2025年5月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお送りします。ビジネス部門の第3位は――。

▼第1位 「退職代行を使う人はカス」で大炎上…モームリに業界1位を奪われた、"元祖"創業者が明かす"敗北の理由"
▼第2位 34歳で開発した「一太郎」が大ヒットしたが…Windows95に敗北した女性が58歳で再び会社を立ち上げるまで
▼第3位 「日産復活」にはこれしかない…トヨタでもホンダでもない、「6708億円の赤字解消」のカギを握る自動車メーカー
▼第4位 なぜ吉野家は「並盛498円」を値上げしなかったのか…深刻な客離れを起こした「スシローとガスト」との決定的違い
▼第5位 割安な韓国車・中国車があるのに日本車ばかりがベストセラーになる…ASEAN地域で日本車が圧倒的人気のワケ

トランプ大統領が発動した米国輸入車への追加関税(25%)をめぐり、日本の自動車メーカーは岐路に立たされている。淑徳大学経営学部の雨宮寛二教授は「日産は2025年3月期の決算で最終損益が6708億円の赤字に陥った。2万人のリストラを計画しているが、十分とはいえない」という――。(後編/全2回)
写真提供=日刊工業新聞/共同通信社
日産自動車、2024年度決算説明会。写真は、質問に応じるイバン・エスピノーサ社長兼CEO=2025年5月13日、横浜市西区 - 写真提供=日刊工業新聞/共同通信社

■ホンダはなぜトヨタと逆の道を選んだのか

本田技研工業(ホンダ)は、タリフを理由に現地生産を増やしたり現地の工場を建てたりしないとするトヨタとは対象的なスタンスをとっています。

2025年3月期で見ると、ホンダは世界全体の約4割を占める142万台をアメリカで販売し、このうち7割にあたる約100万台を米国で生産しており、米国に輸入する約42万台のうちカナダからの輸入が約30万台と最も多くなっています。

そのため、アメリカで3割増産すれば、アメリカ販売分の約9割を現地で生産できるようになることから、今後2〜3年の間にサプライチェーンの再構築を図ることでタリフの影響分を抑える意向を示しています。

生産移管の対象となるのはカナダの工場で手がける多目的スポーツ車「CR-V」とセダン「シビック」で、両車種はすでにアメリカの工場で生産していることから、新たに生産ラインを設ける必要はなく、勤務形態を従来の2交代制から3交代制に代えたり、土日も工場を稼働させたりするなど、雇用を増やすことで対応が可能となります。

■メキシコ工場の小型SUVはどうなるか

生産移管の検討は、メキシコで生産する小型SUV「HR-V」にも及んでいます。ただ、カナダとは状況が異なり、同車種はアメリカで生産していないため、生産ラインを設けるなど新規投資が必要となりコスト精査を十分に行うことが求められます。他方、日本からの輸出に関してはアメリカに主力車を輸出していないことから当面は継続する意向です。

ホンダは、日本の自動車メーカーの中ではアメリカでの生産割合が最も高いことから、タリフの影響は競合より低いうえ、生産移管をするにしても、すでにアメリカで生産ラインを持っている車種が多いことから、移管によるコスト増を最小限に抑えることが可能となります。

日産自動車(日産)の状況は、トヨタやホンダとは大きく異なります。2025年3月期の決算で最終損益が6708億円の赤字に陥ったことから、“多重危機”への対応以前に、業績回復が最優先課題として経営に立ちはだかります。

2025年5月に発表された再建計画「Re-Nissan」では、2028年3月までに国内外にある7つの完成車工場を閉鎖することや、世界従業員数の15%に相当する2万人の削減などが盛り込まれ、構造改革を全社的に推進する意向が示されています。

■アメリカ市場という「頼れる稼ぎ頭」の罠

日産は、日米自動車摩擦後、アメリカでの現地化を積極的に進め販売を伸ばしたことから、アメリカ市場は収益性が高い稼ぎ頭の市場として位置づけるまでになりました。しかし、リーマンショックで米国の需要が減退すると一転して大幅な赤字に陥ることになります。

こうした米国偏重の収益構造から脱却するために、日産はその後、新興国市場の開拓を目指すことになりますが、急速な拡大路線が災いして過剰投資に陥り、品質管理の問題などが顕在化して、市場の開拓が十分に進みませんでした。

その結果、再度米国市場へと回帰することになります。なぜなら、米国市場は日産にとって高級車や大型車など採算性の高い車種が売れる頼れる市場だからです。ナカニシ自動車リサーチによれば、2024年3月期における日産の営業利益の北米比率は70%にまで達しています。

今回の構造改革の狙いは、縮小路線に転換することで、こうした拡大路線で生み出された高コスト体質から脱却することにありますが、必ずしも十分であるとは言えません。

■工場稼働率50%でも聖域は守れるか

イギリスの調査会社グローバルデータによると、2024年における日産の工場稼働率は、アメリカで57.7%、日本で56.7%、中国で45.3%となっています。これらの数値に鑑みれば、世界17カ所にある完成車工場を10カ所まで減らすことは理にかなっているといえます。

報道によると、国内の追浜工場と子会社・日産車体の湘南工場(いずれも神奈川県)の閉鎖が検討されていますが、日産は、2012年に追浜工場の一部生産ラインを休止して以降、工場削減や能力削減には手を付けず、国内工場は聖域であるとして守り続けてきたことから、その実行性が問われることになります。

他方、従業員の削減数は十分であるといえるのでしょうか。当然ながら、経営資源の削減は、厳格な経営管理による精査が伴うことから、戦略性の高い判断が求められることになりますが、統合協議中にホンダは日産に対して、業績回復には約13万人いる従業員のうち3分の1にあたる約4万人を削減する必要があると主張しています。

日産が本格的に再生の道を歩み出すためには、リストラの完遂力が問われることになりますが、一方で戦略パートナーとの強力な連携により投資効率を最大化していくことも必要不可欠となります。

■三菱の技術がついに花開くとき

ルノーや三菱自動車(三菱)など従来のパートナー企業とは、すでに商品群を補完して開発を進める意向を示しています。

具体的には、ルノーから小型車「マイクラ」のEVモデルを調達し欧州市場に投入するとともに、三菱とは協業に基づき、2025年度内にSUV「ローグ」のプラグインハイブリッド車(PHV)を米国市場に投入する予定で、特にPHVには三菱のコア技術が生かされる仕様になることから協業による強みがここへきてようやく発揮されることになります。

一方、知能化に向けた成長投資として鍵を握るのがホンダとの戦略パートナーシップで、ソフトウェア定義車両(SDV)の開発を協業して取り組むことで投資効率を高め、先行するトヨタのSDVプラットフォーム「Arene(アリーン)」に対抗する意向です。

こうした協業や連携から、日産が売れるクルマの開発を目指して商品ポートフォリオを再構築し、世界で低迷する販売をスピード感を持って回復していくという強い意思がうかがえます。

写真=iStock.com/jetcityimage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

■北九州のEV電池工場計画が消えた理由

タリフ影響への対応策については、従来日産はアメリカ工場での減産を示唆していましたが、これを撤回し生産体制を維持していく意向を示しています。あとは、メキシコから輸出される約30万台と日本から輸出される約12万台への対応が課題として残りますが、現状では、北米を最大限に活用していく姿勢を示しています。

その他では、電動化に向けた成長投資が抑制されています。日産は、2025年1月に北九州市で電気自動車(EV)向けの電池工場を建設するために自治体と立地協定を締結しましたが、この計画を断念しています。

日産にとって、2025年度は正念場となります。他の自動車メーカーはタリフの影響により現在の経営からプラスをどれだけ積み上げられるかに焦点を絞ることができますが、日産は、現在の経営をマイナスからゼロにリセットしたうえで、プラスを積み上げていかなければならないという極めて険しい道のりを辿ることになります。

タリフへの対応が優先されつつも、電動化や知能化に向けた成長投資も見据えていく必要があります。自動車メーカーにとって、2030年までの5年間は、電動化や知能化の設計をどれだけ確立できるか、また、そのための原資をどれだけ確保できるかが重要な課題となります。

■テスラやBYDに勝つために日本車がやるべきこと

電動化や知能化の設計は、これまでのエンジン車とは異なる設計が求められることになります。

エンジン車との最大の変更点は、モーターへと移行したことです。これに伴い動力源が複線化したことから、制御設計が車載OS(基本ソフト)を通じて全体最適化を図るセントラル方式へと移行しました。従来の部品ごとによる最適化とは大きく異なる点です。

そのため、設計の基本が大きく変わることになります。ハードウェア(ハード)とソフトウェア(ソフト)との間の設計干渉を最小限に抑えるために、車両の能力と限界が定まるHDV(ハードウェア・デファインド・ビークル)とプログラムにより性能や機能が柔軟に進化するSDVの設計が分離され、それぞれの方向性に沿って開発が進められています。

電動化と知能化の開発競争は、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の向上を主眼に置いていることから、AI(人工知能)や半導体といった先端技術との融合がどれだけうまく図れるかが勝敗の鍵を握ることになります。

電動車の開発から生産に至るまでには、10兆円規模のコストがかかると言われています。多くの自動車メーカーはその原資を確保するのが難しいことから、今後は協業や連携だけでなく、経営統合を視野に入れた業界再編の動きが活発化すると考えられます。

今という電動車の黎明期に、先行するテスラやBYDを捉えて、日本の自動車メーカーが“多重危機”に立ち向かいながらも電動車の開発手法をどれだけ体系化できるか、その力量が問われることになります。

(初公開日:2025年5月28日)

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雨宮 寛二(あめみや・かんじ)
淑徳大学経営学部教授
淑徳大学経営学部教授。ハーバード大学留学時代に情報通信の技術革新に刺激を受けたことから、長年、イノベーションやICTビジネスの競争戦略に関わる研究に携わり、企業のイノベーション研修や講演、記事連載、TVコメンテーターなどを務める。日本電信電話株式会社に入社後、中曽根康弘世界平和研究所などを経て現職。単著に『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮社)、『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』『サブスクリプション』(いずれもKADOKAWA)など多数。新著に『経営戦略論 戦略マネジメントの要諦』(勁草書房)がある。
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(淑徳大学経営学部教授 雨宮 寛二)