師免許」の取得です。
次は、どんな魚料理で『おいしそう』と思ってもらおうか。山中さんの夢と展示は、今後も広がり続けます。
(おまけ)ちなみに…ウツボの味は?実際に食べてみた
「食べ方」の解説版を見ていると、やっぱり魚が食べたくなりました。特に気になったのは「海のギャング」、ウツボの味です。
そこで、シードーナツがある上天草市から天草市へと車で南下すること1時間半。天草諸島の最南端・牛深で、ウツボ加工品を販売する「中村商店」にやって来ました。
今回食べてみたのは、湯引きとから揚げです。
まずは湯引きから。地元のスーパーにも並んでいて「これを食べないと宴会が始まらない」という程、愛される味です。酢味噌をつけていただきます。
初めての食感だったので、擬音で表現してみました。
「ギュッ ムチ… モチモチ」
3単語に分けて解説すると、こんな感じです。
「ギュッ」(鶏ささみの様な、淡白で引き締まった身の食感です)
「ムチ…」(ウナギより厚いゼラチン質の皮を噛みしめます)
「モチモチ」(嚙み切った皮の歯ごたえを楽しみます)
続いてから揚げ。味付けはシンプルに塩コショウです。
こちらは「皮が厚めの鶏胸肉の唐揚げ」といったところでしょうか。衣と油をまとったことで、湯引きよりも身と皮に一体感が生まれています。
「どちらも、おいしい」というのが率直な感想でした。
店主の中村安雄さんによりますと、かつてウツボは革製品にするため捕獲していました。当初は廃棄されていた身を料理として活用し始めたところ、現在まで地域で愛される食材となったのです。
地元客や帰省者からの注文はもちろん、「牛深ではウツボが食べられる」と知った観光客が車やバイクで店を訪ねてきたり、「捌き方を教えて欲しい」と、遠路はるばる修業に来たりするといいます。
しかし乱獲や海水温の上昇で年々漁獲量が減っていて、値段の高騰も止まりません。
中村さんも、シードーナツのスタッフ達とはウツボのやり取りする間柄。厳しい現状で「展示を通してウツボのおいしさを知ってもらえると、嬉しいことだ」と話します。
もし水族館で「おいしそう」な発見をしたら、その土地で、その魚を実際に食べてみる。そんな経験も、一つの楽しみ方ではないでしょうか。
